事実は幻より奇なり
西暦2200年―世界は進化の頂点にいた。
数百年前は環境問題により、地球は破滅を待つだけだった。
だが、某国の博士が環境問題を打開する発明に成功したことにより、地球の破滅は免れた。
そして現在、世界は止まる事無く進化を続けている。
西暦2200年―世界は機械で埋めつくされていた。
某国の博士が発明した機械は、空気中の気体を操作する装置、『空気調整機』。
これを全世界に設置する事で、環境問題によって設計出来なかった機械がどんどん生産されていき、発展途上国でも産業革命が次々と起こった。
西暦2200年―今や、機械によって実現不可能な事は少ない。
むしろ、殆どの事が実現可能なのである。
だが、人々は「実現可能」な「超常現象」に慣れ、生活自体は西暦2000年と変化していない。
西暦2200年―だが、『超常現象』を発生させる『機械』が『超常現象』を起こしたら、世界はどうなるか?
1章 事実は幻より奇なり
灯光学園
「・・・で、あるからして・・・この計算は2871になり、その数字を0.275で割ると・・・」
「・・・あー」
俺こと、竜崎秋汰は意識が朦朧としていた。
教師がすらすらと唱える念仏により、頭が自然と斜めに傾く。
その変化を、教師は見逃さなかった。
「竜崎っ!」
教師が放ったチョークは他の生徒たちの間をすり抜け、俺の頭部に直撃した。
「あいたぁっ!!」
俺はとっさの判断でチョークを投げ返した。
すると、そのチョークは次の瞬間、『黒板に突き刺さっていた』。
「はぁ・・・またやっちまった!」
サッカー部の活動が終わり、俺は帰路を歩いていた。
俺には昔から変な能力がある。
それは、物を投げる時の速度が他の人間と桁違いだという事だ。
野球をすればキャッチャーが吹っ飛び、ボール投げをすればボールが壁にめり込み、フリースローをすれば、ボールが10秒程落ちてこない。
ただ、いつでも馬鹿力な訳では無く、遠くに飛ばしたいと思えば思うほど、その威力も比例してしまう。
今日は無意識に飛んできたチョークを遠くまで放り投げようと思ったため、あのような結果になった。
「でも羨ましいなぁ。俺もそんな力が欲しいなぁ」
俺に横から話しかけてきたのは、クラスメートで友達の間宮博だ。
『ヒロ』と呼ばれ、俺とは正反対の頭脳を持つ美少年だ。
「欲しけりゃやるよ!こんな力!」
「じゃあ右手、貰うね?」
「おいおい!怖いわ!」
そう、俺の馬鹿力が発動するのは何故か右手のみなのだ。
左手でのボール投げの記録は、クラスで下から数えたほうが速いほど弱い。
「じゃ、シュータ、またねー」
「おう、また明日」
ヒロは別れを告げると、反対の道へ歩いていった。
ちなみに『シュータ』というのは俺の名前と、シューティングゲームが得意な人を指す『シューター』という言葉をかけた愛称だ。
確かにシューティングゲームなら自信はあるが、そこまで気に入っている愛称では無い。
「にしても、この町も機械ばっかだな」
俺の視界には、常に何かしらの機械がある。
巨大スクリーン、空気調整機、飛行機など、最先端技術で作られた機械で埋め尽くされている。
「珍しいな・・・ポストか」
メールが全世界に普及し、郵便局は利用者が減って大打撃を受けた。
だが、ポスト自体にメール機能を利用する事で、何とか郵便制度崩壊の危機は免れたのだ。
それでもポストの数は少なく、珍しかった。
と、俺がポストについて思考していた瞬間、目の前が黒色に染まった。
だが、俺がその現象を理解する前に、視界は明るくなった。
「(・・・何だ?今のは)」
俺にはほんの一瞬、全てが黒に染まった様に見えた。
が、それはあまりにも僅かな時間だったため、俺の記憶も曖昧になる。
「(気のせいか・・・ん?)」
そこで、俺はある異常事態に気が付いた。
さっきまで数人ほど道を歩いていたのだが、その人たちが一瞬にして消え去っている。
まるで突然世界から人がいなくなったような静けさに包まれた。
「な、何だ?どうなってんだ!?」
「・・・少年よ」
「!?」
その時、どこからともなく声が聞こえた。
だが、周りに人間の気配は無い。
「よく見ろ、ここだ」
「・・・はっ・・・!?」
明らかに、その声はポストから聞こえた。
その事に気が付いた次の瞬間、ポストが光を放った。
「うっ・・・?」
あまりにも眩しい光に目を瞑りながら、横目でポストを見ると、ポストから次々と腕、脚、顔が生えていき、やがて、ポストは人間の様な体つきになった。
