十四章 体質
ヒノック神殿と聞いていたから神殿しかないと思っていたら、そうではないらしい。
ヒノックはそもそも一つの町の名前であり、火の神殿への巡礼者で賑わっている神殿都市なのだ。
ラーザイナ・フィールドにある六大神殿は、全てそんな感じで賑わう都市なんだとか。
有名な寺の下に町が出来るのと似たようなものなのかなと、流衣は考えた。
火を祀っているだけあって、町のあちこちに篝火が設けられている。
賊がまた襲ってくることを懸念していたが、半日かけてここに来たのに、そんな人には出くわさなかった。まあ、別に会いたいとも思わないから万々歳であるが。
「宿に入る前に、まずは君の格好をどうにかしないとな」
雑踏の中、白い騎士服を翻して先頭を切って歩きながら、ディルがヴィンスに言った。
ヴィンスは少し困った顔で自身の服装を見下ろす。
確かにディルの言う通りだ。服を変えた方が良い。森の中を走っていたせいで、あちこち切れて糸が出ているし、薄汚れている為にみすぼらしく見える。
後ろ頭を手で支えるようにして歩きながら、リドもそれに同意して、呑気な調子で言う。
「じゃあ古着屋探すか~」
「そうだね……。あっ、あれじゃない?」
なんだかリドに会った頃の自分のようだ。
既視感に苦笑しながら、流衣は町の一角を指差した。
ドーリスの町の古着屋みたいに、服の海が出来ている。というより山か?
「あれだな。よし行くぞ!」
「えっ、ちょっと待っ!?」
たじろぐヴィンスの腕を掴み、ディルはヴィンスをずるずると引きずるようにして古着屋に連行していく。
「はー、あいつも大変だね」
ディルに絡まれて可哀相に、と、特にそんなことを思ってもいないだろうに呟くリド。流衣は軽く笑い、そんな二人を追いかけた。
「おおー!」
「すっげえ」
「見違えたな!」
流衣は拍手し、リドは感心し、ディルは褒めた。
ちゃんとした服を着たヴィンスは、どこから見ても良家の子息だった。本人の希望により、黒に近い青色を中心にした服装になった。白っぽい金髪がよく映えている。
しかし本人は目立ちたくないようで、灰色のマントをその上に着て、フードを目深に被ってしまった。勿体無い。
「なんだか王子様みたいだね~」
「え!?」
キラキラしているヴィンスを見て、思わず言葉を漏らすと、驚いた顔をされた。
「もしかして言われたことないの?」
そっちの方がびっくりだ。
「え、あのー、まあ、言われたことはありますけど、ええーと」
ヴィンスは、なにやら視線をうろうろさせて挙動不審になっている。
謎な反応に首を傾げつつ、まあいっか、と流す。
「そういえばヴィンス、君はウィングクロスに登録しているのか?」
「いえ……」
「そうか。では、ウィングクロスの系列の宿にするか」
ヴィンスに確認を取り、ディルは一つ頷いて歩き出す。まるでどこにその店があるか分かりきっている風だ。
「ディル、この町にも来たことあるの?」
流衣の問いに、ディルは頷く。
「勿論だ。あちこち旅していたからな」
そして、屋台や人の波でごった返す通りを、人の隙間を縫うように歩いていく。
流衣は興味をひかれて屋台や店を眺めながら、三人の後に続く。
そうして眺めているうちにふと、屋台の一部の商品に黒い靄が纏わりついているのに目がとまった。
靄が蛇の形を取り、鎌首をもたげてこちらを睨んでいる。
背筋がぞくりと粟立った。
慌てて目を反らし、急に気分の悪さを覚えて口に手を当て、小走りに三人を追う。
『大丈夫ですか、坊ちゃん』
目聡く気付いたオルクスが問うてきたので、流衣は頷く。
「平気だよ。何だか気持ち悪くなっただけ」
