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おまけ召喚 第一部 異界より来たる少年  作者: 草野 瀬津璃
第三幕 少年公爵の災難
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十六章 お礼



 リシャウスは、オルクスがディルの頭に乗っているのを見て、少し羨ましげな顔をしたが、すぐに扉を閉めて席についた。

「お待たせしました」

「いえ」

 ディルが返事をする。

 背筋はピンと伸び、軍人ばりの態度な上、受け答えもきびきびしているディルを見て、リシャウスは感心げな顔をする。

「ははあ、流石はレヤード侯爵家の三男でいらっしゃいますな。ああ、今はフィルフ殿が継いでおられるから、弟君とはなりますが。まだお若いのにご立派でいらっしゃる」

「もしや兄上と面識がおありなのですか?」

「ええ。王城で開かれたパーティーでお会いしまして、少しお話しした程度ではありますが。病弱だと伺っておりましたが、長身で聡明な優しい方で素晴らしい御仁でしたよ。流石は“東の百合”と噂されるご嫡男です」

 ディルはそれを聞いて吹き出した。肩を揺らして笑いながら謝る。

「いえ、申し訳ない。そのあだ名を兄上が随分嫌がっておいででな。女性ならともかく何故私が百合なのだろうとおっしゃっておられて……くくく」

 確かに。流衣も内心で不思議に思う。

「でも、あのような外見では仕方がないと思うのですがね」

 リシャウスは顎に手を当て、少し楽しげに笑う。

「お前の兄貴、一体どんな奴なんだ?」

 リドが怪訝な顔を向けると、ディルはゴホンと咳払いをして笑いを鎮めてから答える。

「ああ、いやなに、兄上は病弱故、屋敷に引きこもりがちであるから、そこらの女子(おなご)より余程色も白く、しかも線も細いのだ。加え、身内から見ても綺麗な顔をしていらっしゃるし、佳人薄命(かじんはくめい)とはよくぞ言ったものだと思うぞ」

 そこまで言って、何を思い出したのかディルはまた吹き出した。

「そ、それで姉上が一度、兄上に女装させたことがあってな。くくく、もうこれが笑えぬほど様になっていて、姉上はもう二度と女装させまいと申していた。自分が惨めになるからと」

「ディルのお兄さんとお姉さんって色々と強烈だね……」

 吐血が趣味の兄と、兄に女装させる姉。どんな人達なんだろう。一度会ってみたい気もする。

「師匠も強烈だったしな」

 当たり障りなく流衣は言うと、リドもそう付け足す。

「? だから、どの辺が強烈なの? 普通に綺麗な人だったじゃない」

 流衣の問いにはディルが渋面になる。

「リリエノーラ様は、見かけだけ美人だと言っただろう。容赦ないし我侭だし気分屋だしで、私は迷惑をこうむりまくっている。武芸や考え方や信条は尊敬しているが……」

「カイゼル伯爵殿は、ヴェルディー将軍の弟子なのか? 彼女は弟子を取る気はないと聞いていたが……」

 ディルは目を丸くする。

「ヴェルディー将軍? 確かに師匠はリリエノーラ・ヴェルディーという名ですが、私が知っているのは〈光弾〉の騎士という呼び名です。たまたま城下で喧嘩を見かけて、あまりの強さに敬服して弟子入りしたのですよ」