「す、凄い・・・もしかしたら、これはイベントか何かか?」
「イベント・・・まぁ、そうだろうな」
「イベントって何のイベントだ?」
だが、ポストが発した次の言葉が俺に衝撃を与えた。
「貴様の死亡記念日、だ!」
「!?」
次の瞬間、人型のポストが高速で接近し、俺を殴り飛ばした。
「ぐはっ!?」
倒れた俺に、人型のポストはある物を俺に向けた。
それは・・・拳銃だった。
「なっ!?や、やめてくれ!?何だお前は!?」
「ククク・・・我は侵略する者、お前たちはもう、逃げられないのだよ・・・!」
「まるで意味が分からねぇ!」
俺は人型のポストが引き金を引くのと同時に体を起こし、弾丸は地面に突き刺さった。
そして俺は必死でその場から離れた。
「ククク、我から逃げられるかな?」
「逃げられるじゃねぇ!逃げなきゃダメなんだよ!」
俺は足の速さを利用し、裏路地に逃げ込んだ。
ここは非常に入り組んでいるため、そう簡単には見つからないだろう。
だが、不思議な事に、裏路地にも誰も人がいない。
「どうなってんだ・・・痛っ!」
突然、俺は何かにぶつかった。
だが、壁などは無く、道が続いているだけだった。
「?」
俺はおそるおそる手を伸ばすと、やはり何かにぶつかった。
よく近づいてみると、ガラスの様な壁が見えたのだ。
しかも、その壁はベルリンの壁の様に、長々と続いている。
「こんな壁、無かったよな・・・?」
「ククク、見つけたぞ」
「!?」
人型のポストは、既に俺の後ろに立っていた。
「く・・・!」
「ロックオン機能など、軽く搭載している。さて、そろそろ終わりだ」
人型のポストが俺に銃を向けた。
今度はもう、逃げ場が無い。
数秒後、俺は死ぬだろう。
だが、状況がうまく読み込めず、何も頭の中に入ってこない。
「死ね」
拳銃から、弾丸が放たれた。
俺はとっさに、その弾丸を手で受け止めようとした。
もちろん、手で弾丸が止まるわけも無く、俺の体にも風穴が開いて終わりだろう。
「・・・・」
「・・・・あれ?」
俺はおそるおそる目を開けた、俺は死んでいなかった。
弾丸は地面に落ちていたのだ。
それと同時に、もう1つの現象が起こった。
空から突然・・・少女が落ちてきたのだ。
落ちてきたというより、着地した、の方が近いだろうか。
「見つけたわ!フォトン!あなたたちの好きにはさせないわ!」
その少女は、俺より2歳ほど下の年齢だと推測した。
髪は金髪で、身長は俺の3分の2ほどしかない。
だが、その手には物騒な『マシンガン』が握られていた。
「クッ・・・なぜ結界内に侵入できる!?貴様・・・何者だ!?」
状況は分からないが、この状況は人型のポストにも予想外だという事は分かった。
「私?私の名前は、『リリー・エルレヴァイン』!第23都市防衛軍のリーダーよ」
「防衛軍・・・!成程、お前らは我を止めに来た、という訳か。だが・・・我に勝てるか!?
」
人型のポストが、拳銃を少女に向かって乱射した。
だが、少女は軽く攻撃を避けると、小型マシンガンを人型のポストに向け、乱射した。
「ほう、なかなかの威力だ。だが、これはどうだ?」
人型のポストが変形を行うと、体の中から銃口が伸びた。
「喰らうがいい!『ギフト・サービス』っ!」
次の瞬間、銃口から巨大なレーザーが放たれた。
だが、少女はレーザーを見て、逃げようとはしなかった。
「甘いわね、レーザーなんて戦隊モノだけで通用する世界よ?」
少女は剣で取り出し、その剣一本で、全ての攻撃を受け止めた。
「な、何だと!?」
「うらあぁ!」
少女が剣を大きく振ると、レーザーは全て別の方角に吹き飛んだ。
「さぁ、次はこっちの番よ!」
少女はマシンガンを置くと、剣だけで人型のポストに接近した。
「刀で飛び道具に勝てるというのか?」
人型のポストは銃口から弾丸を乱射したが、少女はまたしても軽く攻撃を避ける。
そしてついに、人型のポストに刀が届く位置まで接近した。
「くっ、『ギフト・サービス』!」
「甘いのよ!」
次の瞬間、少女は人型のポストの背後に立っていた。
「・・・ガ・・・?」
そして少女が刀をたたんだ瞬間、背後で大きな爆発音がした。
「ガァァァァッ!」
人型のポストは爆発し、ポストの面影は跡形も無くなった。
それと同時に、周囲に人が出現した。
どうやら、いつも通りの世界に戻ったようだ。
「・・・夢、だったのか?」
「全然違うわよ」
「あっ!?」
隣には、さっきの夢の様な世界の中にいた少女が立っていた。