『あれは瘴気といわれるものですよ。世界に漂う負の要素ともいいます。前に闇物からゴーストが出てきたでしょう? あれは瘴気が魔物に変貌したものです。あれほどの瘴気をどこで集めてきたのか知りませんがね。坊ちゃんはあてられやすいようですから、出来るだけ近付きませんように』
オルクスの忠告に、流衣はただ頷いた。
たくさんの人がいて、様々な色で溢れ、夕闇に篝火の灯が浮かび、ざわざわと声が巡る。それら全てがごっちゃになり、ぐるぐると回っているようで、ますます気持ち悪い。
何となく、混沌とはこういうことではないかと、頭の隅で思った。
ウィングクロス系列の宿では、四人分のベッドとテーブルと椅子と箪笥が置かれただけのシンプルな部屋に泊まることになった。
「!」
部屋に入って、その箪笥の上に置かれた置物を認めるなり、流衣はバッとその場から壁際へ飛びのいた。
黒い靄が渦を巻き、鳥の形の銅像を取り囲んでいる。蛇のように見えたそれは、小さな虫の集合体のようにも見えた。
ぶわりと鳥肌が立つ。
ついで、背筋がぞくりとし、悪寒を覚える。
「……ルイ?」
突然顔色を変えた流衣に気付き、柳眉をひそめるヴィンス。そうしていると人形のようにも見える。
「闇物か」
流衣の反応と、精霊の騒ぐ声とで判断したリドが、ぼそりと断定する。警戒心を露にし、置物を睨みつける。
「むっ、これは気持ち悪い見た目だな」
魔法使いとしても技量のあるディルだ、あの靄が見えているらしい。が、流衣のように気分が悪くはならないようで、平然とした顔で眉を寄せている。
「闇物を知っているのですか?」
ヴィンスは、まさか、と驚いた顔になる。
「あんたこそ、知ってんのかい?」
リドは怪訝な顔をする。
意外だった。貴族の子息にしか思えないこの少年が、あんな不穏な物を知っていることが。
「杖連盟から話は聞いています。そうですか、これがその“闇物”……」
「どうでもいいけど、それ、どっかにやってくれる」
流衣は置物から一番遠い場所まで避難し、吐き気を抑えながら言う。
「うわ、大丈夫かよ? 顔色悪いぞ」
そんな流衣の顔色を見てぎょっと目を見開くと、すぐにリドは表情を曇らせた。そして素早く決断する。
「宿の備品だが……誤って壊したことにするか」
言い終わるなり、風の刃を作りだした。
ヒュウッと風が唸り、置物を両断する。ぱきっと音を立てて置物が割れ、鈍い音を立てて床に落ちた。
すると中からもくもくと黒い靄が立ち上り、ゴーストの形を作った。
ゴーストは目を鋭く尖らせ、攻撃したリドに襲い掛かる。
対するリドはゴーストの爪を難なく避けると、接近したまま右腕に風を束ねる。可視できる風の渦を、ゴーストの顔めがけて一点集中で放ちぶつける。風の刃で弾かれた前回であるが、これなら少しはマシだろう。
案の定、額を打たれたゴーストはぐらっと後ろにのけぞった。
「光よ矢となれ、ライトブリッド!」
そこに間髪入れず、ディルが光弾をお見舞いする。
光の弾で頭と胴体を続けざまに射抜かれたゴーストは、悲鳴を上げて消えていった。
リドは額に浮かんだ汗を袖口で拭う。いきなり襲い掛かってきたものだから、背筋が冷えた。
「ふーっ、やっぱ闇って感じだから光魔法が有効なんだな」
「ふむ、そうだな。効いて良かった。――しかし、これが話に聞く闇物か」
唸るように呟くディル。
「ん? 俺ら、この話したっけ?」
ディルは首を振る。
「前に師匠が話していたのだ。『世間には魔物が封印された闇物なんていう面倒臭い物が出回ってるから、見かけたら駆除しときなさいよ』……と」
「相変わらず、おっかねえお師匠さんだな」
横を見つつ身を震わせるリド。しかしその「おっかない師匠」の弟子であるディルは苦笑するしかない。
「あ、あなた方は一体……」
ヴィンスはあんぐりと口を開けて二人を凝視する。