 今度はリシャウスが目を丸くする番だった。

「何と! 彼女が女王陛下の側近である近衛騎士団団長と知らず、弟子入りしたのですか?」

「「「側近っ?」」」

 流衣達は声を揃えた。

「私はてっきり、身分関係で考えて師匠に選んだのかと思いましたが……。いやはや、こういう偶然もあるのですな。しかし、よくヴェルディー将軍が弟子入りを認めましたな」

 流石、王子様の教育係を勤めていただけあって、王城内の事情に精通しているらしい。リシャウスは心底感心している。

「いや、一週間ほど様々な策を使って弟子入りを申し出たら、諦めて許可して下さったのです。ははは、お恥ずかしい」

 何故か照れたように後ろ頭を掻くディル。

 リシャウスは褒めたわけではないと思うのだが。

「……ふうむ、ヴェルディー将軍の弟子ともなればさぞかしお強いのでしょうね」

 リシャウスの言に、ディルは首を振る。

「いえ、私はまだ修行中の身。腕はまだまだです。それと、私のことはディルと呼んで頂きたい。修行中は身分は名乗らぬことにしております故」

「ああ、そんなことを申しておりましたな。分かりました、ディル殿」

 ディルの申し出を受け、リシャウスは首肯する。

「ところでお三方、お礼を差し上げたいと思いますので、宝物庫の方までおいで頂けますかな」

 リシャウスがそう切り出して腰を上げると、流衣達は顔を見合わせた。

「お礼なんていらないですよ。僕ら、倒れている人を町まで連れてきただけですし。ね?」

 流衣がリドにふると、リドも頷きあっさりとした返事を返す。

「ああ、それに余計な物貰っても旅の邪魔になるだけだしな」

「私も修行中の身、贅沢は禁じているのです」

 ディルもまた堅苦しく言う。

 それにはリシャウスも唖然とし、気が納まらないと憤然とする。

「何をおっしゃいます! 一人孤独に震えておいでの殿下の手助けをして頂いたのです! ここで礼を尽くさねば、このリシャウス、一生の恥となります!!」

「わわわ分かりましたから、()を詰めないで下さいぃーっ!」

 ずんずん近付いてこられ、流衣は椅子に座ったまま震え上がった。この人、自分が強面(こわもて)だと気付いていないのだろうか?

 リドとディルも顔を引きつらせてぶんぶん頷いている。

 皆、この人と距離が開くなら喜んで何でも受け取ると、心境が一致した。

 そもそもヴィンスは孤独に震えてなどいなかったのだが、そんなことを突っ込む勇気は誰も持ち合わせていない。

 流衣の返事にリシャウスはとても満足げな顔になり、にかっと笑う。

「お分かり頂けて結構。では、ついてきて下さい」

 客を脅すなよ、と三人はげんなりしつつ、リシャウスの後について部屋を出た。



「さて、何を差し上げましょうかな。折角ですし護符付きの物か魔法効果付与の物を差し上げたいですな。他にも、ああ、何にしよう」

 先を歩きながら、リシャウスはぶつぶつと呟く。

 白煉瓦造りの建物に満ちる静けさを残らず破壊している感じで、重い足音をさせて歩いていく。

 通りすがる神官達はそんな神殿長に呆れた視線を向け、会釈して通り過ぎて行く。呆れていても、目にはどこか親しみがこもっていた。

「そういえば、闇物の件、殿下より承りましたぞ。この町にもそんなに出回っているとは気付きませなんだ。後はこちらで対処します故、ご安心なされませ」

 ふと思い出した様子で、肩越しに振り返ってリシャウスは言った。

 それは良かったと返しつつ、宝物庫の前に辿り着いた。

 どうやら神殿の一番奥まった所にある倉庫らしく、扉の取っ手には鎖が巻きつけられていて更に大きな鍵がつけられていた。扉もここだけは鉄製という厳重な構えである。

「ここは六大神殿中の一つですからな。巡礼者からの寄贈品などが自然と集まるのです。余程高価でない限りは売って活動資金に当てさせて頂いているのですがね。芸術品から武器まで、このように一通り揃っているのですよ」

 鍵を開けて、ガチャガチャと鎖を外し、リシャウスは重厚な扉を手前に引く。

 彼の言った通り、宝物庫の中には芸術品から武器まで様々な物が揃っていた。

「ここの物を一つ売れば、一財産にはなりますよ。さあ、中へどうぞ」

 リシャウスに促されるまま、宝物庫へと入る。



「さてさて、どれを差し上げましょうかねえ。旅のお邪魔にならず、役に立つ物。うーむ……」

 リシャウスは宝物庫の中をあちこち見てから、腰に手を当てて唸った。

「皆さん、何か希望はおありですかな?」

 振り返っての問いに、宝物庫の中の、骨董としても美術品としても価値があるだろうそれらに唖然と固まっていた庶民二人――流衣とリドはぶんぶんと首を振った。ディルの方は見慣れているのか特に気圧された風もなく、落ち着いた態度で返す。

