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幕間1



 薄暗い地下通路を、白いマントを着た女が一人、壁に手をつきながらふらふらと歩いていく。

「く……、おのれ、黒竜め……」

 右半分に痛ましい火傷の痕を持つその女は、肩で息をしながら表情を歪めた。

 隙をついて逃げ出したまでは良かったが、防御する間もなく雷を受けたせいで身体が痺れ、思うように動かないのだ。

 それでも、女は懸命に前に進んでいた。

 この通路の先にある場所こそ、女の居場所そのものだったから。

 けれども、無理をして歩いてきたのがたたり、膝から力が抜け、その場でふらりと身が傾いだ。

 が、女が地面に倒れることはなかった。

「――お帰り、ユリア」

 白に近い銀髪と赤い色の目をした男が抱きとめたからだ。

 男が気さくにそう言うと、ユリアは目を丸くした。

「きょ、教祖様!」

 驚いたのも束の間、微妙な体勢に頬を赤くする。

「お手を煩わせて申し訳ありません! 私は自力で歩けますゆえ!」

「それは勘違いだよ。君がふらふらなのは見れば分かる」

 二十代後半程に見える、教祖と呼ばれた男はそう指摘して、差し出した手を断るユリアを背負い地下通路を歩き出した。

「あ、あの、教祖様。どうして私がここにいると……?」

 バツの悪い思いで身を縮めながら、それでも気になったことをユリアは問う。

「さっき、急に見えて(・・・)ね。ここに来るのが分かったから、迎えに来たんだよ」

 何でもないことのように、さらりと答える教祖。

 そういえば、教祖が時々、先見することがあったのをユリアは思い出した。いつも先を見るわけではないが、時々、思い出したように先が見えるのだと前に教祖自身が話していたのだ。

「もしもう少し早く見えていたら、君を呼び戻したんだけど。すまない、ユリア」

「そんな、教祖様が謝られるようなことではありません! 一重に私の未熟さが招いたこと。放置して下さっても構いませんでしたのに……」

 全く歯がたたなかった敵を思い出し、ユリアは気が沈んだ。そして、教祖の優しさに感動している自分と、役立てない悔しさが混在している複雑な心境だった。ユリアが教祖を慕っているのは、この教祖の優しさだったから、尚更だ。

 教祖は〈悪魔の瞳〉のトップであり、魔王を信仰し、その魔王に力を与える為に世の中を掻き回すような活動を率先して行っている。だが、活動内容に反し、本人は優しい人だった。

「黒竜相手に未熟も何もないよ。私でも互角ってところだろうし」

 教祖はあっさりとそう言う。

「そうなのですか! 教祖様で互角なれば、私など足元にも及ばない訳が分かりました」

 ユリア自身、転移魔法も使いこなす優秀な魔法使いなのだが、教祖に比べれば実力はずっと下の方だ。ただ、小回りが利くこともあり、あちこち派遣されることが多い程度なのである。

 ユリアの言葉に教祖は薄らと微笑んで、それからふと思い出したように言う。

「ああ、そうだユリア。君の顔を見ちゃったあの少年なんだけど」

 ユリアはハッと思い出し、咄嗟に謝る。

「申し訳ございません! 黒竜が割り込んできた為、取り逃がしてしまい……。口封じでしたら、回復次第、参ります」

「いや、そうじゃなくて」

「――は?」

 意図が見えず、聞き返すユリア。

「見た感じ、とてつもない魔力を持っているみたいだ。魔力量だけなら、私より上だろう」

「きょ、教祖様よりもですか!?」

 ユリアには到底信じられないことだった。例え教祖本人から聞かされようと。

 特に取り柄もなさそうな、地味な少年だったが……。しかし、確かに、言われてみれば魔力は大きい方だったように思う。

「彼、どうにかこっち側に引き込めたら良いんだけどなあ。サイモンに頼んでみようかな」

「サイモンにですか? それは、引き込む前に死んでしまうのでは?」

「うーん、ひ弱そうだもんね、あの少年……」

 教祖はひとしきり唸って、結論を出す。

「よし、決めた。ひとまず使い魔だけ放して、様子見しておこう。勇者側と接触しそうなら、サイモンを出そう」

 ふふふ、と楽しげに笑う教祖。

「楽しくなってきたねえ。ね、ユリア」

「そうですね、教祖様」

 ユリアはそう頷き返しながら、少し見ただけでここまで教祖の目に止まった少年に、軽く嫉妬(しっと)を覚えるのだった。


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