闇物であることを見抜き、それを壊したかと思えば、出てきた魔物を退治する。そのあまりの素早さに感動する以前に呆気に取られていた。
リドは軽く肩を竦め、それについては無視することにした。部屋の隅で口元を押さえてうずくまっている流衣の方が気になったのだ。以前も魔法道具屋を巡って気分が悪そうにしていたが、今回のは前より酷い。
「あの闇物は壊したんだけどな、まだ気分悪いか?」
「うん……。なんか、ドーリスの時より、闇が濃いっていうか、ドロッとしてる感じがして……」
流衣はぼそぼそと答える。座っているのに頭がぐらぐらしてきた。
リドはディルの方を振り返る。対処法が分かればと思ったが、ディルも分からないらしく首を振るだけだ。
仕方がないので、あまり聞きたくない相手に訊く。
「おい、オウム。どうすりゃ治るんだ?」
オウムと呼ばれてオルクスはムッとしたように目つきを尖らせたが、すぐに首を振った。
「どうしようもありません。これは体質の問題です。坊ちゃんは、瘴気にあてられやすい体質の方のようデス。たまにいらっしゃるんですよ、そういう方。純粋、とでも申しましょうか。それに、坊ちゃんは、どちらかといえば神官向きな、優しい方ですし」
「…………」
半分は褒め言葉で構成された返答を聞き、リドは片眉を跳ね上げる。確かに、そう言われれば純粋なのかもしれない。思えば、流衣は自己嫌悪はしても、嫌悪の対象を他人に向けることはない。誰に対してもどこか平等で、それはある意味、純粋といえるかもしれなかった。
「休ませて、治るのを待つしか、ありません。聖水でもあれば、少しはマシになるのでしょうが」
「いいよ、もう寝ることにするから」
流衣は壁に手をついてよろよろと立ち上がり、そのまま一番近いベッドまで行く。そしてリュックサックを放り捨ててマントも外し、靴を適当に脱ぎ捨て、そのまま布団にくるまった。
冗談でなく気持ち悪い。こんなの、インフルエンザにかかった時以来だ。ああ、目が回る。
「……神殿都市のくせに、ドーリスより酷いのか」
苦々しく歯を噛み締めるリド。あんな物をばらまいている〈悪魔の瞳〉に対し、初めて嫌悪感を覚えた。
「私が神殿まで行って聖水を買ってくるから、リドは水か何か貰ってきてやってくれ」
「ああ、分かった。宜しく」
ディルは早速出かけて行き、リドも階下に降りて水を貰いに行く。
残されたヴィンスは、寝込んでしまった流衣を見て、静かにしているしかないとそのまま椅子に腰掛けた。
――通達は回ってきていたが、ここまで根深いとは。
まさか神殿都市であるヒノックまで、〈悪魔の瞳〉の手が回っているとは考えもしなかったが、これは早急に手を打たねばならない問題だろう。
ヴィンスは考えに沈みこんで、打開策を考える。
やはり杖連盟から魔法使いを派遣した方が良い。もしくは神官を派遣して貰うか。
光魔法が有効だと先程リドが言っていたし、そのように解決させればいい。
(しかし一体、この方達は何者なのでしょう?)
偶然、ヴィンスを助けた旅の三人組。
一人は使い魔を連れた異国人の魔法使い。もう一人は、さっき見て分かったが、風の〈精霊の子〉。最後の一人は、魔法騎士のような感じだ。剣を携えた魔法使いなら間違いないはず。
不思議な三人組だ。
その上、あの使い魔のオウムは喋った。言葉を解す使い魔は、カザニフの託宣の巫女の狼くらいしか知らなかったが……。
しかし不思議と、怪しいとは思えない。きっと、三人の持つ空気が明るいせいだろう。
(明日辺り、神殿長にお会いして、相談するしかありませんね……)
王都までの足も無くなってしまったし、方法はそれしかない。どのみち、自分の住む屋敷まではここからでは遠すぎる。
それから、首を傾げる。
(それにしても、あの輩達は何故私を狙うのでしょう?)
