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他人の責任まで背負ってしまう子

翌日の昼休み。

教室の後方から、どたどたと大きな音がした。


澪が振り返ると、

掃除用具入れの前で佐野梓がホウキを倒していた。


教室中がそちらを向く。


「ちょっと白川さん! これ倒れちゃったんだけど!」


梓が大げさに言う。


澪は驚いて立ち上がった。


「え……ご、ごめんなさい! 私が……昨日ちゃんと戻してなかったから……!」


美桜がわざとらしく笑う。


「昨日も残ってたよねぇ?

あれだけ時間かけたのに、戻し方下手なんだ?」


莉奈も続ける。


「白川さんって見た目は綺麗なのに、

こういうとこドジだよね……」


澪は胸が痛くなるのを感じた。


(……私のせい……だよね)


梓がため息をついて言う。


「はぁ……もういいや。白川さん、直しといて?」


完全に“使役”だった。


澪は反射的にうなずいた。


「う、うん……! 私がやるね……」


(お願いされるなら……やったほうがみんなが困らないもん……)


そう思うことで、心を落ち着かせる。


だが、その行動が

もっと悪意を呼び寄せるとも知らずに。


澪がホウキを片付けていると、

背後で誰かが低く言った。


「……それ、白川さんがやる必要ある?」


佐久間遥斗だった。


澪は振り返り、慌てて笑う。


「あ、ううん……私が昨日ちゃんとできてなくて……」


「違うよ。

倒したの、梓さんだよね」


澪は言葉を失った。


見ていたのか。

すべて。


遥斗は続ける。


「白川さん、

“人の責任”まで背負うの、やめたほうがいいよ」


澪の心臓がドキッと跳ねた。


怒っているわけではない。

でもその声は真剣だった。


「……でも……

私がしっかりしてたら、

昨日もっとちゃんと戻してたら……」


「だから違うって」


遥斗は少し語気を強めた。


「誰が倒したのか、見てた。

白川さんが謝ることじゃない」


澪は目を瞬かせた。


誰かが“自分の味方”になってくれる言葉を、

ほとんど聞いたことがない。


だから、胸が熱くなって苦しいとも嬉しいとも言えない感情が湧き上がる。


(……でも……ダメだよ……

遥斗くんがそんなこと言ったら……)


美桜たちの視線が、

刺すように澪に向けられていた。


遥斗を悪者扱いする準備をしているような、

そんな嫌な空気。


澪は慌てて首を振る。


「い、いいの……!

私がやれば……みんなの手間も減るし……

誰も嫌な気持ちにならないから……」


遥斗は沈黙した。


その沈黙が痛かった。


“それは違う”と

喉まで出かかった言葉を飲み込んでいる沈黙。


しかし、澪を追い詰めないようにするために

言葉を抑えているのがわかった。


それが余計に胸に刺さる。


遥斗は静かに言った。


「……白川さんは、本当に優しすぎるよ」


その優しさが、

彼女の傷をさらに深くすることになるのに。


放課後。


澪が一人で帰ろうとすると──

教室の戸口に寄りかかるように、

神谷空が立っていた。


影が長く伸び、

夕陽の赤が彼の体を縁取っている。


「澪。迎えに来たよ」


優しい声。

だけど澪は一歩下がってしまう。


空は微笑んだ。


「今日も残ってたでしょう?

前にも言ったよね……困ってるときは言っていいんだよ?」


澪は笑顔を作る。


「う、うん……ありがとう。

でも本当に大丈夫……。私、こういうの慣れてるから……」


空の目が一瞬だけ細くなり、

読めない光が宿る。


「……澪は、

“慣れてる”って言えば僕が安心するとでも思った?」


その言葉に、澪の心臓が大きく跳ねた。


怖い。


優しさが、なぜか怖い。


空は近づきすぎず、

しかし逃げられない距離で言った。


「弱いときは弱いって言っていい。

誰よりもそう思ってるの、俺なんだよ」


その優しさは、

包み込むようでありながら──

同時に、澪の逃げ道を塞ぐような“温度”を持っていた。


澪の胸はズキッと痛んだ。


(……言えない……

助けてって、言えない……)


今日もまた。

澪は静かに、自分の影の中へ沈んでいった。


そして、彼女の“替别人解释する癖”は

ますます深く根を張り始めていた。

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