第一章 二人の邂逅
切り裂くような音が、睡眠の淵にいた俺の意識を呼び覚ます。それと同時に、大きな振動が身を遅い、僅かに残っていた眠気を完全に吹き飛ばした。
周りを見れば、荷物を持って立ち上がり腰を伸ばす人や、さっさと列車から降りていく人が目についた。
どうやら、どこかの都市に着いたらしい。俺は壁に立てかけた刀に小さく呼びかけた。
「ここはどの都市だ?」
言って、俺は刀身と柄の間で輝く宝玉に眼を向ける。
「響都だ。聖都はまだまだだぞ」
空色の宝玉がゆらゆらと輝き、そう告げた。
「そうか。ありがとな」
物言う刀――カグラに礼を言い、俺はもう一眠りしようと眼を閉じようとして……
「悪いんだけど、ここ、良いかな?」
そんな声に、再び目を開ける事になった。
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「いやー今日は暑いね。ここまで走ってきたから、汗掻いちゃったよ」
動き出した列車の中、向かい合った席の真正面に座った男は、人懐っこそうな笑みを浮かべてそう言った。
年齢は……俺と同じ、19歳位だろうか。茶色の細い髪に、大きな猫目、薄い唇が特徴の、整った容姿をした男だった。
「これから、どこへ? 前の駅で降りなかったって事は、行先は王都か、聖都だよね」
手で顔を仰ぎながら、男はそう訊いてきた。大きな猫目は、しっかりと俺の眼を捉えている。
「……あぁ、そうか。まずは自己紹介だよね。俺はクルト・ハルティヒ。聖都に行くんだ。短い間かもしれないけど、よろしく」
俺が黙っていると、クルトと名乗った男は白い歯を薄い唇から零れさせ、右手を差し出してきた。
「…………響都の人間は、皆そんなに馴れ馴れしいのか?」
腕を組み、大きな猫目を見つめ返す。
クルトは行き場のなくなった手を空中で振ると、苦笑を浮かべる。
「いや、そうでもないよ。響都は四つある都市の中で、唯一の研究都市だからね。他人に興味のない人間が大半で、俺みたいなのは珍しい位だよ」
「そうか。なら、都市柄を守って黙っていてくれないか? 俺は、静かに寝ていたいんだよ」
クルトに向かってはっきりと告げ、俺は腰をイスに深く腰掛けて再び目を閉じた。
「……ねぇ」
無視だ。俺は早く寝たいんだよ。
「……ねぇって」
今度は声を掛けるだけでなく、肩を揺さぶられる。
いい加減鬱陶しくなってきた。
「ねぇってば」
「何だ…………!?」
頬を叩かれ、俺は怒りを籠めた声を唸りながら目を開けた。
「彼女、入れて欲しいってさ」
飄々とした態度で俺の怒りを受け流すと、クルトは通路側を指差した。
怒りで気付かなかったが、どうやら小柄な誰かが立っているらしい。
「ここ……良い?」
無表情な少女は、俺の隣を指差して、そう言った。