「そちらで決めて頂いて結構ですよ」

「そうですか、困りましたな。うーむ、ディル殿はやはり光系の魔法が得意なのですかな?」

「ええ、あとは氷系統ですね」

「ということは、水の魔法強化が宜しいか……」

 リシャウスは棚の方に行ってごそごそと引き出しの中を見て回り、素敵な笑顔を浮かべて振り返る。

「これなんていかがでしょう? 昔、水の精霊が加護を与えたという獣人が作った人形です」

 その手には、人魚の形をした手の平に乗る程度の人形が乗っていた。

 ディルは頬を引きつらせる。

「い、いや、リシャウス殿? 人形など、私は男ですし幼児でもありませんし……」

「美術品としても価値あるものですが……。ではこれは?」

 リシャウスが次に取り出したのは、型に糸をぐるぐる巻きつけて出来ている人形だった。

「これは漂着した船から発見されたという人形でして、セイレーンの加護があるとか」

「あの? 何故そう人形ばかり? そもそもそれは呪われた類では……?」

「いえいえ。漂着しても残ったのですから、縁起が良いと云われている品ですよ!」

「…………」

 いや、どう見ても怪しげな空気を(まと)っているだろうその人形、と、ディルはますます顔を引きつらせ、バッと手近な所を見回して、適当な物を引っつかんだ。

「ああ! これが良い。良い文鎮(ぶんちん)になりそうだ」

 取ってつけたような言い分を口にして、ディルはそこにあった虎目石(とらめいし)のような天然石製の卵を褒める。卵の形をしたその石は両手で包めるくらいの大きさで、手にしてみるとずっしり重い。

 このまま妙な品物を押し付けられるくらいなら、こっちの方が断然良い。

「おお、それは巡礼者の方が下さった品ですな。ノックス鉱山の中で見つかった石だとか。そんな物で宜しいので?」

「ええ、勿論です。こ、こんな素晴らしい文鎮は見たことがありません!」

 後半は棒読みであったが、リシャウスはそれで納得した。

「流石は貴族ですな、文房具にこだわりを持たれて。本当に素晴らしい」

 にこにこと褒めるリシャウス。

 ……というかそれは文鎮で合っているのか?

 流衣はそう思ったが、口には出さない。だって飛び火しても怖いし。

「では次は……」

 そう言ってリシャウスがリドを振り返った瞬間、妙な物をすすめられる前にと、リドは部屋の隅にかかっている外套(がいとう)を電光石火の勢いで指差した。

「俺、あそこにある外套にして良いすか? 最近冷え込んできたから、丁度上着買おうと思ってたとこなんですよ」

 それは嘘ではない。

 実際、リドは外套もマントも着ていないから、そろそろ古着屋かどこかで買おうと考えていた。

「あそこにあるのは、魔法効果が付与された衣服ですな。リド殿は、どういう物が宜しいですか? 身軽さを増すとか、防護(ぼうご)の加護入りとか、あとは魔法属性強化もありますが」

「それなら、風の属性強化がいいです」

 リシャウスは服掛けにかかっている外套をあれこれ手に取ってみて、リドを振り返る。

「この中の物がそうですね。好きな形の物を選んで下さい」

「はいっ」

 きぱっと返事をし、リドはそっちに向かう。

 風の魔法属性強化が付与された外套は左から五着のようだった。

 どれを選ぶのだろうと、流衣もついてって横から見る。

「あ、その黒いの良いんじゃない?」

 ダブルボタンの外套が、軍人みたいでカッコイイ。リドだったら赤い髪が映えて格好良さそうだ。

 が、流衣の言葉にリドは首を振る。

「いや、黒い上着なんて怪しいだけだろ。俺は魔法使いみたいな全身真っ黒ローブは趣味じゃねえや」

「……もしかして、黒イコール怪しい人って思ってるの?」

 何となく、学ランを全力で怪しいと否定していた理由が見えた気がした。

「当たり前だろーが。黒とか暗い色の服なんざ着てる奴は、闇に紛れる為にそういう服を着ている奴が多いからな。いちいち余計な詮索されても面倒だ」

 リドはそんな答えを返しながら、一着を引き出した。

 明るめの黄土色の地に縁取(ふちど)りが黒という、色合いが見た目にも綺麗な物だ。こちらもダブルボタンだが、それ以外には余計な飾りはついていない。リドは指で素材をつまんで分厚さを見て、気に入ったのか満足げに頷く。

