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師匠と弟子、そして復讐の約束

 家に帰宅したクヨムは、一つの大きな袋を抱えていた。


「それ、どうしたんだ?」


 同居人――というより、居候させてもらっている家主のナロウが玄関で出迎える。


「あ、これ? ゲーム機……じゃなくて、ゲーミングパソコンってやつ!」


 クヨムは袋を持ち上げて見せた。


「最近知り合った人がネトゲっていうのをやっててさ。俺もやってみようかなって」


「た、確かそれってめちゃくちゃ高くないか?」


 ナロウは袋をまじまじと見つめる。


 クヨムの金銭感覚が世間とズレている理由は二つある。


 一つは、元いた世界でクヨムが大金持ちだったこと。

 庶民とはまるで違う世界に住んでいた。


 そしてもう一つは、この世界に来てからハマった趣味のせいだ。


「けど今日もたくさん稼いできたんだ!」


 そう。


 クヨムは圧倒的な“勝ち運”を持っている。


 それは才能と言っていい。天性のものだ。


 座る台すべてにギャンブルの神が宿るかのように、必ず勝つ。


 師匠である女と出会ってから数日。

 一度もマイナスを出していない。


 その結果――


 師匠とは別ベクトルで店員にマークされているのだが、本人は全く気づいていない。


 現在、ナロウ宅はクヨムが来たことで少しずつ変化していた。


 まず食卓。


 クヨムがギャンブルで勝つことで資金が増える。

 だが二人ともお金の使い道が分からない。


 結果――


「とりあえず美味しいご飯食べよう」


 という結論に至り、最近ではそこそこ裕福な食生活になっていた。


 それから今日のように、パソコンなど高価な物も家に増えてきている。


「そっか……いや本当に凄いな」


 ナロウは苦笑する。


「俺は物欲とか全然ないし、大金持った人生とも無縁だったからさ。何に使えばいいか分からないわ」


「そんなに勝てるものなのか?」


「どうなんだろう。でも何か勝てるんだよね」


「へぇ……」


 ナロウは腕を組む。


「じゃあそのギャンブルを教えてる師匠って人も凄いのか?」


「もちろん!」


 クヨムは元気よく答えた。


「……けど、うーん。負け越してはいるかな」


「え?」


「多分俺に、負けた時のことを教えてくれてるんだと思う」


「……良い師匠じゃん」


「うん!」


 クヨムは嬉しそうに笑う。


「今度紹介するよ! ナロウさんに!」


「お、いいね」


 ナロウも笑った。


「俺も今度、学校で仲いいやつ紹介するぜ」


「わかった!」


 この世界に来た時、二人は孤独だった。


 だが今は違う。


 ナロウは学校で友達ができ、

 クヨムはナロウと師匠に出会った。


 少しずつ、この世界に居場所ができている。


 それがクヨムは嬉しかった。


「そうだ」


 ふとナロウが言う。


「そろそろケジメつけに行くか」


「ケジメ?」


「そう」


 ナロウはニヤリと笑った。


「お前をボコボコにした暴走族を倒しに行く」


「え!?」


 クヨムの身体がビクッと震える。


 それはまさにトラウマだった。


「だってさ」


 ナロウは腕を組む。


「このままモヤッとしてるの嫌だろ?」


「それに宿敵に挑んで勝つとか熱くない?」


「絶対そっちがメインでしょ!?」


 だがクヨムは理解していた。


 この世界には未知の敵がいる。


 いつか必ず、自分たちを襲う。


 その時――


 また震えて何も出来ないのは嫌だ。


 ナロウのためにも。


 自分のためにも。


 恐怖を少しでも乗り越えたい。


 クヨムは小さく震えながら頷いた。


「それに……修行だってしてるし」


「絶対なんとかなる」


 ナロウは笑った。


 まるで太陽のように眩しい笑顔だった。


 不思議だ。


 ナロウの笑顔を見ると、本当に出来る気がしてくる。


 ※


「じゃあ行ってくるからのう!」


「うーい」


「夜にはちゃんと帰ってくるからのう!」


「はーい」


「今日は絶対勝ち越してくるからのう!」


「……」


「居ないからって寂し――」


「わかったから早く行け!!!」


 漫画を読みながら聞こえてくる雑音。


 いや、ゴミの塊。


 ――ではなくイザベラの声を適当に流していた康生だったが、壊れたラジオのように止まらないのでついに怒鳴った。


「むぅ。じゃあの!」


 頬をぷくっと膨らませ、イザベラは家を出ていく。


 静寂。


 最近ようやく増えてきたこの時間に、康生は安堵する。


 いつも思うのだ。


 この時間が永遠に続けばいいと。


 眠って起きたら全部夢で、

 イザベラなんて存在は幻想だった――


 そんな風に。


 もちろん現実は無慈悲なので叶わないが。


「最近あいつ、外出多いな」


 昼は外出。

 夜はゲーム。


 相変わらずの廃人生活だが――


 少しだけ変わってきている気もする。


 ※


 師弟関係。


 それはロマンだ。


 アニメ、漫画、ゲーム。


 それらを嗜む者なら誰でも一度は憧れる。


 イザベラは最近、康生の漫画を読み漁っていた。


 そして知ってしまったのだ。


 レイリーとルフィ。

 自来也とナルト。

 オールマイトと出久。


 圧倒的な師弟関係というものを。


 そんな最中――


 出会ってしまった。


 一人の少年、クヨムに。


 出会いは最悪だった。


 だが結果オーライである。


 今ではイザベラは、師匠というポジションに酔いながら、

 育成ゲーム感覚で少年を鍛えている。


 武器はもちろん――


 ギャンブル。


「おはようございます! 師匠!」


「うむ。おはよう」


 開店数分前。


 店の先頭には、可愛らしい少年が立っていた。


 そして九十度のお辞儀。


 今日は新台導入の日。


 店の前にはそれなりの行列ができている。


 そんな中でこの光景。


 パチンコ店の前で、弟子が師匠に九十度のお辞儀。


 しかも目の下にクマがある美人。


 並んでいる客たちは呆然としていた。


「流石、一番を取っておるな」


「はい! もちろんです師匠!」


 朝から元気な挨拶。


 気分がいい。


 イザベラは鼻歌を歌いながら言った。


「ではそろそろ開戦と行くかのう」


「今日は二人で勝ちをもぎ取るぞ」


「はい! 師匠!」


 そして――


 パチンコ店の扉が開く。


 こうして今日もまた。


 二人の戦いが始まったのであった。

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