エピソード34:戦略顧問
ホルモリアの巨大古木──街を見下ろす谷の守護樹。その幹深く、円形の作戦室でウルモリカとユーフォリアが向き合っていた。
壁一面に古書、巻物、魔導遺物がずらり。大窓からは戦場の惨状が丸見えだ。灰色の煙柱が立ち上り、マーベルの洪水でできた河がうねり、ヴェンの土壁の残骸が転がる──。
ウルモリカがゆっくり歩き回る。魔力の柔らかな唸りが部屋に響く。「ドラゴナイトの攻撃、異常ね」落ち着いた声だが、言葉の端々に警戒が滲む。「領土狙いだけじゃないわ。ホルモリアの資源と権力の象徴をピンポイントで潰しに来た。……でも、この戦争の本当の火種はもっと深いところにある」
クッションの段に座り、戦場地図を広げたユーフォリアが髪をかき上げる。表情は曇天だ。「同意よ。ドラゴの『ウルフォラム・レイズ』遺物への反応、過剰すぎる。通常、あのクラスのドラゴナイトがこんな無謀に動くはずない。プライドか強欲? 違うわ。何かが引き金ね」
ウルモリカ頷く。「ストーヴィルの早期投入も怪しい。人型竜混血を主力が出そろう前にぶつけてきた──強防を想定したか、我らの弱点を探るため? でも、なぜ今なの?」
ユーフォリアの指が五鱗衆の飛行ルートをなぞる。捕縛点で止まる。「タイミングがロクジョウの血の帝国拡大とピッタリ。ホルモリア・フーモリア同盟を脅威視したのかしら。勢力集中が速すぎると見て、ドラゴのプライドと覇権喪失の恐怖が暴走させた?」
「誤報の可能性も」ウルモリカが椅子に腰掛け、指で肘掛けをトントン。「ドラゴナイトは階級通信依存よ。市場で最初に戦った下っ端の一言が盛られてドラゴ耳に入ったかも。完全な情報なく怒り爆発──ありえるわ」
ユーフォリアが地図端を握り、体を乗り出す。「なら外交の道はある。でも慎重に。ドラゴに弱みを見せず、強引とも取れぬよう。帝国安定、民間保護と並走で、非脅威停戦策をぶつけるわ」
ウルモリカが息を吐く。オーラの光が床に揺れる。「戦場も考慮。ロクジョウ部隊は交戦中──血糸で五鱗衆封じてるけど、散発ドラゴナイト残る。外交偏重で民パニック招けば終わり。停戦は『見える強さ』で裏打ちよ」
ユーフォリア目細め。「ドラゴ接近法は? 直談判危険。使者は弱腰扱い。力のデモ+統制外交が良さそう」
「その通り。てこが必要」ウルモリカ。「ロクジョウの血構築、ヴェンの土塞ぎ、マーベルの水支配──戦場優位よ。でもてこだけじゃ不十分。心理・象徴ジェスチャーも。不必要な死回避の善意をチラつかせて」
ユーフォリア眉寄せ。「帝国安定どうする? 停戦してもドラゴナイト王国を野放図にできない。市民動揺中、残兵に明確指示与え混乱封じねば」
ウルモリカ立ち上がり、空中投影地図へ。部隊・戦略点・民集をハイライト。「支配ゾーン設定よ。中立地、安全路、交戦線明確化。治療師を民間優先──基幹安全医療確保で人口安定、交渉集中可能」
ユーフォリアゆっくり頷く。「停戦内容は?」
「互恵提示」ウルモリカ声鋭く明快。「ドラゴナイトに強さと影響認めさせ、ホルモリア周辺権威を認識させる。一方的攻撃NG、資源協力必須。境界厳格、監視執行条項明記よ」
ユーフォリア地図でロクジョウ・ヴェン・マーベル指す。「タイミング鍵。戦場安定、五鱗封じ、士気低下──完全屈辱前よ。辱め強ければ停戦失敗確定」
ウルモリカ微微笑。「ええ。ロクジョウ連携不可欠。彼の血糸・血翼・戦場操り──てこと保証。条件微妙提示、強さ示し怒り煽らず」
部屋静まり。二人が均衡測る。ユーフォリア口開く。「民間協力? 市民有能でも戦時パニック不信急速。保護し外交準備の安心法必要」
ウルモリカ窓へ、谷見下ろす。マーベル濠形成、ヴェン固め、ロクジョウ空中制御。「視認性よ」静か。「市民に支配見せろ。生力じゃなく精密を。混沌でも指導部有能・規律・守護──士気爆上げ」
ユーフォリア後ろ凭れ決意顔。「統制よ。治療師民確。軍再編防攻。ロクジョウで脅威封前線安。確かば権威謙虚停戦提示」
ウルモリカ頷く。「contingencyも。ドラゴ拒否・欺瞞即──魔固定、血糸、元素壁。即脅威無力、拡大避け」
ユーフォリア息吐き、地図再見表情柔らか。「停戦後再防? 評議会? 監視協? 交易資源プロト?」
「正解」ウルモリカ。「構造なく一時。長期安定──両王国代表評議、交易路規制、境界魔協。協力誘・監視。帝国栄、再戦無」
ユーフォリア視線地平──煙薄れ。「計画了。脅封、民安、強示、停戦論、長期執協」
ウルモリカ目輝く。「迅速に。延長混沌増、交渉難。遅れリスク」
ユーフォリア起立頷。「軍治療使者備。ロクジョウヴェンマーベル通。統制協。五鱗民確後外交」
ウルモリカ肩手、安心仕草。「優位。正計画無血、ドラゴ理悟ホ安確」
ユーフォリア断頷。「了。即治療支。場帝安後ドラ直」
ウルモリカ大図再、移動交渉路なぞ。「数時間成否。精密規律先見──魔力同格武器。停弱非算──平和秩序掴」
二人の策士は長時間、統制と策を練り上げ準備を重ねた。
外では戦火が続き、潮流は我らの有利へと変わりつつあった。
五鱗衆を封じ、軍を再編、民を護る──ホルモリアは生存を超え、均衡を変える停戦執行の備えを整えていた。
戦場高く、ロクジョウ、ヴェン、マーベルが準備を進める──ウルモリカとユーフォリアの戦略に則り、次の一手が戦争の結末と新血帝国の安定を決するものだと知りつつ。