「うん、これなら静謐(せいひつ)(つき)でも平気だな。リシャウスさん、試着して良いですか?」

「勿論です」

 リシャウスが許可をくれたので、リドは腰に吊っているダガーや鞄をまとめて外して床に置き、外套を着た。

「お、ぴったりだな。首も苦しくねえし」

 詰襟だったので、首元の布を指でくいくい引っ張ってみたりするリド。

「しかもすっげえ軽い。これ、素材なんなんです?」

 リシャウスは壁にかかっていた小さな冊子を取り、パラパラとめくる。どうやら冊子は宝物品リストらしい。

「モフルーの毛で織られたものですね。軽いのは、風の魔法効果付与がかけられている為です。あとは、ええーと、熱を和らげる効果付きですな。暑さにも寒さにも対応が効くようです」

「モフルーすか、そりゃまた高価な……」

 これ選んだの失敗だったか? リドは外套を見下ろす。そこまで値の張らなさそうな物を選んだというのに……。

「モフルーって何? 羽竜(ウィング・ドラゴン)とかそういうの?」

 流衣の問いにリシャウスが答える。

「モフルーというのは、黄土色の長い毛が特徴の山羊です。山羊といっても、牛並みの大きさはありますが。見た目がモフモフしてるんですよ、それでモフルー」

「うわあ、モフモフですか、可愛いんでしょうねえ。羊みたいにモコモコしてる感じかな?」

 目を輝かせる流衣に、リシャウスはわははと豪快に笑って否定する。

「まさか、可愛いなんてとんでもない! 気性の荒い動物ですんで、飼育するのが大変なんですよ。木の柵なんか、突っ込まれれば粉砕(ふんさい)しますしな!」

「え? 壊れるんじゃなくて?」

「そうです。粉砕です」

 流衣はゾッとした。何ていう凶暴な。

「しかしその毛で織った布は素晴らしいのです。ほら、その外套のように、布なのに僅かに光沢をもっているでしょう? モフルーの布で織った布は、市場じゃ高値で取引されるものです。貴族の皆さんがこぞって手に入れられようとするので、自然と値も高くなりますしね」

「へえ、でもそれでもよく飼育出来ますね? むしろ毛を刈る前に重傷を負いそうですけど……」

「魔法使いが眠らせますから、そんなことは起きません。あとは、紫色の物を見ると興奮するので、紫色を徹底的に排除するしかないですね。残りは飼育者がちょっと特殊ってくらいですか」

 リシャウスはそう言って顎をしゃくる。

 特殊? 不思議に思ったが、リシャウスがそこでリドに話しかけたのでそれ以上は聞けなかった。

「どうです、サイズもぴったりなようですし、このまま着ていかれては?」

「はい、ではありがたく頂きます」

 リドは丁重に礼を述べ、外套の上に、ダガーの鞘が取り付けられているベルトをつけ、皮製の工具入れのような形をしている腰に巻く形の鞄もまた付け直す。

「では最後にルイ殿ですな。見た所魔法使いのようですし、魔力の上がる効果付与の物が良いでしょうかね」

 恐らく善意からだろうリシャウスの何気ない一言に、流衣は猛然と首を振って断る。

「いいえっ、そういうの以外でお願いします!」

 鬼気迫った調子で言い募ると、リシャウスは気圧されて身を反らす。

「さ、左様ですか? 変わった方ですな……」

 目を白黒させつつ、宝物庫内を見回すリシャウス。そこへオルクスが流衣の肩から飛び立ち、リシャウスの肩に乗った。

「我が主人は、瘴気に当てられやすい体質でシテ。なにか、対策になるような、物はありませんカ?」

 女神付きの魔物に肩に乗られ、感動して目を輝かせるリシャウスだが、問いを受け、冊子をめくって調べ始める。

「それはまた難儀な体質ですな。稀に、そういう体質故、どうにかしたいと神官を志す者もおります。そういう者でしたら、修練を積み、聖法の術三・浄化を身に付けるよう勧めるのですが……」

