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鎖空  作者: 高橋と喪服
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1-5 僕の学園生活

『果てより出でる者』。

 神話の時代、世界の深淵より現れ、人、大地、自然といった、この世界に住むあらゆる生命を凌辱し尽くした伝説の存在。

 その正体は高度知的生命体とも、人の悪意の塊とも、神の遣いとも言われる、全てが謎に包まれた存在。

しかし、同時期にこの世界に誕生した大聖人グリゲウスの手によって地平の彼方へと封印され、その進撃は幕を閉じる。


その後、数を減らした人類はそれぞれ別の指導者の下、この『王冠型の大陸』に、四つの都市を作る。


一つは、『王都』。

大聖人グリゲウスの弟を初代の王に持つ、王制を敷く都市だ。

代々専制的な政治を行うも、国勢は整っており、特に、現王の『賢王アダルバード』の良政によって、かつてない程の繁栄を謳歌している。


 二つ目は、『響都』。

 『響奏学』を研究する科学都市。

 情報統制が敷かれ、内情は滅多に外に漏れる事がなく、その実態は不明。

 黒い噂の絶えない都市でもある。


 三つ目は、『帝都』。

 かつては世界一の軍事力を誇り、世界の覇権を握ろうとする野心的な都市であったが、十年前のクーデターにより、崩壊。

 現在、その地位は新しく出来た『アルマ自治区』に受け継がれている。


 四つ目は、『聖都』

 大聖人グリゲウスの故郷に都市を構え、グリゲウスを信仰する『グリゲウス教』が盛んである。

 また、教育にも力を入れ、その豊富な教育機関から、多くの都市から人が集まる場所でもある。

 その性質上、人口も都市の中で最も多い。






―――――――――――――――――






「なぁ、クロリス」


 世界史の授業中、隣のケントが気だるげな声で話しかけてきた。


「こんな授業に、何の意味があるんだろうなぁ」


 ケントとはもう五年の付き合いになるが、この言葉を聞くのは、もう何回目になるだろう。試験が近付く度に言ってる気がする。


「意味を知ってたら、君は勉強するのかい?」


「んー。それはまぁ、しないんだけどさぁ」


 言うと、ケントは机に突っ伏して、スヤスヤと寝息を立て始めた。

 僕は寝つきが悪いので、この直ぐに寝る事の出来る点だけは、羨ましく思う。


……羨ましいと思えるのはそこだけなのだが。


「ごめんね。クロリスくん。皆に迷惑掛かるから今は無理だけど。後でキツくブン殴っておくから」


 僕の左隣、つまりこの三人用の机でケントと対極の位置に居る人物、アンネが苛立ちを隠そうともしない顔でケントの後頭部を睨む。

 二人は所謂、幼馴染という間柄(しかも家は隣同士、今まで通った学校も同じ、幼い頃はお風呂にも一緒に入る筋金入りの)なのだが、僕にはどうもしっかり者の姉とだらしない弟に見えて仕方がない。


「……お手柔らかに」


 今は試験前という事もあり、皆に遠慮している様だが、一度こうと決めたアンネは絶対に動かない。特に、ケントに関しては。


 だから僕は曖昧に微笑んで、ノートを取る作業に戻る事にした。






――――――――――――――――






「よし! やっと終わった! クロリス、どっか寄って帰ろうぜ」


 何故ケイトはここまで切り替えが早いのだろう。

 ここまで来ると、一種の才能と言えるのでは?


「まぁ、それも良いけど……ケイトには、他に用事があるんじゃないかな?」


 鬼を凌駕して逆に神々しい表情をし、ケントの後ろで微笑んでいるアンネの方を見やる。


「用事? 用事って何だ? ってか、さっきからお前は何を見て――」


 僕の視線を追い、ケントはアンネの方を見る。


 一秒、二秒、三秒。


 それから、何処か清々しい顔を僕に向けて、


「明日は学園に来れないから、先生に言っておいてくれないか?」


 そう言った。


「分かった。お大事にね」


 笑顔で見送る。

 それ位しか出来ないし、してやる気もないから。


「ケント、行こうか?」


 アンネがケントの手を握る。

 それだけなら恋人同士のような温かな印象を受けるが、恋人というには二人の表情はかけ離れ過ぎていた。


 一人は愉悦、一人は諦観。

 まるで狼と子羊だ。


「…………うん」


 軽く微笑んで、ケントは連れ去られていった。

 最後まで、清々しい表情のままだった。


「……本当、お大事に」


 二日後……いや、三日後学園に来た時のケントを想い、僕はそう言わずにはいられなかった。






――――――――――――――――――






「せーんーぱーいー!」


「うわっ!」


 帰ろうと廊下を歩いていると、突然後ろから抱きつかる。

 背中に伸しかかるちいさな感触に、僕は心当たりのある後輩の名前をつぶやいた。


「――どうしたの? ニーナ」


「あー、先輩、女の子が抱きついてるっていうのに反応ないなんて失礼ですよー?」


 振り向くと、小鹿のように常に潤んだ瞳と、と軽くパーマのかかった金髪を肩口でそろえた髪型が特徴の可愛らしい少女――ニーナが、腰に手を当てて僕を睨んでいた。


「反応って、どんな反応すれば良かったの?」


「いつもはただの後輩と思っていた少女。しかし確かに育った彼女の体に、ドキマギ。急に意識しだした先輩は、恥ずかしさを隠すように怒れば、それで正解ですよー」


「……難しいよ、それ」


 それに、『確かに育って』ないしね、彼女の体は。


「あー、何か失礼な事考えてませんでした……って、それはまぁ良いや。先輩、どっか遊びに行きましょうよ! 今日は年に三回しか来ない列車が来て、安売りとか初めてる頃ですし、行くなら今日しかないですよ!」


 そう言えば、もうそんな時期か。

 この頃は聖剣祭に集中し過ぎていて、そんな事忘れてた。


「そうだなぁ……どうしようか」


 幸い、今日は剣術の師範が風邪のせいで道場が開かれない。

 時間はたっぷり有る。


「どうです? たまにはこのナイスバディ・ニーナと、甘いアバンチュールでも!」


「……そうだね、行こうか」


「さっすが先輩! そうと決まれゴーゴーです。早く行きましょう!」


 強く手を引かれ、共に屋内を抜ける。


 キラキラとしたニーナの表情を見ながら、僕は明日も良い日になると良いなぁ、と。

 そんな事を思った。


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