表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍王転生!! ~ぽてくて道中記~  作者: あんころ(餅)
一章「龍王様の御成り」
2/4

〔1〕 目覚めてビックリ

     〔1〕


(――――――ファッ!?)

 唐突に目が覚める。真っ暗闇の中にいる。

 だが目が見える。というか視覚じゃなくてもなんとなく周囲が把握できる。

 頭は石の地面に横たわっている。温度は低い。だが冷たいとは思わない。地底? 身体は細長くなっている。首から下に相当する大部分は水中に埋もれていてとぐろを巻いている……


(――って、なんぞこれっ!)

 身体が細長い。だがそれは全体としての比率を見た場合であって、太さそれ自体は人間の何倍もある。ならば全長は? そうほんの少し考えた途端、脳のどこかが高速で計算結果を弾き出してくる。

 解答、全長は二万メートル超。


(ハァァア!?)

 イミフ。意味不明だってばよ。二万mっておま直立したら雲海どころか成層圏までブチ抜きですかぃ。

 しかし、全身から入力されてくる多量の知覚情報がその全てを事実だと示していた。とんでもない情報量だが、この頭の神経さんは何てこともなくサクサクと軽やかに処理してしまう。


 てゆーか、ここはどこだ? そう考えた途端、今度は周辺地形に関する情報が思考に飛び込んでくる。


 ここは地下の大空洞で、底部は地底湖になっている。この身体は頭部だけを上段の岩棚めいた空間に突き入れている状態。その地上部には石造りの大城が建っている。

 城の北側には大山があり地底湖の中心部と上下で重なる。城の南へ下れば海がある。土地は全体的に楕円形で東西方向に横長、全周を海に囲われていることから大島あるいは小大陸であるようだ。

 大洋を隔てた東西と北の三方向にはそれぞれ大陸がある。この惑星の自転方向と直径、重力加速度および大気成分は地球と似ている。衛星は月に相当するものが一つありその公転と自転の速度は――。主恒星すなわち太陽との距離と光熱量および影響性は――、またそこから比較算出した当該惑星の公転速度と周期は――、他の同星系内惑星配置と公転運動軌道の予測および恒星系外の危険軌道小天体の捕捉および他星系に対する距離と位置と重力分布と運動ベクトルから算出される将来影響性と危険性の計算予測範囲は――――


(まて! まてまてまてまて、待てッ!!!)

 あまりの膨大な情報が次々と意識に飛び込んできたため、あわててシャットアウトする。

 おそろしいことに、頭脳の神経組織はなんの負荷も訴えておらず、楽々と処理を進めていた。だが結果を流し込まれる自らの意識の方が受け止めきれない。そのまま押し流されてしまいそうだった。


 もし今ので、意識が押し流されていたなら。この“自分という存在”は、いったいどうなっていたというのか?

 ゾッとする。気分は冷や汗満点だったが……この身体は汗などかかないようだ。


(なんなん。もう、なんなんスか……)

 とはいえ、今の体験を通して分かったことも多い。

 入力が走った情報の中に、この今の身体に関する情報も含まれていたのだ。

 いくぶんの恐怖とともに、慎重に整理を試みる。


 まず、外観は巨大な“龍”だ。細長い東洋型の、七つの宝球を集めると願いを叶えてくれる的なアレに似ている。体色というか鱗の色は全体的に翠玉色、つまりエメラルド色。頭部には立派な角も二対生えていて、そちらは黄玉色つまりトパーズらしき色合いで宝石のように透き通ってもいる。角の形状は鹿の角のように枝分かれしており雄々しくそびえる。瞳は金色のよう。

 なぜ自身の瞳の色まで分かるのか、なぜ光源一つない暗闇の中でしかも視線の通らぬ範囲まで分かるのか、まったく意味不明だったが何故か分かる。これもこの身体の知覚力らしい。


 ただ、頭部の突っ込まれている小部屋めいた空間(人体基準なら大広間サイズだろうけれど)こそ光源はないが、胴体が浸かっている方の大地底湖は妙な光り輝きを放っているようだった。といっても発光物質が混ざっているわけでもなく(分子単位でそこまで一瞬で分かってしまった……)、水全体と空間そのものが何らかの莫大なエナジーに満たされていてその余剰波動が光となって溢れているようだった。

