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白銀の影と、植えられた災い

 扉の外で二つの足音が離れて行く。

 壁に耳ありを体現したまま、イザベラはニヤリと笑みを零した。


「お前さんよ。ざまあない! 私をのけ者にしようとした罪は深いぞ」


 根に持ちやすい性格は伊達ではない。

 だが、彼女が言っていた“災い”とは、今まさに外へ追い出した件を指しているわけではなかった。


 少し時は戻る。


 イザベラの頭にたんこぶを作るという愚行を犯した康生は、意気揚々と二度寝に突入した。

 一方その間、イザベラは言葉通りグーグル先生の元へ向かい、“ものもらい”について調査。そこで「感染する」という事実を知る。


 そして彼女の行動力は、良くも悪くも一級品だった。


 深い眠りに落ちた康生へ忍び寄る白銀の魔女。

 自らの治癒が遅れることを覚悟で腫れた瞼に触れ、そして――菌が付着したその手で、康生の瞼をそっと撫でたのだ。


「ふふふ、これがお前さんにかかる災いじゃ!」


 絵本に出てくる魔女さながらの不気味な笑み。


 もっとも、康生が目を覚ました瞬間はさすがに肝を冷やした。

 しかも目薬を差し出され、心配されてしまった時には一瞬だけ罪悪感が芽生えたのも事実である。


 ……だが。


 その後の邪険な扱いを思い出し、


「うむ、ノーカンでよいな」


 と強引に帳消しにするのがイザベラ流だ。


「花を育てる気持ちで気長に待たせてもらうぞ」


 まさに外道。

 救いようのないクズである。


 ※


 天を仰げば、眩しすぎる太陽。

 曇天のような気分とは裏腹に、世界は晴れ渡っている。


 なぜ自分の心はこんなにもどんよりしているのに、空は無駄に輝いているのか。


 康生は人生で初めて、太陽を憎々しげに一瞥した。


「それで宮野。宮野! 聞いているか!?」


「え、ああ。はい」


 太陽の如く眩しく、夜空に散りばめられた星のようにキラキラした別世界の主人公――本堂ナロウが、真剣な顔で迫る。


 一方の康生は氷のように冷めた目。

 休日をゴミクズ魔女に破壊された男の顔である。


「最近、身近で変なこと起きていないか?」


「変なこと?」


 脳裏に浮かぶ二つの顔。


 『日常崩落の先駆者 イザベラ』

 『異世界主人公の眩しき男 ナロウ』


 危うく泡を吹きそうになりながら、


「ああ、ボチボチかな」


 と濁す。


 余計な関与は命取り。

 日常回帰こそ至上命題。


「そうか。ならいいけど」


「え、まさかそれ聞くために?」


「ああ。少し気になってな」


 ふぁ!?


 みぞおちを殴られたかのような衝撃。

 しょうもない理由で一人の学生の休日が犠牲になった。


「それで宮野が心配で。他のクラスメイトにも確認したいんだ」


「無理。俺、友だちいないから」


 自傷式カウンター。


「あ、あー」


 その同情の視線こそ最大の屈辱。


「何があったんだよッ!」


 ナロウは神妙な顔で視線を落とした。


「信じてもらえないと思うけど――この街に居てはいけない何かがいる気がするんだ」


 あ、終わった。


 テンプレ主人公が秘密を語る。

 一般人は巻き込まれる。

 そして“敵に襲われる係”へ。


「詳しくは言えないが、白銀の髪の女を見た」


「あ、」


 イザベラだ。


 真っ白な髪、雪のような肌。

 間違いなくそれだ。


「見かけたら連絡してくれ。俺を信じてほしい。ほら、俺たちって――友だちだろ?」


「え、そうなの?」


 いつの間にランクアップ。


「いずれ話す。今は聞かないでくれ」


「興味無いです」


 会話が成立しない。


「お前は良い奴だな。運命を感じるよ!」


 勝手に感じるな。


 だがナロウの言う“運命”は、ある意味で正しい。

 ただし、味方になる運命ではない。


 最後に満開の笑顔。


「せっかくの休みだ! 遊ぼうぜ!!」


 主人公は強い。

 主に押しが。


 康生の腕を掴み、未来へ走るように街へ消えていくナロウ。


 その背後で、康生の瞼に静かに芽吹き始めた“災い”の種は、まだ誰にも気づかれていなかった。


 ――この後めちゃくちゃ遊んだ。

 【康生の心情については敢えて触れない】

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