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いかに生くべきか

「セレーネーの真意」を全面的に改稿したものです

……と、以上で回想はおわりだ。

セレーネーと交わした最後の会話が第1話で紹介したような内容で、それから半年以上がたってしまった。


「真の名」を教えあった次の日にとつぜん始まったセレーネーの態度の激変。

セレーネーの人柄からしたら、おれの「賢者」としての技量が信頼できなくなったのならば、そのように説明してくれるはずだ。それが、ゴミを捨てるかのように、わけも告げずに切り捨ててくるのはおかしい。


セレーネーが書いてくれた(ケラソス)の絵。

セレーネーが反故紙に書いた古代の英雄たちのラクガキを記念にもらっていたのだが、あるときカルパイをこぼしてよごしてしまった。もういちど何か描いてくれないか、と頼んだら、40分もかけて書き上げてくれたのが、この桜である。彩色された本物ソックリの桜の一輪と花びら一枚。

この時セレーネーがほんとうにおれを信頼してくれていたことは、ゆるぎがない。


それがあの日を境にいきなりゼロを通り越してマイナスの極地にまでいたってしまった。

この人が激しくおこった様子を見せたからには、実際に、本当に激しく怒っているに違いない。

自分に、何かそれだけの落ち度があるはず。


セレーネーから「真の名」を告げられたその時、自分がなにを話したのか?

この小説を書くために改めて思い出そうとしたら、奇怪なことになぜか脳に霞がかかったようになっていて、クッキリとは出てこないのであるが、

「ぼくのような者のいったいどのあたりを見込んでくれたのか?」

「ぼくがほしいのは、支え合うパートナーだ。君にはまだ何年もかかるな」

「ぼくが君の「賢者」にふさわしいか、じっくり時間をかけて観察してほしい」

そのようなことを話した記憶がある。


いまになってわかってきたけど、となると「次の日」ではなく、「真の名を教え合ったその日」のことであるな。

セレーネーを大変に失望させてしまったのは………。


こんなことを言ったのは、自分がダメ冒険者として10年も無為に過ごしていたという卑下や、「セレーネーは自分をとてつもなく過大評価しているのではないか」という不安があったとおもう。


しかしこれらは、セレーネーの、おれを「賢者」として誘うという判断や、「真の名」を伝えて信頼を示そうという決断に、疑問や不安をつきつけることではなかったか?セレーネーのおれへの評価や真心、信頼をぜんぜん信用していなかった。


「大成就者」級のクエストに挑戦し、それからさらに10年のキャリアを積んだ冒険者。そんな冒険者なら当然そなえていて当然な力量が、今の自分にはない。数年後に来る出撃の時。君の信頼に応えられるかどうか、とても不安なんだ。


君がおれを自分の「賢者」に選んでくれた選択は必要とされる喜び、「真の名」を知らせてくれたことは信頼される幸せをくれるものだ。これに疑問をもったり否定したりするつもりは全然なかった。あの時は、君がよせてくれた信頼の深さ・強さがまぶしすぎて、ただ不安だったんだ。


*********


学院では、有志により不定期で文芸誌が発行されており、古代の英雄たちの活躍を現代的にアレンジした物語や詩、小説などが掲載されている。セレーネーはここに短編・中編・長編の物語を載せている常連である。


あの日(第一話参照)から、数ヶ月後すぎたある日。

バックナンバーに載っているセレーネーの文章をなにげなくみていて、「まえがき」や「章のタイトル」などに、おれに対する呼びかけに思える文章や語句をいくつもみつけた。


セレーネーは、あの日からかなり過ぎてからも、まだおれを待っていてくれた。

あるいは試してくれていた。

おれはそれに応えられなかった。

あの日に見限られたと思い込み、ただ嘆くだけで無為に時を過ごした。


いまなすべきことは、すみやかに冒険者としての(おのれ)を立て直すこと。

不利なバトルで敗北が必至になった場合に、パーティメンバーの全員を生還させるだけの力量を身につけること。

それができたら、堂々と、君のパーティーの「賢者」にしてくれって自分からいえる。

その時、セレーネーがまた受け入れてくれるかどうかはわからない。

すでにとっくに最後の冒険へと旅だってしまっていることもありえる。


おれの手元には、セレーネーが精魂込めてかいてくれた(ケラソス)の絵がある。

この人が真心込めて書いてくれた、宝物だ。


もうとなりに戻れないとしても、セレーネーの幸せと冒険の成功を願おう。

そして、もしセレーネーが困っている場面にであったときには、力のかぎり支えになろう。

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