「今のは現実よ。まぁ、立ち話も何だし、そこの喫茶店にでも入りましょう?」
「あ、はい」
少女とは初対面だが、女性と喫茶店に二人で入るのは初めてだ。
俺は少し意識しながら、店の中に入った。
「・・・さっきの奴は、『光学装機』・・・私たちは『フォトン』と呼んでいるわ」
「奴は一体何だったんだ!?ポストが突然変形して・・・」
「奴らは、意思を持った機械よ。機械の反乱者とでも言えばいいのかしら」
「でも、ポストにはあんな武器なんて搭載されてないはずじゃ?」
「そう。でも機械というのは元々は0と1の指令の集まりで、プログラムを淡々とこなして行く物だったのよ。でも、機械は進化したの」
「進化?」
「生物が進化するのと同じように、機械も自分を世界に最適化するため、変形という進化を得る。そして進化し、『反乱者』となった機械を『フォトン』と呼ぶわ」
「で、でも進化って言うのは何百年という長い年月をかけないと起きない事・・・でも、その話だと機械は数年で進化したことになりますよ!?」
「そうよ。おそらく・・・『フォトン』には親玉がいる。その親玉が機械の進化を促していると推測されているわ。私たち、『防衛軍』はその親玉を探しているのよ」
「・・・『防衛軍』っていうのは一体・・・?」
「『防衛軍』っていうのは、『フォトン』から世界を守る使命を持った軍隊よ。正確に言うと、私が所属しているのは『第23都市防衛軍』。この町の事よ」
「灯光町に、そんな軍隊があったのか・・・ああ、そういえば」
俺は注文したお茶を飲み干すと言った。
「奴が現れたとき、人が消えて、しかも透明な壁に閉じ込められたんだ。それは・・・?」
「ああ、『幻界』の事ね」
「ゲンカイ?」
「フォトンは『幻界』と呼ばれる別世界を作り出し、人間をそこへ飛ばすことが出来る。建物は同じだけど、生命体は飛ばされた人間と、フォトンしかいないわ」
「なるほど、『幻界』は透明の壁で封鎖されていて、出るにはフォトンを倒すしか無いって事か?」
「いいえ、貴方が『幻界』に閉じ込められた時、私はそこに侵入したのを覚えているかしら?」
「あ、あれはどうやったんだ!?」
「『幻界』と『現実』は生命体以外は全く同じ位置で、全く同じ動きをしている。いわば鏡よ。でも、フォトンは『現実』で変形する訳にはいかないから、そこで『幻界』と『現実』の矛盾が起こってしまうわ。『矛盾』が発生すると、2つの世界の境界が歪んでしまい、そこに『幻界』への入口が出来てしまうのよ」
「でも、『幻界』と『現実』の矛盾なんて見えるのか?分からないだろう?」
「簡単よ、フォトンの意思は『幻界』にあるから、この『強制発光銃』を使えば分かるわ」
少女は『強制発光銃』について説明を始めた。
何でも、『強制発光銃』を機械に放つと、どんな機械でも赤く発光してしまう様だ。
しかし、その機械がフォトンで、意思が『幻界』にある場合は、『機械』で無くなっているため、発光しない。
つまり、発光しなかった機械が、『幻界』に進入できる入口の様だ。
「まぁ、こんな所かしらね。さて・・・本題に入るわね」
「本題?」
「貴方・・・『防衛軍』に入る気は無いかしら?」
「『防衛軍』!?でも俺にはそんな力は・・・」
「問題ないわ。『防衛軍』の数は『フォトン』の数を下回っているわ。だから一人でも多くの兵士が必要になるのよ」
「・・・少し、考えさせてくれないか」
「そうね、分かったわ。一応住所は書いておくから、決心が付いたら来ればいいわ。それじゃ、私はここで」
そう言うと、少女は席を立った。
「あ、あの、エルレヴァインさん・・・」
「リリーでいいわ。何かしら?」
「命を救っていただいて、ありがとうございました!」
いつ言おうか迷っていたが、言わない訳にはいかなかった。
「ふふっ、『防衛軍』だもの」
そういい残すと、リリーは店を出て行った。
俺はリリーが残していった、住所がかかれたメモを見た。
「(防衛軍か・・・とりあえず、今日は家に帰ろう)」
俺は店を出て行こうとした。
しかし、店の店員が俺を止めた。
「お待ち下さい!」
「・・・何か?」
店員は俺に、1枚の紙を差し出した。
「こっ・・・これはっ・・・!」
それは請求書だった。
俺が頼んだ「ウーロンティー300円」の下に、「ハッピーパフェ590円」と書かれていた。
「さっきの方のお連れの方ですよね?合計890円お願いします」
「くそっ・・・!ハメられたああっ!」