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クズ魔女、ネトゲで王国を築く

「チッ。ヒーラー、何もたついておるのじゃ。さっさと回復して下がれ!」


「あーもう! 壁になることも出来ないのか、お前さんは!」


「負け犬の遠吠え乙wwwwww」


 ――――――。


「――う・る・せ・えええええええええええええ!!!!!!」


 自室に飛び交う騒音に等しい暴言に、夜な夜な起こされ続けていた康生は、とうとう我慢の限界を迎えた。

 獣のような咆哮で叫び散らかす。


「……」


 へんじがない。

 ただのしかばねのようだ。


 もちろんイザベラが屍になったわけではない。

 ただ単に、あのバカがイヤホンを装着しているせいで聞こえていないだけである。


 なので、もう一度。


 今度はイヤホンを外して、心の底から――というわけではなく、近所への配慮として**イザベラの鼓膜だけを狙う音量**に調整して叫んだ。


「うっるせぇ!!!」


「――うわああああああああああああ!!?!」


 背後で爆発でも起きたかのようにビクッと背中を震わせたイザベラは、勢いよく立ち上がろうとした。


 ――が。


 テーブルの角に思いっきり膝をぶつけた。


 結果。


 康生の足元でもだえ苦しんでいる。


 その様子を見て康生はニヤリと不敵に笑い、猫のように丸まっているイザベラの背中に足を置き、こねるように揺らした。


「お、お主。だ、誰にそのような侮辱行為をしておる?」


「お・ま・え・だ・よ。迷惑魔女さん」


「くっくっく……お、面白い!」


 痛みを堪えるように下唇を噛みながら見上げるイザベラは、額に汗を浮かべながらもニヤリと笑う。


 そして――


 パチン、と指を鳴らした。


 次の瞬間。


 イザベラの姿が消えた。


 同時に感じる背後の気配。


 そして――激痛。


 ベッドから落とされた康生は、ベッドの角に頭をぶつけ、今度は自分が猫のように丸まって頭を抱えていた。


 見事な逆転劇。


 そして現在、丸まっている康生の背中をイザベラが足でこねている。


「お、お前! 私情では時を止めないんじゃなかったのか!? あいつにバレる可能性だって――」


「にゃはは。**私情では使わない(使わないとは言っていない)**のじゃよ」


 イザベラは胸を張る。


「それに、あいつにバレる可能性はもう無い。天才的なセンスを持つ私だ。探知されずに力を使うくらい、すぐ改良できる。残念だったな! にゃははハハハ!!!」


「っく……」


 下唇を噛みながら見上げた康生は、そこで一つの異変に気付いた。


 視界が――狭い。


 いや、狭いというより。


 瞼の上に妙な違和感がある。


「お前さん――っぷ。っぷひゃひゃひゃひゃ!」


 突然、イザベラが腹を抱えて笑い転げた。


 状況が掴めない康生に、イザベラが鏡を差し出す。


 そこに映っていたのは――


「な、なんだこれ!? ものもらいじゃねーか!」


「クク。お前さんにも出来おったな! ざwまwあwなwいwのwう!」


 一生分の笑いの神が降りてきたかのように涙を流して笑うイザベラ。


 対して康生は、ひどく面倒くさそうな顔をした。


「お前、何かしたか?」


 同じ空間にいる以上、感染の可能性は考えていた。


 だが相手がイザベラだと、**意図的にやった可能性**が頭をよぎる。


「のうのうのう!」


 しかしイザベラは食い気味に否定する。


 康生は唸りながら睨みつけるが、証拠が無い以上どうにもならない。


 仕方なく負けを認めるしかなかった。


 その顔を見て、イザベラが満足そうにしていたのは――きっと気のせいではない。


「にしてもお前、また夜中にゲームかよ。明日休みだからいいけど、マジでうるさいぞ」


 最近、イザベラはゲーミングパソコンを購入し、ネトゲの世界にどっぷり浸かっている。


 彼女曰く、ゲームではなく**高みに行く修行**らしい。


 康生には一ミリも理解できない。


 いっそ『ゲームであって遊びではない』デスゲームにでも巻き込まれてくれれば静かになるのに――と心の中で思うが、言えば不毛な争いになるのでため息で誤魔化した。


「だって仕方ないのじゃよ! 熱いのじゃ!」


「語彙力」


 康生は呆れながら画面を覗く。


「ん? 前より装備整ってるな」


「おぉ! よく気づいたのう!」


 イザベラは嬉しそうに身を乗り出した。


「このフル装備、全部課金装備なのじゃ! このアイテムも、それも、あれも! ぜーんぶ課金によって手に入れた最強装備じゃ!」


 鼻息荒く自慢するイザベラ。


 だがその内容は、どう考えても褒められるものではない。


「なんじゃ、その目は」


「いや、まさかお前……稼いだ金、全部それに使ってるの?」


「一部は使ったが、ほとんど私は使ってないぞ」


「ならどうやって集めた!」


「にゃは! 聞くか?」


 イザベラは胸を張る。


「**貢いでもらったのじゃ! ジャジャジャジャーン!!!**」


「は?」


 結果、康生の口から出た言葉は一文字だけだった。


「ネトゲにはな、女プレイヤーは囲まれるという特性があるのじゃ」


 イザベラは得意げに語り出す。


「某ゲームでそれを学んだ私は、萌え声を猛特訓。そしてボイスチャットで話した」


 結果――


「男どもが群がってきて、**逆ハーレム王国完成**じゃ」


「……」


「まあ見返りを後回しにしすぎて王国は崩壊したのじゃがな! 今は一部の貢ぎプレイヤーだけ残っておる!」


「今、俺の中でお前のクズ値が天を貫いたぞ」


「な、なんでじゃ!?」


「見返りなしで物買わせるって、どう考えてもアウトだろ」


「待て。それは人間の摂理を否定することになるぞ?」


「は?」


 イザベラは腕を組んだ。


「世の中には男と女がいる。男は女を口説く。女はそれを待つ。基本はこれじゃ」


「いや違う」


「女は女として生まれ、ある程度のステータスがあれば勝ち組なのじゃ。甘い声でにゃーにゃー言って欲しい物をもらい、後はバイバイする女もおる」


「それを今堂々と言うな」


「ネットでやるか現実でやるかの違い。つまり女は男に甘える権利があるという事じゃ」


「それには首を縦に振れないな。というか今の発言、かなりの人数敵に回したぞ。社会的に抹殺されてくれ」


「補足じゃ!」


 イザベラは指を立てる。


「私は何も提供していない訳ではない! 数少ない女プレイヤーとして、男たちに癒しと希望を与えておるのじゃ!」


「……」


 康生は悟った。


 今まで勘違いしていた。


 イザベラは確かにクズだが、**まだ崖の縁にしがみついているクズ**だと思っていた。


 しかし違う。


 彼女は――


 **既に崖の下にいる。**


 そしてそのクズたちの頂点。


 キング・オブ・クズ。


 つまり救いようがないどころか、**クズのラスボス**だったのだ。


「な、なんじゃその哀れみの目は!?」


「いや別に。もう寝るわ。ほどほどにな」


「ちょ、お前さん!? その態度は逆に気になるんじゃが!?」


 背後で騒ぐイザベラの声を無視し、康生は布団に潜り込む。


 そしてそのまま、強制的に鼓膜をシャットダウンした。


 イザベラの声をBGMにしながら。


 康生は再び眠りに落ちた。


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