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白い結婚をした転生令嬢は王子様の溺愛に気づけない  作者: 赤林檎


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17.断罪の時(後編)

「テレーゼ、君のご両親を毒殺したのは、我が母だ。我が母に君の望むような刑罰を与えてくれ。それをもって、この情けない私を許してほしいのだ」

 ユリウス殿下はわたくしに向かってひざまずき、首を垂れた。

 わたくしはユリウス殿下を立たせると、国王陛下の前でひざまずいた。


 ―ーわたくしはこの時を待っていたのだ。


「テレーゼ、申してみよ」

 国王陛下に促され、わたくしは小さくうなずいた。


「王妃殿下はわたくしの両親の仇ではございますが、愛するユリウス殿下のお母上でもあられます。北方にある幽閉用の尖塔に送ってくださいませ」

「テレーゼ、そんなもので良いのか?」

 ユリウス殿下がわたくしに確認し、わたくしは「はい」とだけ答えた。


「わたくしを幽閉!? なにを言っているの!? わたくしはこの国の王妃よ! なんで一介の侍女がそんなことを決めるのよ!?」

 王妃殿下がわたくしに歩み寄ろうとするのを、ヨゼフィーネ殿下が抱きついて止める。

 ユリウス殿下はそんな王妃殿下を、冷たい目で見つめていた。


「ロスヴィータ、テレーゼの温情に感謝するのだ」

「はぁ!? 意味がわからないわ!」

 国王陛下がわたくしに向かってひざまずいた。

 王妃殿下が叫び声をあげ、ヨゼフィーネ殿下が「お母様!」と呼びかけた。


「ロスヴィータを生かしてくれて感謝する」

 わたくしは返事をしなかった。


 生かすのは温情なのかしら? わたくしは生きているのが辛かった時間が、とても長かった。生きているって、本当にそんなに良いことなのか、ちょっとわからないわ。


「私は退位して、離島にある王族の修道院でロスヴィータの犯した罪を共に償おう」

 国王陛下は立ち上がり、わたくしのことも立たせてくれた。

 そうしている間も、王妃殿下は錯乱したように叫んでいた。


「ロスヴィータ……、我らは今生では、もう二度と会うこともないだろう」

 国王陛下が王妃殿下に近寄った。ヨゼフィーネ殿下に代わって、王妃殿下を抱きしめた。

 王妃殿下の目からも、涙がこぼれ落ちた。


「王妃殿下がずっとわたくしを認めてくれなかったのは、わたくしが茶色の髪と瞳をしていたからですよね」

「そうよ……。テレーゼときたら、まるで平民みたいな、髪と瞳なのですもの……」

 ユリウス殿下はわたくしを抱き寄せ、わたくしの髪に口づけを落とした。そのまま頬ずりまでしてくれた。


「私は母上の瞳が好きでした。やさしい茶色の目が、いつだって幼い私をやさしく見つめていてくれた。私はずっと茶色が好きだった。テレーゼを好きだと思う前から、ずっと……」

 ユリウス殿下はわたくしから離れ、両腕を広げて、抱き合う両親を抱きしめた。


「ロスヴィータ、私はどこもかしこも好きだった。その茶色の瞳も含めて、すべてが好きだったのだぞ!」

「お母様、わたくしだって、わたくしだって……! お母様の目がどうこうなんて、思ったことは一度だってありませんでした……!」

 ヨゼフィーネ殿下も泣きながら、両親と兄を抱きしめた。


「王妃殿下は、それでは足りなかったのですよね」

 それだけご家族に愛されながら、そのご家族の愛では、王妃殿下を癒すことができなかった。

 後宮でいじめられたこと、後宮で認められなかったことが、王妃殿下の心を傷つけ続けた。


 わたくしは知っている。王妃殿下の苦しみがわかる。

 すでに持っている、その愛だけでは癒せない、もはや自分ではどうにもできないほどに深い傷も、この世にはあるということを。


「国王陛下」

 わたくしはまたひざまずいた。

「今の後宮にいる者たちを、侍女ら、使用人を含めて全員、各地の鉱山や製糸場に送ってくださいませ。終生、重い労役を科すのです。王妃殿下をこれだけ苦しめた者たちに厳罰を!」


 わたくしも幼い頃は、王妃殿下が好きだったのだ。

 王妃殿下とユリウス殿下、わたくしの母とわたくし、四人で王宮の庭で一緒に遊んだ。

 あの頃の『やさしい王妃殿下』を殺すほどにいじめた、後宮の女たちが、わたくしは一番許せなかった。もちろんこの世界の両親を殺した王妃殿下は許せない。許せないけれど、そんな王妃殿下よりも、ずっとずっと、はるかに後宮の女たちが許せなかった。


「やはり、私のテレーゼはやさしいな。良いだろう。私が決して一人も逃さない。生涯、恩赦など与えることなく、罪を償わせ続けよう」

 わたくしに応えてくれたのは、ユリウス殿下だった。

 ユリウス殿下は、さすがにわたくしをよくわかっていてくださる。


 罪を犯した王妃殿下は幽閉されて、おそらく一年もしないうちに亡くなるだろう。

 雪深い北方にある幽閉の尖塔は、冬を越せる者のない処刑場だ。

 罪人は、排泄用の壺以外にはなにも置かれていない、小さな窓が一つあるだけの、恐ろしい部屋に入れられるのだと聞いている。


 王妃殿下の心は、癒える機会を得られないままとなるだろう。

 わたくしが王妃殿下を生かしておかないと決めたのだ。


 その代わり、わたくしの『やさしかった王妃殿下』を殺した者たちには、長く生きていってもらいましょう。

 この国の産業の発展に貢献してもらうわ。

 最も危険な作業や、辛い作業を担ってもらうの。

 王妃殿下を長く苦しめたのですもの、その何倍もの長い時間を辛い労役に費やしてもらうわ。

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