 そうひとしきり唸っていたが、やがて表情を明るくする。

「ああ、一つ良い物がある」

 リシャウスはどたどたと宝物庫の奥に行き、そちらの小さな引き出しが幾つも付いている棚の前で、ガコガコと引き出しを開け始めた。やがて「あったあった」と呟きながら、手にした箱を持ってくる。

 手渡された箱を開けると、中身は直径三センチほどの丸いペンダントだった。といっても、表面は鏡、裏面には神殿を示す紋章――三本の線の下に上が平らな楕円の形がある――が掘り込まれた銀製の物だ。ペンダントというよりは、メダルに近い感じだ。

「これは、百年前に存在していた、浄化を得意とする神官が身に着けていた、と云われている首飾りですな。その方の力が宿っているのか、邪気を弾くものだそうです。実際に弾かなくとも、弱めるくらいの効果はありましょう。名は『魔返(まがえ)しの(しずく)』というそうです」

 流衣はまじまじとペンダントを見て、恐る恐るリシャウスの強面を見上げる。

「良いんですか? そんな凄い物を頂いて……」

「ええ、良いのです。ここにありましても宝の持ち腐れ。殿下のことでも感謝しております故」

「ありがとうございます!」

 流衣はぺこっと頭を下げ、箱を落とさないようにしっかり手に持つ。

 これであの気分の悪さが減るのならば助かる。オルクスの気配りの良さに感謝だ。

「オルクスもありがとう」

『どういたしまして、お役に立てたのなら結構です』

 オルクスは誇らしげにそう言って、流衣の肩に戻ってくる。

 リシャウスはそれをまた羨ましげに見てから、真面目な表情を作った。

「さて、お礼は致しましたところで、少し皆さんにお話があるのです」

 三人はリシャウスの方に注目する。

 何の話だろう?

「殿下の話ですと、貴方がたはお若いながら腕の立つ様子。もし都合が悪くなければ、王都までの道中、殿下の護衛をお願いしたいのです。勿論、こちらからも腕の立つ者を四人程付けます。あまり目立たない方が良いでしょうからな」

 そこでリシャウスは言葉を切り、少し苦笑する。

「実を言いますと、殿下には親しい友人があまり多くはおられぬのです。貴族でなら何人かおられるようですが……。歳の頃も近いようですし、宜しければ、話し相手になって頂きたいのですよ」

「でも、ディルはともかく、僕なんて自分でも怪しいって思うんですけど……?」

 貴族であるディルと違い、流衣とリドは一般人だ。流衣なんて異世界からやって来た人間だし、リドは故郷や家族を覚えていないから身元不明である。

「第三の魔物様を連れておいでで、怪しいも何もありません! それに、偶然見つけた怪我人を放置せず、その上、町まで連れてこられるような方々です、信用するには十分ですよ」

 にっと笑うリシャウス。

 この人の笑顔だと、にっこりとか微笑むなんて単語は使えない。少し笑っただけで豪快になってしまう。

「ふうむ、私は面白がって君達の旅に同行している身、判断は君達がしてくれ」

 ディルがぽいと判断を投げ、リドもキャッチしたボールをあっさりとルイに投げ渡す。

「あーそれ言うなら俺もだな。どうする? ルイ」

 二人ともずるい。流衣はちょっと恨めしく思いつつ、頷く。

「どっちにしろ同じ方向だし……、良いよね?」

 それでも自信がないので二人に問い返す。

「それでこそルイだな!」

「……どの辺がそれでこそ?」

 何故かディルが嬉しげに肩を叩いてきて、軽くよろめきつつ、流衣は返す。何だろう、リドといい、そんなバシバシ肩とか背中とか叩かなくてもいいじゃないか。……まさか叩きやすい高さにあるのだろうか?

「それはありがたい。ではどうぞ宜しく頼みます。殿下は明日にでも出発されたい様子。明日の早朝、神殿前にて集合で宜しいですか?」

 特に異存はないので、三人とも頷いた。

 それなら今日中に食料や必要な物を買いに行かなくてはな、と流衣は予定を考え出した。



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