幕間3
ポロックの町から、急に標的の足跡を見失った。
「――どこに行ったんだ!」
グドナーの愚図めが苛立ちげに足を踏み鳴らす。
いちいち小うるさい男ですね。こちらまで苛立ってくるではないですか。
丁寧口調が口癖になっている男は、眉間に皺を寄せ、極力視界にグドナーを入れないようにして、周囲を見回した。
ここにはポロックの町を抜ける門がある。
「あ奴らも馬鹿ではないということなんじゃろう。フン、どうせ行き先は決まっておる。先回りして待ち構えておればよい」
冷やりとする声で老人が呟いた。その声に冷水を浴びせられたみたいに、グドナーの煮えつきもおさまる。
「でもよ、爺さん。王都周辺は警戒が厳しいぜ?」
珍しくも割とまともな意見を口にするグドナーを、老人はちらりと一瞥する。
「その前にワシらの拠点の一つがある。仕事も楽になろう」
老人の言う事は最もだった。
丁寧口調の男も頷く。
「確かにあなたの言う通りです、〈蛇使い〉殿」
老人は答える代わりにフンと鼻を鳴らす。
この居丈高な態度、とても勘に触りますが、自分では逆らっても死が待っているだけなので何もしません。グドナーだってそうです。本当は誰かを殺めたくてうずうずしてるのでしょうに、この人が怖くて大人しくしていざるを得ないのですから。
その答えのように、老人の足元の影の中で、蛇が鎌首をもたげた。一瞬、目が赤く光ったのを見逃さない。
背筋にじわりと嫌な汗が浮かぶ。自分達の小さな反抗心など、容易に踏み潰されてしまう。今では逆らう気すら起こらない程に。
「これで失敗でもしてみろ、依頼主は怒り、マスターもお怒りになる。それだけは避けねばなるまい」
こんな老人でも、自分達のように恐れる存在がいる。それは勿論、自分達にも当てはまるのだが。
――二年前だ。
二年前、突如ふらりと現れた男が、いきなりそれまでのネルソフのギルドマスターを殺害し、逆らう者を容赦なく叩き伏せて新しくその座に就いた。
それまでは組織としては強くとも協調性など一欠けらもなかったのに、今ではこうして三人で組まされて行動させられる程である。
「――ええ、でなければ私達は明日を見る前に、首が胴体から離れていることでしょう」
「………ああ」
丁寧口調の男の言葉に、グドナーも頷いた。
三人の間に、葬式にも似た重い空気が落ちる。
「……では急ぐとするかの。我らの明日の為に」
老人が厳かに呟き、残りの二人は沈黙で答える。
悲鳴のような音を立てて風が吹き、木々は不吉な音を立ててざわめいた。