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五章 魔昌石


*この話中、戦闘表現があります。



「あ、そうだ。親方さん、こういうのってどこに行けば買い取って貰えるか、ご存知ないですか?」

 魔法道具屋ビスケットを出る前にふと思い出して、流衣は初老の男に、ドーリスに来るまでに拾っていた、女神に貰った貨幣が入っていた小さな袋いっぱいの天然ものの魔昌石(ましょうせき)を見せる。

「ワシはフラム・ビスケットじゃ。親方でなく、フラムと呼ぶといい。お主は客なんじゃから」

 どうやら杖の一件で、ただの冷やかしの子供から客へと昇格したらしい。

「僕は流衣です。えっと、ルイ・オリベ。この肩の子はオルクスです」

「俺はリドな」

 流衣が名乗るとオルクスが片方の羽を上げてみせ、リドもまた名乗る。

「私はエレナだよ!」

 にこっと笑って名乗るエレナ。フラムの孫娘なんだそうだ。

 エレナが挨拶したからには、職人達もという空気になる。

 一番年上に見える真面目そうな青年が先に口を開き、続けて女性、気さくな印象の男という順で名乗る。

「私はモーリスです」

「カナンよ」

「ロッシオだ」

「あと一人、ハンスという奴もおるんじゃがな。今は出かけておる」

 フラムはそう言いながら、天然ものの魔昌石の袋を見る。驚いた顔になった。

「天然ものをこんなに集めたのか? ワシら魔法道具屋は魔力を見る目を鍛えておるから区別は造作もないが、ただの魔法使いなら大変じゃったろ」

 流衣は首を振る。

「いえ、道を歩いてたらその辺でキラキラしてたので、それを拾っただけです」

 するとフラムは堪らないとばかりに笑い出した。

「はっはっは、こりゃあ水の七に選ばれるだけはある。大した小僧じゃな!」

 先程のフラムの驚きようといい、どうやら結構すごいことだったらしい。流衣からすれば普通にキラキラして見えるので、そんなにすごいことだという自覚はなかったのだが……。

「天然ものの魔昌石なら、ワシの所のような魔法道具屋や市場に出ている魔法道具屋でも買い取りしておるから、そこに持っていくといい。ま、この量だと銅貨十枚ってところじゃな。待っておれ、銅貨十枚なら出せるからの」

 フラムはカウンターの裏に回り、台の下でゴソゴソする。そしてすぐに銅貨十枚を出すと、流衣の手に乗せた。流衣はどうもと言ってそれを財布にしまう。

「あの、そういう魔昌石ってどうするんですか? 小さいから使いにくい気がしますけど」

 気になって問うと、フラムはあっさり答える。

「昌石は硝子質だからの、一度溶かして大きい昌石に作り直すんじゃ。溶かしても魔力量は変わらんからな」

「へえ、そうなんですか」

 面白い性質だなあと目を輝かせる流衣。

「何じゃ、大した奴かと思うたが、もしやお主素人か?」

「え……と、恥ずかしいですけど、そうなんです。魔力は大きいみたいなんですが、魔法も初歩しか使えないですし……」

「ふむ。じゃあ、ちっと練習してみるかね?」

「え?」

 フラムは店の商品から、空の昌石を一本取り上げて流衣に渡す。五センチくらいの長さの水晶みたいな六角柱の石だ。

「その分じゃ昌石に魔力を入れたことがなかろう? それ一本なら壊しても構わんから、試してみなさい」

 いつの間にか、フラムの顔つきが職人のそれに変わっている。今後有望そうな魔法使いの後学の為にと思ったのか、あまりに無知なのを心配に思ったのかは分からないが。

 流衣は素直に好意に甘え、挑戦してみることにする。

「どうすれば良いんですか?」

「魔力を練って、石の中に注ぎこむイメージじゃ」

「分かりました」

 流衣は頷いて、昌石に集中する。

 その横で、リドとオルクスが興味深そうに手元を見る。

(魔力を練って……)

 右腕に青い光が灯る。

(それを注ぎ込む……)

