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敗残の日々とセレーネーとの出会い

前回でも述べたように、10年前、わたしは下っ端とはいえ「白の陣営」に属し、デュオニス打倒のミッションに挑戦し、無惨にも失敗した。それなのになぜデュオニスの本拠地であるシラクスの町でのうのうと暮らしているのか、その事情を以下に述べよう。


エンディングに到達して帰還した冒険者は、「成就者」(じょうじゅしゃ)の称号を獲得し、栄光の地位が約束されている。特に難易度の高いエンディングに到達できたものは「大成就者」(だい-じょうじゅしゃ)として尊崇をうける。前回もふれた【デュオニスの打倒】と【デュオニスを暗殺者から守る】という2種のクエストは、デュオニス王が暗黒の独裁者と化した時期からほどなく、セットで存在が知られはじめた「大成就者」級のクエストである。白の冒険者はソロパーティで2度、連合パーティで1度、前者に挑戦し、いずれも失敗した。彼らを妨害する側にまわった黒の冒険者たちは、「大成就者」の名とともに、デュオニスより多くの褒美をさずかり、シラクス政府の高官や高級顧問に取り立てられている。


冒険者たちの中には、難易度の低いクエストでエンディングをむかえ、「小成就者」になるよりは、大クエストに参加する機会を待って、「冒険者」のままでいるものも多い。また、この世界では、クエストに失敗してボロボロになってシラクスにもどってくる冒険者の姿はありふれた存在である。小エンディングのクエストは失敗してもパーティが全員無事帰還できるようなものも多く、そのような者たちは、けろっとして、次なる挑戦のため、訓練や仲間あつめにいそしんでいる。ただし白の陣営に加わった者はもはやお尋ね者であるので、クエストに失敗した生き残りは、通常は、町の周辺の森や農村に潜伏し、市内には足を踏み入れず、学院に戻ってくることもない。


私の場合は、コソコソしないで堂々と(正確には、意識朦朧(もうろう)として呆然と)町にもどったので、それがかえって良かったようだ。もういっさい何をやる気もわいてこなかったので、場末の宿屋で何ヶ月も無為に日々をすごした。その間に白の陣営をなのる使者から何度か誘いを受けたが、すべて断った。使者の何人か(あるいは全て?)はデュオニスのスパイだったはずである。やがて役立たずと思われたのか、当局が人畜無害の人間だと判断してくれたのか、けっきょく逮捕投獄されることもなく、政治がらみの接触がくることもなくなった。


恩師や、教授となった同期たちが、アイテムや錬金素材を切り売りしながら飲んだくれては寝るだけの私をみかねて、学院での仕事を斡旋(あっせん)してくれたことは前回でも述べた。学院は、もうすぐ学院から自立してミッションに取り組もうという優秀な院生たちに、給与を支払って初級・中級の院生たちに各種の知識や技術の指導を行わせているが、彼らと同じ扱いである。


私が属している「賢者」というクラスの場合、旅の間に自分が覚えたスキルや呪文の知識を整理して書物にまとめたなら、そのできばえに応じて、さらに2,3段階ランクが上の「招聘学者」(しょうへい-がくしゃ)の待遇を受けたり、場合によっては教授として招かれることすらできるはずである。しかしながら、そのような作業にとりくむ気力がまったくわいてこず、学院での待遇が院生と同格のアルバイト扱いなままであることも、どうでもよかった。


このようにして、自分の知識や技能を深めることもまとめることもせず、かつて白の陣営に下っ端の立場で参加したときから冒険者としてほとんど進歩しないまま10年間をすごした。


私が受け持つ院生の多くは、自分たちの役にたつ技能や知識をそれなりに持っているということで私の指導をいやがりもせず受けてくれているが、たんに学院のルーチンワーク、カリキュラム上、自動的に担当となった人としか見ていないはずである。「師」として、あるいはひととして尊敬をしてくれる人はなかったし、そのようなことを期待もしていなかった。


セレーネーはちがった。

シラクス郊外の森の中での実践演習を終えたある日、冒険者として、いつか最終ミッションのどれかに挑戦するときには、同じパーティーで「賢者」をつとめてくれないかと、さそってきたのである。


それまでミイラのように生きながら死んだような状態であったのが、一挙に蘇ったような気がした。

必要とされることは、なんと嬉しい、幸せなことか。

今の自分がもっている知識や技量は、セレーネーが初級・中級の院生である間なら十分に有益だけれども、上級段階以降で必要とされるものがいちぢるしく欠けている。「賢者」としての、また、冒険者としてのオノレをまずたてなおそう、と決意した。


セレーネーから「真の名」を示されるエピソードを、「賢者」に誘われてから10ヶ月ほど後に変更し、それにともないこのエピソードを次回に移動するよう変更しました。

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