エピソード15:廃棄物の基礎
ぼくは素早く飛び退いた。
霧が濃すぎて、自分がどれくらいの高さまで飛んだのかさえわからない!
くそっ!!
二人はどこだ?!
「ヴェン!!」
「マーベル!!」
気づかないうちに足が地面につき、その瞬間、数本の手がぼくの足と腕を掴むのを感じた。
ぼくは頭を下げて、深く息を吸い込む。
「……負けない」
「負けるもんか!!」
ぼくの体から血が伸び、猛烈な速さで空気を切り裂き始めた。
霧が晴れ始める。
これを作った張本人に一撃食らわせたのかな?
ぼくは拳を握りしめ、さらなる攻撃を繰り出した。
攻撃スキル:『ブラッド・スラッシュ』
攻撃スキル? そんなの聞いたことないけど……気に入った!
攻撃スキル:『多方向ブラッド・スラッシュ』
もうアップグレードされたのか?! 毎日どんどん強くなってるぞ!
霧がさらに晴れてきた。
目を細めて見ると、水が不規則に動き、人が吹き飛ばされているのが見えた。
ヴェンとマーベルも、もう動いてるんだね?
視界が開けたんだ、ぼくも混ざるとしよう。
「マーベル! ヴェン!」
二人がぼくに注目する。ぼくは回転しながら空中の彼らの元へたどり着き、血を使って伏兵たちを全員切り刻んだ。
二人の間に着地する。
「二人とも、大丈夫?」
「ああ、おかげで助かったよ!!」
「おう、こいつら追い払えたぜ!!」
そいつは良かった。
ぼくは素早く周囲を見渡した。
この村は決して無人じゃなかったんだ。連中は待ち伏せして、油断した者を捕らえようとしていたんだろう。
急に視界が錯覚みたいに歪み始めた。
感覚を失ったみたいに、バランスが保てない。
「ロクジョウ!!!」
「だめだ……ロクジョウ!」
二人がぼくの名前を叫んでる……?
誰かの温もりを感じて、ハッと目を開けた。
誰かがぼくを抱きかかえている。
ぼくの頭が少しがくりと落ちる。
これ、ちょっといいかも。久しぶりに感じる感覚だ。
……
……
……
んん……。
ゆっくりと目を開けると、視界がはっきりしてきた。
頭上の木々がすごく不気味に見える……本当に怖い……。
まだここに……?
まだあの森の中にいるんだ……この嫌な場所に……。
視界がさらにクリアになる。
マーベル?
ずっとぼくを抱えててくれたの?
起き上がろうとしたけれど、崩れ落ちた。
「なんで……なんで、起き上がれないんだ……?」
マーベルは心配そうな大人のような顔つきで、ぼくの口に無理やりストローを突っ込んできた。
「たぶん、体の中の糖分が足りないんだ。動くためのエネルギーが空っぽなんだよ。……たぶんだけどね」
「たぶん」かよ。
まあ、彼にそこまで詳しくなれっていうのも酷だよね。医者じゃないんだから。
彼はポーチから果物を取り出すと、口に突っ込まれたストローの中にその中身を流し込んだ。
「飲め」
ぼくは言われるがままに従った。なんだか妙に従順な気分で、少し落ち着かない。
でも、なぜか悪い気はしなかった。
ぼくはそのまま横になって、果実の絞り汁を飲んだ。めちゃくちゃ美味い!
右を見ると、ヴェンが地面から突き出した穴の中に数人を閉じ込めていた。
「ヴェン! ロクジョウが起きたぞ!」
ヴェンが急いで駆け寄ってきて、ぼくを子供扱いするように頭を撫でた。
ぼくは鋭い目でヴェンを睨みつけたあと、ぷいっと顔を上げて目を閉じた。
「……こんな真似、今回だけは見逃してあげるよ!」
マーベルとヴェンがクスクス笑い、ぼくもジュースを吸い続けながら、つい笑みをこぼした。
数分後……。
「ヴェン」
「捕虜をあそこの木の近くまで移動させて。それから、この場所を更地にして」
ヴェンは覆面の男たちが閉じ込められた穴を木のすぐ隣まで動かした。それから両腕を上げ、横に大きく広げるような動作をした。
土や砂、大地のうねりが家や建物を飲み込み、その一帯を廃墟のような更地へと変えていった。
ぼくは感心して見上げ、夜空を凝視しながらニヤリと口角を上げた。
「ねえ二人とも、ここを当分の間の拠点にしようよ!」
ヴェンとマーベルも同時に不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「ヴェン、小さな神殿を作って。5階建ての家くらいの大きさで、頼める?」
「お、おお……」
ヴェンは深く息を吐き、地面に座って精神を集中させた。
「ねえ、ロクジョウ」
「なに?」
マーベルが手を振った。
「ぼく、もう魔力が空っぽだよ。最近、水魔法を使いすぎたみたいだ」
ぼくは少し笑いながら溜息をついた。
「わかった。今はゆっくり休んで」
「はあ……やっと休める」
マーベルは地面に倒れ込み、くつろぎ始めた。
しばらくの間、何も起きなかった。
ぼくは目を閉じて座り続けているヴェンに注目した。
彼の方へ一歩踏み出そうとしたその時、地面が地響きを立て始めた。
ズズズ……ッ、ゴゴゴ……。
ぼくたちから5メートルほど離れた場所で地面が割れた。
そこから構造物が突き出し、まるでダンジョンのレベル45ボスみたいにそびえ立った。
神殿がせり上がるのと共にぼくの視線も上がり、月明かりの中で瞳を輝かせ、不敵な笑みを深く刻んだ。
神殿の動きが止まり、ヴェンが力尽きたように手を下ろした。
これは素晴らしい。
「新入りの準備をする時間だ!!」
「帝国への新しい協力者……新しい力だ!」
ぼくは前方へ視線を向け、一人の影を捉えた。
女の子だった。
ぼくたちを覗き見してるの?
とんでもない間違いを犯したね。
その少女は悪役なのだろうか?




