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その1

「私、あなたの小説を読むと、明るい話でもどこか寂しい感じがするんです」


 取材を受けたライターにそう言われ、久しぶりにアナタのことを思い出した。

 返答を頭でまとめている時、ふと窓の外の銀杏並木のキツネ色が増えているのに、もう十月なんだと感じた。

 今年の夏は新作にかかりっきりであまり外に出ていなかったからか、季節を嗅ぎ分ける嗅覚を完全に失っていて気付かなかった。


「それは多分、読んで欲しい人がこの世界にいないからだと思います」


 ニコッと微笑んで答えたつもりだったけど、言葉っていうのは本当に難しい。記者の方も一瞬、「え?」と笑顔を崩していた。

 私にはその意味が解らなくて、ボーッと外をまた眺めた。あの桜並木も今は葉桜をつけているのか。


 後日。

 朝から担当の編集の方から、慌てた声で電話がかかって来た。

 例の雑誌のインタビューを見た人々が、『アイツは小説を読者に読ませる気がないんだ』とか『独善的で生意気だ』『ちょっと売れて高飛車になっている』など、ネットで批判的なコメントをしていると。

 編集からの電話を片耳に流しながらパソコンを広げると、『ああそう言うことだったんだ』と、私からしたらあの時のライターさんの表情にやっと合点が行き、プッと吹き出してしまった。


「笑い事じゃありませんよ。発売直前なんですよ!」


 編集の人はそう言うが、私からしたら自覚のないコメントだ。雑誌を見て「確かにそう解釈もあるのか」と感心してしまった。そんなニュアンスで言ったつもりは毛頭ない。

 確かに、アナタのことを知らなければ、そう受け止めた方がしっくりくる一文だった。

 自分が言った意味以外のニュアンスが存在していたなんて夢にも思っていなかった私は、「言葉って面白いな」と他人事のように受け止めた。


 不可抗力である以上、ライターさんを咎めるわけにいかない。

 今更、文章を訂正をしようにも、作家である以上、その場で出した言葉で勝負をしなければいけない。なので、嵐が過ぎ去るまでの間、ネットには近寄らないようにした。


 本当のことを言っても誰も信じてくれないだろうし。説明をしたくても、もうアナタがこの世にいない事は事実だ。


 ネットのない現代社会の夜は窒素と同じ割合で暇が空気中に存在している。私は自転車に揺られ、一人であの桜並木に行ってみる事にした。

 十月の葉桜はただの緑の木で、特別な存在には思えない。一人、ベンチに腰掛けて、満開の桃色の花をつけた四月の桜を想像していた。


──アナタの頭の中にある満開の桜って、過去の桜? 未来の桜? ──


 十二年前のアナタの声と一緒に満開に咲いた桃色の桜並木をあのベンチに座って思い浮かべた。


 友達でも親友でもないけど、私の大切なアナタ

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