 ていうかその莫大なエナジーを供給っつか放射してるのってこの身体じゃね? その気になれば全身光り輝かすことも出来そうなんですけど……。引くわ~……


(んっん、ごほん。それはともかく……)

 この身体には名前もあるようだった。それが分かる。「龍王バルダンディア」と言うらしい。

 簡単な能力スペックめいた情報まで脳裏に展開されている。


 龍王バルダンディア。力を司るものにして、多元宇宙移動生命体。その能力は絶大で、単体の生体能力として次元潜航や時空跳躍をも可能とする(超高速の計算能力はその余禄のようなもの)。幾多の世界を渡り歩き、時に大破壊をもたらし、時に壊れかけた世界を癒し、そして時には無害にただ眠るだけでもあった。

 世界によっては神如き龍神としても崇め奉られ、数多くの異名を持つ。

 いわく、天来の覇龍、始原なる龍神、深淵に眠れし大破壊龍、多次元並行存在、高次波動生命結像、第六識域具象体、すべてを飲み干すもの、世界の終わりを告げるもの、星を喰らうアギト。エトセトラエトセトラ。


(厨二パワー大全開だなぁオイっ!)

 思わずツッコミを入れざるを得ない。誰だってそーする、自分だってそーする。


 ともあれ、龍王バルダンディアはその身に莫大な力を蓄え、また生成する。それはいかなる力か。世界によっては魔力とも呼ばれ、闘気とも呼ばれ、プラーナとも呼ばれ、そして大いなる天地を巡る元気とも呼ばれる、それ。

 その力は宇宙の物理法則すらも超えて望む結果と事象を強制せしめる。すなわち、魔法だった。

 大魔法生命体、それが龍王バルダンディアであった。絶大なる力をもって、ほとんどどんな事象にも干渉しうる。惑星規模で破壊消滅をもたらすことなど序の口で、時間と空間を超え、死者を蘇らすことすら可能だった。おおよそ人の身から発想できるだろう事柄で叶わない望みはないと言い得るほどである。


 しかし、そんな龍王バルダンディアにも、ただ一つだけ力の及ばぬ領域があった。

 それは、心だ。龍王バルダンディアは強大な生命体であったが、しかしその身には主体たる心が宿っていなかった。そのため、心を解することなき龍王の力は、心に干渉することだけは埒外とした形で完成してしまっているのだった。


 とはいえ、ただ似たような結果をもたらすだけでいいのなら、間接的ではあるが出来る方法も多いのだが。例えば、人間相手であれば思考を読む程度のことはたやすい。表情や筋肉および発汗までも含めた不随意反応を把握し、神経の生化学的および電磁的反応を観測し、そして個々の言動パターンを統計分析すれば、人間ごときの思考内容を暴き出すなど造作なきこと。また、行動を誘導したければ知覚を騙して幻像を見せるなりしてもいい。

 ただし、心を直接支配したり、人格を直接書き換えたり、内心の思いに直接触れ合ったりといったことは、出来ないわけだ。


(とんでもない……テラチートっぷりだな)

 そんなことを考えていると、ふと意識の端に、小さなアイコンめいた明滅が、呼び出し用の鈴音のような響きとともに浮き上がってくる。


(んん? なんぞ……?)

 それは、ピピッ、と効果音(だろうか?)をともなって、視界の中央に展開されてきた。


 ――ピッ。再生待機メッセージが一件あります。再生しますか?


(おおお? これはひょっとすると……。てか何でもアリだなぁ)

 とりあえず再生するする。と、そう念じるとメッセージとやらに変化が生じた。


 ――ピッ。待機メッセージを再生します。

 >>>>やっほー! わしじゃよ、わしわし。さっきはゴンメー、まじゴンメー! いやぁおぬしの転生先にな、丁度よい肉体を捜したんじゃがタイミングわるく空きがなくってのぅ。この日この時この瞬間だと、その龍ちゃんの身体しかなかったんじゃよぉ。そんなわけで、その身体とその世界で第二の人生もとい龍生を満喫してくれい。おぬしの身体になった以上は龍の力も好きに使って構わぬから、なっ! そんじゃ達者でのぉ~……

 ――ピッ。メッセージの再生が終了しました。


(おぃぃぃィィイイイイイイイッ!!)

