エピソード11:最初の試験
最初の試練は、ぼくたちから与えたものではなかった。
それは、世界の方からやってきた。
その日の午後、学校はいつもの喧騒に包まれていた。生徒たちの笑い声、遠くで魔法を放つ音、教室のドアが開閉するかすかな音。
ヴェン、マーベル、そしてぼくの三人は廊下を一緒に歩いていた。目立つような歩き方ではなかったが、注意深い者が見れば、ぼくたちが「一体」となって動いていることが伝わるような、そんな歩調だった。
左にヴェン。
右にマーベル。
そして、真ん中にぼく。
最初の兆候は、水魔法部門のそばを通りかかった時に現れた。
生徒のグループがそこに立ち、大声で言い争っていた。
そのうちの一人が、マーベルを指差した。
「あいつ、水の出力が強すぎるんだ。公平じゃないよ」
マーベルの表情は変わらなかった。
立ち止まることも。
言葉を返すことも。
彼はただ歩き続けた。
けれど、ぼくは見逃さなかった。彼の指先がわずかに強張ったのを。
そして、その瞳が冷静なままだったのを。
いいぞ。
彼は「雑音」を無視することを学んでいる。
すべての雑音が等価なわけじゃない。
ある雑音はただの嫉妬だ。
ある雑音は本物の脅威だ。
その違いを見分けられるなら、彼はすでに成長している。
ヴェンが彼をちらりと見、それからぼくを見た。
ぼくは小さく頷いた。
まだ反応する必要はない。
ぼくたちは進み続けた。
本当の試練が始まったのは、その日の後半だった。
ぼくたちは実習場で、水魔法クラスの訓練を眺めていた。
指導員がシンプルな課題を出していた。障害物コースを移動しながら、一定の水流を維持するというものだ。
ほとんどの生徒が苦戦していた。
最初の壁に水が当たった瞬間に、制御を失ってしまう。
二つ目の壁。
三つ目。
マーベルは腕を組んで、静かにそれを見守っていた。
隣で柱に寄りかかっていたヴェンが、ぼくに聞いた。
「あいつ、何か言うと思うか?」
「さあね」
ぼくは期待はしていなかった。
けれど、準備はできていた。
喧騒の中に指導員の声が響いた。
「タキシン! 次はお前だ」
マーベルは躊躇なく前に歩み出た。
他の生徒たちが注目する。
そこには嫉妬があり。
好奇心もあった。
マーベルがポジションにつき、手を上げた。
水が応える。
それは単なる「流れ」を形成したのではない。
それは一本の、固く制御された「線」となり、生き物のように障害物を縫って進んだ。
指導員が瞬きをする。
生徒たちが凍りつく。
一瞬、実習場が静まり返った。
その障害物コースは、難しく作られているはずだった。
大抵の生徒にとっては不可能。
けれどマーベルにとっては、ただの一本の線に過ぎなかった。
彼は数秒でそれを終えた。
水が収まる。
クラスはまだ呆然としていた。
「面白いね」ぼくは静かに言った。
ヴェンが頷く。
「ああ」
マーベルは短くぼくたちを振り返ったが、その視線はすぐに水へと戻った。
指導員が、鋭く、明快に一度だけ手を叩いた。
「いい制御だ」彼は言った。「非常によい」
それだけだった。
それ以上の称賛も、注目もなかった。
マーベルがこちらに戻ってくる。その歩き方は以前とは変わっていた。
以前の彼は「慎重」だった。
今の彼は「確信」を持っている。
それが最初の、本当の兆候だった。
試練は、彼自身の内側にあったのだ。
世界が彼を測り。
世界が反応した。
そして彼は、毅然と立ち続けてみせた。
その日の夜、ぼくたちは心海さんの家に集まった。
空気感は違っていた。
張り詰めているわけではなく。
弛緩しているわけでもない。
均衡が取れていた。
彼女はリビングに茶を運び、それを置いた。
「三人とも、前より厳しく訓練してるみたいね。見てればわかるわ」
ヴェン、マーベル、そしてぼくは顔を見合わせた。
「そうだよ」ぼくは言った。
「なら、無理はしすぎないこと」彼女は言った。「一人で戦ってるわけじゃないんだから。力だけがすべてじゃないわよ」
マーベルはお茶を見つめ、それから彼女を見た。
「ありがとうございます」彼は静かに言った。
彼女は瞬きをし、それからかすかに微笑んだ。
「そんなにかしこまらないで、マーベル。あなたももう、この家の一員なんだから」
彼が彼女を、単なる教師以上の存在として見たのは、それが初めてだった。
いい傾向だ。
彼は自分がここに属していると感じ始めている。
誰かに言われたからじゃない。
彼自身がそれを選んだからだ。
その夜遅く、ぼくは部屋でヴェンとマーベルを隣に座らせていた。
テーブルには甘いものが並び、その糖分はぼくの血流を安定させるためにすでに消費されていた。
「強くなったな」ヴェンがマーベルに言った。「今日のは凄かったぞ」
マーベルは一瞬照れたような顔をしたが、やがて頷いた。
「ああ。なんていうか……本当に『制御』できている感覚があったんだ」
「それが重要なんだよ」ぼくは言った。「力じゃなく、制御だ」
ヴェンが笑う。
「お前はもう、それを手に入れたんだな」
マーベルはぼくを見、それからぼくが静かに動かし続けている血の糸を見た。ぼくは手を使わずに、それでテーブルの上のメモを整理していた。
「あんたもだろ」彼は言った。「前より速くなってる」
ぼくは首をかしげた。
「当然だよ」
最初の誓約が、何かを始動させた。
最初の絆が形成された。
最初の試練を乗り越えた。
さあ、次のステップだ。
ぼくは手を組んだ。
「準備はいいよ」ぼくは言った。「帝国の、最初の礎石は据えられた」
ヴェンが瞬きをする。
「もうか?」
「ああ」ぼくは言った。「世界は動いている。学校は注視し、王国は待っている」
マーベルは再び、ぼくたち三人の顔を見た。
そしてゆっくりと、本当にゆっくりと、彼は微笑んだ。
「なら、無駄にはできないな」
夜は静かなままだった。
けれど、未来はそうではない。
最初の試練は終わった。
そして、次の挑戦が始まろうとしていた。