 水を流すようなイメージを浮かべながら、青く光る魔力を石の中へ。魔力は何の抵抗もなく石に溶け込み、清流のように流れていく。

 何となく、瓶に水を注ぎ込んでいる感じがして、そろそろ止めないと溢れると思ったところで魔力の流れを止めた。

「――ふう」

 肩の力を抜き、作品を見下ろす。

 魔昌石は紺碧に眩しく輝き、店内を照らし出していた。

 フラムや職人達は息を呑んでそれを見ていたが、一拍後、ワッと歓声を上げた。

「すっげー! こんな魔昌石初めて見た!」

「まるで宝石みたいっ、素敵!」

「この世の神秘です……」

 職人が騒ぎ立てる中、フラムは唖然としている。

「あんな天然ものが見えるから、相当な魔力の持ち主だとは思うたが、これ程とは……」

 ひたすら驚きながら、更に呟く。

「まさか銅貨五十枚の昌石が、銀貨四枚に化けるとはのう」

 流衣は目を瞬く。

「えっ、これってそんなにすごいんですか?」

 世間知らず丸出しの発言に、カナンが頬を上気させて返す。

「すごいなんてもんじゃないわ! 魔昌石は輝きが青ければ青いほど良質なのよ。これは良質を越えて、特上よ!」

 興奮気味に魔昌石を見つめるカナン。あなたこれで暮らしていけるわよ! とまで豪語する。

 しかし、そこでモーリスが不安そうな声を出した。

「でも、どうするんです親方。銀貨一枚と銅貨七十五枚なんて支払えなくないですか?」

「うっ、そうじゃった。ワシもまさかここまでとは思わなんだからのう……」

 フラムが困った様子でちらちらと流衣を見てくる。

 流衣はきょとんとし、首を傾げる。

「何ですか、銀貨一枚と銅貨七十五枚って」

 ここで黙って知らない振りでもすればやり過ごせたのだろうが、フラムは人が良いらしく、困り果てながらも説明する。

「魔法道具屋で、魔法使いが昌石を魔昌石に変えた場合、原価を差し引いた売価の半額を払う決まりになっとるんじゃ」

「なるほど」

 それで、思いの他に流衣がすごい魔昌石を作ってしまったので、対応に困ったらしい。この店が貧乏なのは、流衣も勿論忘れていない。

「銀貨一枚ならさっきので払えるとして、銅貨七十五枚は厳しいのう……」

 フラムはぶつぶつと呟きながら、対応策を考えている。

「あ、あのっ!」

 流衣は少し考えて、思い切って口を開く。

「何じゃ、今考えておるんじゃから急かすでないわ」

「いえ、そうじゃなくて。別にお金はいりませんっ」

「は!?」

 フラムは目を丸くし、何度目かになる唖然とした表情を作った。

「だって、さっきのは練習させて貰っただけですしっ、教えて貰って、僕、すごく助かりましたしっ。それにあの、それ売ったお金で、エレナちゃんの誕生日を祝ってあげて欲しいといいますかっ」

 必死に言い募る流衣。

 横でリドが呆れ返った顔をして、それから面白そうに笑む。

「お人好しだな、お前。まあそこが良いとこなのかね」

「うっ、だって本当のことじゃないか。僕は世間知らずもいいとこなんだし……」

 言いながら、だんだん心配になってくる。

「あの、もしかしていらないお世話とかで怒ったりします?」

 流衣の提案に、相手が喜ばず、支払い能力のなさを馬鹿にされたと怒る心配をするのを見て、フラムはまた笑い出した。

「はははは、本当に面白い小僧じゃな! 怒るわけなかろう、喜んでその提案に乗るとも!

 ははははは!」

 フラムは笑いすぎてヒイヒイ言い出す。それを見て職人達が笑う。

「お兄ちゃん、ありがとー!」

 きゃーっと嬉しい悲鳴を上げ、エレナが流衣に飛びつく。

 店内が一気に騒がしくなった。

 流衣はその後、フラムに頼んで昌石四つ分練習させて貰い、何とかコツを飲み込んだ。その四つも、授業代として置いておいた。

 お陰で貧乏な魔法道具屋に特上の魔昌石が五つも置かれ、今月は久しぶりに黒字の予感だとフラムは大喜びし、馴染みの宝石商の所に売りに出かけていった。

「いいか、ワシが戻るまでここにいるんじゃぞ!」

 と、そう言い残して。

「俺ら、しばらくこの町にいるのにな」

 リドが呆れて言い、流衣もぽかんとする。

「ね」

 必要な品を揃えるだけでなく、散策して色々と教えてもらう予定でいたのだ。リド曰く、旅をするなら傭兵や冒険者を支援するギルドに入った方が良いとのことで、その辺も見に行く予定になっていた。

『ここの人間達はやけに騒がしいですね』

 やっと静かになった店内に、オルクスが呟く。どこかうんざりした響きがある。

 流衣は苦笑した。確かに、わいわい騒がしい。でも、こういう雰囲気は結構好きだ。

 とはいえ待っているのは暇だったので、道具屋内で適当に品物を物色し、傷薬などの薬類や、後で買おうと考えていた鞄も買った。見た目は普通の布製のリュックだが、物体強度と耐火の魔法をかけられた物だ。草木染めで緑がかった茶色をしており、その微妙な模様具合が何となく気に入った。

 それからいよいよ何もすることがなくて手持ち無沙汰になった頃、ようやくフラムが帰って来た。

 ほくほくした顔で、店に入るとにやっと笑う。

「しめて、金貨二枚と銀貨五枚じゃ!」

 フラムがガッツポーズすると、職人達やエレナがこぞって歓声を上げる。

「やったー! 久しぶりにスープ以外のものが食える!」

 ロッシオなど涙を流して喜んでいる。余程スープ生活が辛かったのだろう。

「一つ銀貨四枚じゃと思ったんだがの、まさかの五枚じゃ。あんまり出来の良い魔昌石に、今度その魔法使いを紹介してくれとまで言われたわ」

「そ、そういうのはちょっと……」

 人に紹介されたりするのは大の苦手だ。

 情けない顔で尻込む流衣に、フラムが言う。

「そう言うと思って、断っといたよ」

「助かります……」

 心底ほっとする。

「さて、これから誕生日会の準備をせねばな。ここまでしてもらったのじゃ、勿論食べていくじゃろ?」

「え、良いんですか?」

 流衣はびっくりしつつ、だから待っているように言ったのかと初めて気付く。

「良いに決まってるよ!」

 すっかり流衣に懐いたエレナが笑顔で言う。

 流衣も照れ混じりに笑い返した。


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