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エピソード10:第一の盟約

次にマーベルに会ったとき、ぼくたちの間の空気は変わっていた。

劇的ではない。

あからさまというわけでもない。

けれど、十分だった。

彼はもう、ぼくを他人を見るような目では見ていなかった。

いや、他人ではない。

もう少しだけ、こちらに踏み込む決意をした者の目だ。


放課後、学校の水魔法訓練場で彼を見つけた。

日は沈み始め、空は柔らかなオレンジ色と淡い青が重なり合っていた。

隣を歩くヴェンが、静かにぼくに尋ねる。

「準備はいいか?」

「いつでも」


マーベルから数歩離れたところで足を止めた。

水辺に立ったぼくたちに、彼が顔を上げた。

「六条」

「マーベル」


計画から切り出したわけじゃない。

まずは単純なことから始めた。

「水の制御、上手くなったね」

彼は瞬きをした。

「……見ていたのか」

「もちろんだよ」


彼はプールに目をやり、それからぼくを見返した。

「ああ」と彼は言った。「訓練の量を増やしたんだ。いくつか新しいことも試してみた」

「いいことだね」


彼は少しためらってから、こう尋ねてきた。

「……そもそも、どうしてそんなに水にこだわるんだ?」

ぼくは首をかしげた。

「血に似ているからだよ」


マーベルの目が鋭くなった。

「血に似ている?」

「ああ」とぼくは言った。「同じじゃない。でも、似ている。流れ、形を変えることができ、何か重要なものを運ぶために使うこともできる」


彼は一瞬、ぼくを凝視した。

やがて、ゆっくりと理解が追いついたようだ。

「自分の魔法に似ていると思っているんだな」

ぼくはニヤリと笑った。

「当然だろ」


反応があった。

言葉ではない。

目に見える変化だ。

彼の姿勢が変わった。

ほんの少しだけ。

いいぞ。


「血があんたの道具なら」と彼は言った。「水は俺の道具だ」

「その通り」


彼は再び水に目をやり、それからぼくを見た。

「それで、俺にこんな話をすることに何の意味がある?」

ぼくは一歩近づいた。

「意味は、ぼくたちがここではただの生徒じゃないってことさ」


ヴェンは黙って見守っていた。

これから何が起きるか分かっているんだ。


「ぼくたちの進む道は同じ方向を向いている」とぼくは言った。「君は強くなりたい。自分を理解してくれる仲間が欲しい。そして、誰にも利用されたくないはずだ」

マーベルは目を細めた。

「ああ。間違いじゃない」

「なら、それを公式なものにしよう」


彼はぼくをじっと見た。

「公式に……どうやって?」


ぼくは袖から小さな器を取り出した。

空だ。

まだ、ね。


「血だ」

マーベルが凍りついた。

「……血?」


ぼくは頷いた。

「『忠誠』なんて言葉、普通は軽々しく使わない。もしこれをやるなら、正しくやるべきだ」

ヴェンは注意深く見守っていたが、動かなかった。


マーベルの視線がぼくと器、そして水の間を往復した。

空気が重くなる。

「……俺は血を飲むような趣味はないぞ」ようやく彼はそう言った。

「もちろんだよ」とぼくは返した。「ぼくもそんな趣味はない」


ぼくは指先から一滴、器の中に血を落とした。

鮮やかな赤が、鋭く広がっていく。

「たった一滴だ」ぼくは言った。「象徴だよ」


彼はそれを見つめた。

それから、ゆっくりとぼくを見た。

「あんた、本気なんだな」

「もちろんだよ」


ぼくは器を差し出した。

マーベルは躊躇した。

今、この瞬間だ。

彼は踏みとどまることもできる。

「ノー」と言うことも。

立ち去ることも。

もしそうしたとしても、それは受け入れられることだ。


だが、もし彼が残るなら……。

それは意味を持つ。


ついに、彼は器を受け取った。

手は震えていない。

彼はその一滴を見つめ、それからぼくを見た。

「これでどうやって忠誠を証明するんだ?」

「関心を証明するんだよ」とぼくは言った。「本物の何かに縛られるという考えを、君が恐れていないことを証明するのさ」


彼は小さく息を吐いた。

それから、器を唇に寄せた。

飲むのではない。

ただ、味わうだけ。

触れるだけだ。


彼の唇が一滴に触れた瞬間、ぼくたちの間の空気が変わった。

背後の水面が、勝手に波紋を描いたように見えた。

上空の空がわずかに暗くなる。

世界が変わったわけではない。

けれど、世界の中にある「何か」が変わった。


彼は器を置いた。

得意げでもなく、勝ち誇るわけでもない。

「わかった」と彼は言った。「あんたに付いていく」


ぼくは微笑んだ。

「いいよ」


ヴェンが前に踏み出した。

「これで三人だな」

「三人だ」とぼくは繰り返した。


六条ロクジョウ

ヴェン。

マーベル。

同じ思想を持つ三つの欠片。

同じいしずえを支える三つの石。


最初の正式な誓約は、騒がしいものではなかった。

劇的でもなかった。

静かで。

深く。

本物だった。


マーベルはぼくたちを見、それから背後の水を見た。

「俺は利用されない。あんたに付いていくのは、自分自身に従うためだ」

「もちろんだ」とぼくは言った。


「じゃあ、行こう」

ヴェンがニヤリと笑う。

「どこへ?」

「前へ」


ぼくたち三人は、必要以上に長くそこに立ち尽くしていた。

水が動き。

空が移ろい。

地面は揺るぎない。


けれど、未来はすでに変わり始めていた。


最初の契約は交わされた。

最初の一滴は落ちた。

帝国の最初の糸が結ばれたんだ。


あとは、後に続くのみ。

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