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凍てつく一撃と、神の視線

 一体何が起きているんだ――


 吹き飛ばされたクヨムは呆然とし、目を震わせながら目の前の光景を記憶に焼き付けることしかできなかった。


 突如現れたドロッとした人型の何か。魔物とも人間とも違う、得体の知れない存在。

 クヨムは足を震わせ、腰を抜かしてしまう。


「ど、ど、ど……」


「少し下がっててくれ、クヨム。俺がすぐに片付ける」


 ナロウの表情を見て、再び驚きが心に咲く。


 未知の相手に最初は僅かに震えていたはずなのに、今は違う。

 まるで戦闘を楽しむかのように、口角が上がっている。


「な、なんで」


「っふ。そりゃあ、生まれ変わったからだ。やるしかないでしょ――」


 ナロウは語った。元の世界での自分の姿、運命を、嘘なく話してくれたのだ。

 才能もなく、代わりの利く存在だった一般人が――今、未知の脅威に躊躇せず立ち向かっている。


 素人のクヨムでも気づく。ナロウは確実に**守りながら戦っている**。

 クヨムを、そしてクヨム以外の何かを守りつつ、派手さを抑えた戦い方をしているのだ。


 ――凄い。口に出してしまいそうだった。


 ナロウの姿は、クヨムの目にはヒーローそのものに映った。


 圧倒的に強い――手に入れた力とはこういうものなのか。


 震えが収まり、クヨムは拳に力を入れた。


「頑張れ!」


 ※


 ふ、ふ、ハハハハッ!


 心の中で芽生えた高揚感は確実に成長している。

 不安や恐怖を飲み込み、一輪の花のように咲き誇ろうとしていた。


 クヨムの蹴りは驚くほど鋭く、ドロドロした相手を吹き飛ばす。


「おっと、わりぃな。まだ力の制御が出来てないみたいだ」


 しかし物理では完全に止められないらしい。

 一体は痛がる素振りを見せつつも起き上がり、再びナロウを囲もうと動き出す。


「なら、これならどうだ」


 ナロウは手を開く。

 以前から感じていた、自分の内側に宿る何か――魔力らしきものを解放する決意をしたのだ。


 手に集中させた力が、体内を駆ける。

 脳とリンクする感覚を掴み、流れが形となる。


「お……」


「えっ……」


 一撃――。


 ナロウを中心に一瞬で咲いた氷の花。

 冷気が空間を支配し、ナロウとクヨム以外の時間を凍結させた。


 三体のドロドロは、何が起きたか把握する前に、完全に停止したのだ。


「さ、さむ!」


 クヨムの吐息は真っ白に変わる。

 部屋は瞬く間に白銀の世界となった。


 全てを凍らせた花の中心で立ち尽くすナロウも、**自分の力の凄まじさに驚いていた**。


「こりゃあ、明日からどうするかだな」


 腑抜けた言葉が出るほど、現実の力は想像を超えていた。


 幸い音は消えていたため、周囲の住人には気づかれていない。


 ナロウが息を吐き、指を鳴らすと凍っていた三体は粉々に砕ける。

 割れた窓から外の音が戻り、日常が少しずつ現実に戻る。


 窓はまるで日常と非日常の境界のように見えた。


 ナロウは窓に近寄る。


「そう言えば、奴らはどこから来たんだ」


 軽い気持ちで外を覗くと――


「え――」


 その光景はナロウを震えさせる。


 満月を背に、向かいの団地の屋上から覗く老人。

 その目は、初めて会った時の優しい目ではない。

 まるで親の仇を見つめるような、憎悪に満ちた瞳。


「神、様……?」


 ナロウが呟いた直後、神は姿を消した。


「ど、どうしたの、ナロウさん?」


 背後にクヨムが近寄る。


「いや、何でもない」


 言葉は漏れたが、ナロウの表情をクヨムは読み取れなかった。


 不穏が動き出す。

 日常が、確実に変わり始めたのだ。


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