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月下の残響と、時を統べる者

 三十分足らず。

 戦場は、すでに沈黙していた。


 地面に転がる数十人の男たち。言うまでもなく暴走族だ。

 呻き声すら上がらない光景の中で、ナロウは軽く肩を回した。


「うん……だいぶ制御できてきたかな」


「凄い。本当に圧倒的だった」


 隣でクヨムが素直に感嘆する。

 結局、二人とも無傷。だが戦いの大半はナロウ一人で片付いていた。


「俺の為に来てくれたのに、ほとんどナロウさんが倒しちゃったね。……ありがとうと、ごめん」


「謝る必要はないさ。むしろ、ちょっと出しゃばりすぎた」


 そこでナロウは、言葉を切る。


「それに――いや、なんでもない」


 胸の奥に残る違和感。

 それは、確信へと変わりつつあった。


(クヨム……お前……)


 戦闘の最中。

 ナロウが一瞬だけ見せた隙。その背後に、死角から迫る影。


 間に合わない距離だった。

 そう判断した次の瞬間には、すでにクヨムがそこにいた。


 ――“移動した”としか言いようがない速度。


 そして。


 黄金に輝く瞳。

 空気そのものが押し潰されるような、圧倒的な気配。


 あの瞬間のクヨムは、クヨムであってクヨムではなかった。


 強者の“核”のようなものを、ナロウは確かに見た。


(あれは……なんだ?)


 だが本人に自覚はない。

 だからこそ、厄介だ。


 ナロウは小さく息を吐き、思考を切り替える。


「なあ、俺さ。前の世界でのお前を知らないし、出会ってまだ日も浅いけど――」


「うん?」


「なんか、たくましくなったよな」


「え、本当!?」


「ああ。強くもなってると思う」


 クヨムは嬉しそうに笑う。

 その無邪気さが、さっきの異質さと噛み合わない。


「まあ、とにかく――まだやる事は山ほどある」


 ナロウは拳を軽く差し出す。


「これからも頑張っていこうぜ」


「うん!」


 拳が軽く触れ合う。


 こうして暴走族との戦いは、

 確かな“収穫”を残して幕を閉じた。


 二人は肩を並べ、他愛もない話をしながら帰路につく。


 廃れた公園。倒れ伏す男たち。

 その上空、満月に一筋の雲がかかる。


 ――その影の中。


「……成長しておるな」


 冷徹な眼差しで見下ろす老人がいた。


 二人の変化を見届け、

 そして一つの決断を迫られていた。


 ※


 カチ、カチ、カチ。


 静寂の中で響く規則的な音。

 それはキーボードの打鍵音だ。


 七色に光るキーボード。

 爆速のロードを誇るハイスペックPC。


 机の上には菓子とジュースが乱雑に並び、

 生活感というより“戦場”に近い。


「ヒール遅い! 何見てんのじゃ! あっ――ばーか! ばーか!」


 その中心にいる少女――イザベラは、

 絶賛“黙々と”ゲームをプレイしていた。


「……くっ、クヨムめ」


 不満げに頬を膨らませる。


「始めたばかりのくせに、なんじゃあの装備は……!」


 少し前に知り合った少年、クヨム。

 なぜか彼に懐かれ、“弟子”扱いされている。


 ――いや、正確には。


(弟子が師匠を追い抜くのはどういう事じゃ……)


 最初は優越感に浸っていた。

 だが今では、その関係も微妙に崩れ始めている。


「……まあ、よいがのう」


 ぽつりと呟く。


「色々くれるし」


 そう。クヨムはやたらと貢いでくる。

 “感謝です”という名目で。


 一度は断った。

 だが二度目からは普通に受け取った。


(私は悪くない。可愛いからセーフじゃ)


 自称高いプライドは、軽やかに論破された。


「それより……」


 イザベラは目元を指で押さえる。


「ものもらいが治らんのは厄介じゃな……」


 視界に影響が出ている。

 本来なら見えるはずの“属性”が見えない。


 だが、それでも。


「ターゲットの場所は分かっておる」


 壁の向こうを見据える。


 そこにいるのは――ナロウ。

 そして、この世界に存在してはならない“異物”。


「……そろそろじゃな」


 イザベラの声が、わずかに低くなる。


 ふざけた空気が、静かに剥がれ落ちていく。


「どんな輩であれ、本来の世界へ返す」


 それが、“時の魔女”の役目。


 善悪は関係ない。


 ナロウが人を救っていようが、関係ない。

 本来いないはずの存在がいる――それ自体が歪み。


「正しい時間は、正しく流れねばならぬ」


 その言葉に、迷いはなかった。


「……転生者は、禁忌じゃ」


 小さく息を吐く。


 必要なのは、ただ一つ。


「康生の力……それだけあればよい」


 そこだけが明確なら、過程はどうでもいい。


 思考を打ち切ると、イザベラは再び画面へ向き直る。


「さて――続きじゃ」


 次の瞬間。


「だからヒール遅いって言っとるじゃろうが!!」


 部屋に怒声が響いた。


 だがその奥底で。


 運命は、確かに動き始めていた。

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