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序章「選択したものは」

「では、心を」

 突きつけられた選択に、そう答えた。すなわち――


 何か一つを持っていけるか与えられるとすれば、望むものはあるか。その問いに。


「ほう。心、と申したか?」

「はい。この身、この意志、この己の心一つを、持っていきたく存じます」


 ここは転生の門、その選択の間だそうだ。そう説明された。

 いきなりそんなことを言われてもわけが分からなかったが、目の前の人型らしき気配はまごうことなく偉大な存在で、いやが応にも悟らざるをえない。それほどの圧倒さがあった。

 ただ、門だの間だのと言ったところで、この場に見える物は何もなかったが……。薄明るい雲なり霧なりに包まれたような地平が、どこまでも果てなく広がっているだけだ。


「ふむ……。面白いことを申す男よの。いや、だからこそか……? まぁいい。本当に良いのだな? いかなる強大な力も、溢れるほどの財貨も、一つだけであれば望みうる選択だが」

「はい。今生を踏まえ、意味ある一切は、ここに宿っておりますれば」


「この選択がもたらすその一つこそが、転生先の異界において、おぬしの生死を分かつかもしれないとしても?」

「はい。元より、人はその魂を脅かす最たる絶望……孤独からは、産まれたその時点で既に救われていると。それを理解しておりますゆえ」


「ほう……」

 眼前の気配からは、感心するような面白がるような、そんな揶揄が伝わってくる。


「人は、二親より産まれくる生命いのちです。一人きりでは存在することすらできない。そうであるなら、今ここにある己、この意識こそが、命の交わりの証。たとえ無明の谷底に、自分一人だけで生きていたとしても……。心と心を直接、知覚と頭蓋の壁を越えて確かめ合うことができなかったとしても。孤独ということは、ないのだと」


 一息つくように間を切って、もう一言を添える。


「それを知っています。ですから、もしもあなた様が……真に偉大な、造物の主でいらっしゃるならば。わたしは、こう思います。人を地に生み落としたもう方は、その己が身の苦しみを子らに負わせるようなことは、しなかったのだろう、と」


「ふっ。ふ、さようか。その考えを本当に徹底できたならば、大したものだ。……まぁ、この場にいるのであるから、粗方は証されているようなものか」


「と、申されますと?」

「うむ。このような転生の儀、誰にでも行っているわけではない。特別な少数の者だけだ。なぜかと言うと、むろん選別という面もあるのだがな。最たる理由はそれ以前、死に際しても意識の形を保っていられる者が、ほとんどおらなんだがゆえよ」


 それはつまり、死ぬまさにその瞬間まで発狂せず、己の理性を手放さず、ということだろうか。


「そうだ。冷静に、己の死を直視して、受け入れた上でなお、な。だから突発的な事故などで自覚せぬまま死んでしまうのも駄目だ。身ごと意識も吹き飛んでしまうのでな」


「いま、内心の思考を?」

「この場に心の内も外もない。それだけのことだ。おぬしなら理解できよう」


 なるほど……。言われてみれば、心やら魂やらが剥き出しでいるようなものだ。さらに加えて神ごとき何か偉大な存在。全て悟られて当然であった。


「そういうことだ。では、持っていくものは“心”であると受理する。転生の儀を進めよう」

「お願い申し上げます」


 その場の、空間全体が光り輝き始める。あるいは、己の認識が光に包まれていっているのか。


「さてはて、おぬし先ほど、孤独への理解を語り示してみせたが……。果たして、幾千幾万の時の旅のかなたとなっても、どう言えようものかな」

「どれほど自信があるわけでもありませんが……。あなた様がもし、このような儀を務められている理由の一片にでも、己が隣に並びうる者を求めてのことであれば」


 転生、それが一つの生を超えてもなお成長を続けてみせろということならば。その意味とは。いかほどに遠大な道行きであったとしても。


「かなうなら。お求めに応えられるほどとなってみたい。と、そう思います」

「言いよるわ。ならば、いつか再び聞くかもしれぬその答え、楽しみにしていようぞ」


 視界が光に塗りつぶされていく……。いよいよその時と、意識を身構えて、備える。

 しばしの沈黙の果て――――





「あっ――」





 それが聞こえた瞬間、闇の底へ落ちていく。

 え? いまなんて言いました? あ、って? あ、ってそんな、神さまみたいなお方がなんかマズっちゃいましたぁ~~、みたいな、そんな。ねぇ? なにかの冗談スかねハッハッハ。


 だが答えは既に何もなく、ただひたすらに底なしの闇へと落ち続けていくだけだった。

「マジすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!?」




 こうして、そんなオチつきから始まったこの旅こそが、わたくしの異界転生談の始まりなのでございました。

 落下中だけにオチつきってね! って、うっさいわっ!


 ちゃんちゃん♪

 こんちばんわ! あんころ(餅)です。

 初めての方もお得意様も、どうぞよろしゅうお頼み申す!


 さて、当作品は、縦書きで作文したものを、投稿に際して横書き表示で見やすいだろう形へ改行空行を手直ししています。

 その関係上(それと作者が慣れていないためw)、おかしなところがあるかもしれません。もしお気づきになられた点がございましたら、お手数ですがご指摘願えますと大変助かります。


 また、当作品は、別途投稿している既存の作品を書くかたわら、息抜きや気分転換を兼ねて書いています。(既存の作品は重たげな文面が多いもので……)

 こちらの「龍王転生」は作品構想こそ半年以上前から練っていたもので思い入れもあるのですが、更新は不定期かつゆっくりになりそうです。どうかご容赦願います。


 以上、では以降のお話をお楽しみ頂けましたら、とても嬉しく存じます。

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