 おいおいおいおい、おい神さま! コラッ! もう神さまって直に言っちゃうけどもっ! いくらなんでもそれはないでしょーってゆーかもうケンカ売ってるの? ねぇそれケンカ売ってるでしょうもう。よろしいならば戦争だしちゃうの? なんなの死ぬの?


 ――ピッ。でもさぁホラ、たとえ新生児相手だったとしても魂の芽を滅して乗っ取るなんてまね、君も嫌でしょう?


 そりゃまぁそうですけど。それ言われちゃうと弱いけどさぁ……ってか! なに普通に会話成立させちゃってるの? 録音メッセじゃないのリアルタイム会話可能なのならちっとここ出てきて直で釈明してみ――


 ――ピピピッ! PSこのメッセージは自動的に消滅しますボーン!


 うわなんか意識の中でだけ衝撃きたっ!? 無駄に芸細かいなっ! てゆーかこんなことしてる余裕あるなら仕事しろよ……神さまっ!


 その憤懣が勢いよすぎたのか、意識だけでなくつい頭を突き上げての身じろぎも伴ってしまった。少し姿勢を変えてみた程度の動作だったが、その余波がもたらす結果は凄まじいものがあった。

 地盤が揺れた。ズゴォンッ! ズ……ドドドドドドドドド…………と、めっさ縦揺れ。おそらく島中を揺らす大きな地震となってしまったことだろう。ちょっとシャレになっていなかった。


(おおおおお。やっべやっべ)

 慌てて自粛する。力が強いと一口に言っても、この龍王バルダンディアの身体は桁が違った。うかつにクシャミでもしようものなら大陸の一つくらい消し飛ばしてしまいそうだった。

 下手に感情的になることからして危うい。力の制御には細心の注意を要するわけだが……かといって精密操作のために知覚力を拡張すると、こんどは先ほどのように自身の意識が保てそうにない。

 力の強大さに精神の規模が釣り合っていないのだろう。なにせ、元は「人間大」の意識と人格だ。それ以上の存在になどそうそう成れようはずもない。


(あるいは。そんな人間らしい視点を失った時こそ)

 力に呑まれて心身ともに“龍王”と化してしまう時かもしれない。そうなった時、おそらくは力を持てあますこともないのだろうが…………しかしそれは、もはやこの自分とは違った何かだろう。


 そんなことを考えながら、とりあえずは出来る範囲でと、力の扱い方の確認を始めた。






 それから、一刻(約2時間)少々も経ったころ。

 何か小型の生物が近づいてくる気配を察知した。この頭部の納まっている地下空間へ降りてきているようだった。ということは、地上の城からか。二足歩行。歩幅は狭め。体重は軽い。人間のようだが小柄で、これは子供か?

 こちらから近づく身動きは危険なため、あちらが近づいてくるのを待つことにする。


 十数分ほどして。バルダンディアの頭部が納まる地下空間、ちょうど顔面と視線の正面の方向に大扉があって、そこから大仰に錠前を外すような金属音が響いた後、扉がゆっくりと開かれていく。

 先ほどからの人物が扉を開けて入室してきたようだった。手にはランタンめいた灯明を持っている。


 その人物は声色高くもかわいらしい語調で、独り言のようにつぶやきを漏らしていた。


「んしょ……っと。さっきの地震、やっぱりバルダンディア様かなぁ。お目覚めになられたのかしら……?」

 そうした言葉をつぶやきながら、片手に持ったランタンを掲げて奥側(つまりバルダンディアの頭部がある方向)を照らそうとし、そして周囲を見渡そうと視線を左右へ配っている。


 その人物は、女性のようだった。というよりも子供のように見えるから、お嬢さんとでも呼ぶべきか。

 だがそんなことよりも何よりも。

 耳が。そのお嬢さんの耳は、長く、そして先細りしていて。それはよくあるファンタジー世界の森妖精族……一言でいえば、エルフのようであった。


(エルフっ娘きたぁ――――ッッ!!!)

 そんなコイツの雄叫びが、音にはならず轟いていた。のかもしれなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