今までも狙われなかったといえば嘘になるが、命を奪う方向ではなかった。
(私が王都に行くと、何かまずいということでしょうか?)
内心で問いをぶつけてみるが、さっぱり分からない。
(姉上なら真相をご存知のはず。はあ、私はまだまだ未熟のようです……)
若干十五歳の少年貴族は、そう思って深く落ち込んだ。未熟で当たり前の年齢であるのに、貴族としての誇りと意識がそこまで思い至らせないのであった。
* * *
朝、目が覚めると気分の悪さは消え去っていた。
ぼさっとしている髪の毛を手櫛で適当に整えながら、洗面をする為、部屋を出る。
まだ日が昇ったばかりなのか、三人とも寝ていた。オルクスも枕元で丸くなっていた。
体調が回復しているのは聖水が効いたからなのかもしれないな、と心の隅で呟く。
神殿で神官が聖法という術を水に使った物らしく、瘴気を清める作用があるらしい。昨晩、ディルが買ってきた聖水を飲んだら少しはマシになったのだから確かだ。それでも完璧に治る程ではなかったが。
(お腹空いた……)
洗面所で顔を洗い、タオルで水気を拭いながら流衣はぽつりと思う。
そういえば、昨日はあまりの気分の悪さに夕食を抜いたのだ。
部屋に戻る途中の廊下から窓の外を見ると、まだ日は地平線に滲んでいる程度だった。道理で少し薄暗いはずだと気付く。だが、顔を洗ったらすっきりした。
もう、地球でいうところの秋の半ばであるから、朝は空気がひんやりしている。昨日はマントを脱いだだけの格好で寝てしまったのもあり、今の格好ならそこまで寒くはない。
部屋は二階にあるので、窓から見下ろすと庭が見えた。そこにある井戸を、まだ日も昇ったばかりだというのに、桶を持った女の人が行ったり来たりしている。水汲みをしているらしい。
流衣は部屋に帰っても静かにするのが億劫だったので、硝子窓を開けて、窓辺に肘をついてその光景を眺めた。
徐々に活気付いていく町。
綺麗だと思った。
石造りの街並みは、コンクリートで出来た街並みよりも、どこか有機的だ。温かみがある。
ここに来て、そんな風に町を眺めたのは初めてかもしれない。
何もかもが初めて見るものばかりで、感動するよりも不安で仕方がなかったから。オルクスとリドに会わなかったら、きっともっと緊張していたはずだ。
ふと、扉の軋む音が聞こえ、そっちを振り返る。
ヴィンスが廊下をきょろきょろと見回しており、パッと目が合った。
「おはよ」
声をかけると、丁寧に返される。
「お早うございます」
ヴィンスは言葉遣いが丁寧だ。やっぱり、絶対どこかの貴族のお坊ちゃんに違いない。
ヴィンスはそーっと扉を閉めてから、静かにこっちにやって来る。
「もう具合は宜しいのですか?」
「うん。昨日はごめんね、気を遣わせちゃったみたいで」
小声で話しかけてくるヴィンスに、流衣も小声で返す。
まだ他の客が寝ている時間だからという配慮だ。
「構いませんよ、それくらい。あなた方には随分お世話になっていますし、旅費まで出して頂いている身ですから」
困ったような顔で笑うヴィンス。
「別に気にしなくていいのに。困った時はお互い様っていうじゃない」
「それはあなたのお国の言葉ですか?」
きょとんとするヴィンス。
「うん、そうなるのかな。困った時こそお互い助け合うものだって意味かな」
「良い言葉ですね。とても気が楽になりました。それなら、あなた方が困った時に手を貸せば良いのですね」
「それだと貸し借りの話になるんじゃ?」
「借りっぱなしは御免ですから」
