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静かに始まる孤立

次の日の朝、教室に入ると、

白川澪の席の上に“何か”が置かれていた。


小さなメモ紙。


淡いピンク色のメモに、丸い字でこう書かれていた。


「机の上、もっときれいにしなよ。

目立ってるよ?」


澪は目を瞬かせた。


(……目立ってる? 私が……?)


自分が“目立つ”など、

澪にとっては想像すらできない言葉だった。


机の上を見回しても、散らかっていない。

ノートも、筆箱も、きれいに揃っている。


ただ、空気が少しだけ冷たい。


そこへ、数人の女子が通り過ぎながら、

わざと小声で話すのが聞こえた。


「ねぇ、昨日も白川さん、佐久間くんに助けられてなかった?」

「そうそう、“守られてる”アピール?」

「ちょっと……ウケるよね」


澪の指が震える。


(ち、違う……助けてもらったけど……

私がよくないから……)


なぜか胸が痛い。

息が浅くなる。


そんなとき、後ろの席から声がした。


「白川さん、おはよう。」


佐久間遥斗だった。


澪はびくっとして振り返る。


「お、おはよう……」


「今日、なんかあった? 顔、暗いよ」


その優しい声に、澪は慌てて笑顔を作った。


「な、なんでもないよ! 全然……大丈夫!」


大丈夫じゃない。


でも、言えない。

言ったところで迷惑になると思ってしまう。


遥斗は澪の机の上のメモに気づき、眉を寄せた。


「……これ、誰が?」


「えっ!? あっ、う、うん……

きっと、私の片付けが足りなかったんだと思う……」


「いや、それは──」


遥斗が言いかけたとき。


コンッ。


澪の机の脚に、誰かの足が当たった。

わざとらしいほど強く。


机が揺れ、ノートが床に落ちた。


「わっ、ごめ〜ん。

そこにあるって気づかなかった〜」


村上美桜が、薄く笑いながら言う。


後ろには佐野梓と江藤莉奈が控えている。


完全に“狙っている”行動だった。


澪は慌ててしゃがみ込み、ノートを拾い上げた。


「い、いえ……! 私が……

机をちゃんと寄せてなかったから……!」


美桜は鼻で笑う。


「また“自分のせい”?

ほんと便利だよね、その性格」


梓も笑う。


「怒らないし、反論しないし……」


莉奈も続ける。


「なんか、逆に怖くない? いつもニコニコしてて」


澪の胸がズキッと痛んだ。


何もしていないのに。

ただ普通に座っていたのに。


なのに──

自分が責められている。


遥斗が小さく息を吸い、

今にも何かを言いそうになる。


しかし澪は慌てて間に入った。


「だ、だいじょうぶ!

私がもっと周り見てたら……

みんなに迷惑かけなくて済んだのに……!」


女子たちは呆れたように笑う。


「ほらね。こういうとこだよ」


「“自分が悪いです”って言えば、

みんな許してくれると思ってるでしょ?」


「ずっとそうやってれば?」


澪の指先が冷たくなる。


胸の奥に、

小さな針を何本も刺されたような痛み。


(……そっか……

私、みんなに嫌な思いさせてた……?)


違う。

悪いのは彼女たちだ。


だけど澪は、自分以外を責められない。


遥斗は唇を噛み締め、

澪をじっと見た。


「……白川さんは、悪くないよ。」


その声は、静かで、強かった。


しかし澪は首を振るしかなかった。


「そんなこと……ないよ……

私が、もっとちゃんとしてれば……」


そう言った瞬間、

遥斗の表情がほんの少しだけ曇った。


怒りでも苛立ちでもない。

ただ、深い“違和感”と“心配”。


彼は確信した。


──白川澪は、自分を守る言葉を持っていない。


そしてそのことが、

何より痛々しかった。


放学後。


澪が帰り道の曲がり角に差しかかったとき。

路地の影にひとりの人影が立っていた。


神谷空だった。


「澪。今日も……遅かったね」


その声は優しい。

だが、澪の胸はきゅっと締めつけられた。


彼の視線は、まるで

「澪の全部を知りたい」

とでも言いたげに深かった。


「……学校で、何かあった?」


その問いは甘く、

同時に逃げ場を奪う。


澪は微笑んだ。


笑うしかなかった。


「大丈夫だよ。

ほら、私……なんでも大丈夫だから……」


空はじっと澪の顔を見つめ、

ゆっくりと微笑んだ。


「……澪は、本当に強い子だね」


違う。


澪は強くなんかない。


ただ──

自分が傷つくより

誰かを悪者にするほうが怖いだけ。


今日もまた、

澪の心の奥には

静かに、確実に、影が増えていった。

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