緩やかに、けれどきっぱりと言って微笑むヴィンス。
この人は意外と男らしい性格みたいだぞと、流衣は考えを直す。ヴィンスの綺麗な顔立ちは、どちらかというと女性的で優しげな印象だ。穏やかにとはいえ、はきはきとした口調で話すから、女の子に見えることはないが。
「そういえばルイ、昨日、何か拾っていましたよね? あれって何だったんです?」
思い出した様子で訊いてくるヴィンス。
流衣は少し考える。
「それって、道端で拾ってた石のこと?」
「そうです。硝子質の石ばかりでしたが、もしかしてルイは硝子職人なんですか?」
「僕が? まさかぁ」
硝子質の石イコール硝子職人の図式になっているらしいヴィンスに、流衣はつい吹き出してしまう。
「あれ、天然ものの魔昌石だよ。集めて、次の町に来たら売るようにしてるんだ。ちょっとは路銀の足しになるから」
「そうなんですか? へえ、面白いですね。そういうものって道端に落ちているものなのですか……」
意外そうに頷くヴィンス。それから大真面目に言う。
「外は知らないことばかりですね。こうして歩いてみて、もっと知る必要があると感じました。屋敷から出ても、馬車から外を見る程度でしたから」
「やっぱり、ヴィンス君ってお坊ちゃんか何かみたいだね。馬車から外を見る程度かあ、それだと退屈そうだなあ」
「ええ、そうですね。今まで、それが普通でしたから疑問にも思いませんでしたが……。自分で歩くだけでこれだけ世界が異なっている。素晴らしいことです」
そう言って、ヴィンスは好奇心に目を輝かせる。
見たとこ同じ年頃なのに、出歩いたことがないというのは不思議だ。小学生の頃は、子供は風の子だといって、冬でも昼休みは外に追い立てられていたのに。あ、でも貴族だったら習い事とか勉強とか、他にも剣術や馬術とか色んなことを学ばされて、外を駆け回る余裕なんてないのかもしれない。
だがやっぱり馴染みがないので全く想像がつかなかった。所詮、流衣は庶民の子供である。
「あ、そこにいたか」
ここで、ひょいと部屋の扉が開き、リドが顔を出した。
その扉の隙間から、何かが弾丸のように飛び出し、流衣の肩にぶつかる。不意打ちに、よろめいて背中を窓にぶつけた。
「いたっ、何!? ……ああ、何だ、オルクスか」
『何だではございません! 起きたらいないのですから、驚きました! 世界の破滅並みに驚きました!』
ガンガン頭の中に響く声に、流衣はくらっとする。
「ごめんってオルクス。顔を洗いに行ってたんだよ。あと、声のトーンを落として、頭がくらくらする」
『すみませんっ』
トーンを落とし損ねた声で、オルクスが謝った。まあいいけど。
「あ、そうでした。私も洗面に出てきたのでした」
流衣と話していたせいで用件を忘れたらしい。今更になって思い出したヴィンスは、そう言って洗面所の方に歩いていった。
「そいつがギャーギャー騒ぐもんだから、それで目が覚めちまったよ」
リドも洗面所に向かいながら、あくび混じりに言う。片手をひらりとさせ、気だるげな足取りで歩いていく。
それを見送っていると、渋い顔をしたディルも顔を出した。
「ふむ。確かに何事かと思ったぞ。……だが、だいぶ顔色も良くなったようだし、一安心だな」
「……ありがと」
「うむ」
軍人のように背筋をびしっと伸ばしたディルは、きびきびとした足取りで、二人と同じく洗面所の方へ去っていく。
流衣はそれを見送ってから、ふとオルクスの方を見下ろす。
「……オルクスも顔洗いに行く?」
『結構です』
水嫌いな使い魔は、きぱっと返事した。