表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白い結婚をした転生令嬢は王子様の溺愛に気づけない  作者: 赤林檎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/24

10.聖地が危ないらしいです(後編)

「わたくしが思いますには、『聖地』とは『王家の墓陵』を指すのでは? ユリウス殿下は王都におられます。王都から防衛できる『聖地』となると、『王家の墓陵』以外にはないかと……」

「この国で『聖地』と呼ばれる場所ならば、他にもありますよね? 世界樹ですとか、天上湖ですとか……。しかし、ユリウス殿下が王都にいながら戦っておられるとなると、『王家の墓陵』でしょうね」


 わたくしは、ユリウス殿下がわたくしの実家に通って来ていたことを思った。

 庭師のダーヴィト! ただの我が家の使用人のはずなのに、妙にユリウス殿下と親し気だった。子爵家の庭師なのに、王宮のことに妙に通じている節があった。


 ダーヴィトが館についてユリウス殿下に進言すると、ユリウス殿下は館が人手に渡らないよう手配すると言っていた。

 あの館の庭には『王家の墓陵』に続く、秘密の抜け道のようなものがあるのだわ!

 ダーヴィトは我が家の庭師をしながら、長年、王家のために、秘密の抜け道の番人をしていたのよ!


 いろいろな情報が次々と繋がっていく。

 まさか、あの館にそんな秘密が隠されていたなんて!


「ユリウス殿下はおそらく、我がロスティ子爵家の屋敷の庭から、『王家の墓陵』へと通っておられます」

「庭から!? では、テレーゼ嬢のご実家の庭には、『王家の墓陵』へと続く隠し通路があるのですか!」

 フェリシアは興奮で声が大きくなりそうなところを、必死で抑えている様子だった。

 わたくしもまた興奮しながら、強くうなずいてみせた。


「ユリウス殿下は館の所有権について気にしておられました。ただの子爵家の館ですのに、おかしいと思いませんか?」

「そうですね。なるほど。乳母ならば、腹心の部下などよりも、ずっと近しい存在だったはずだ。――ユリウス殿下は乳母の屋敷の庭に、『聖地』へと続く隠し通路を作らせた。ありえる!」


 なんだか、すごいことになってきたわ!

 フェリシアは何度も一人でうなずいている。きっと今、フェリシアも、いろいろな情報が繋がっていく快感を味わっているのだろう。


「俺はユリウス殿下の婚約者です。『王子様の婚約者』という立場ならば、いろいろ動きやすい」

「わたくしもお力添えいたします。何なりとお申し付けください」

「ありがとうございます」

 わたくしとフェリシアは、粉っぽいテーブルの上で一度、強く手を握りあった。

 フェリシアの青緑色の瞳は、使命感で鮮やかに輝いていた。

 わたくしの地味な茶色の瞳もまた、それなりに輝いていることだろう。


「婚約の場に、ユリウス殿下の代わりとして、ヨゼフィーネ殿下がおられたのですが……。ヨゼフィーネ殿下はどういった方なのですか?」

「どういった方とは?」

 ヨゼフィーネ殿下はユリウス殿下の同腹の妹だ。ユリウス殿下と同様、銀髪に青い瞳をなさっておられる。他にもユリウス殿下と似たところの多い方で、論文もお書きになられていると聞いていた。

 刺繍やお茶会よりも読書を好まれる、淑やかな王女殿下だ。


「俺に会っても戸惑うことなく、『お姉様になってほしい』とおっしゃいました。ずいぶんと豪気なお方なのですね」

「ヨゼフィーネ殿下が? 豪気?」

 わたくしのイメージでは、女性の格好をしたフェリシアと会ったりしたら、驚いて卒倒するような、おとなしいお方なのに……。


「それだけ王家が、フェリシア嬢との婚姻に前向きということですわ」

「普通に考えたら、そうなのでしょうけれど……。なんかちょっと……、違う気がしていまして」

 兄に嫁いで義姉となってほしいと言っているのに、なにがどう違うというのだろう。他の意味に受け取りようもない言葉ではないか。


「そんなにも王家は、こんな俺との婚姻に乗り気なのでしょうか……。婚約しただけなのに、もうすでにヨゼフィーネ殿下から、『お姉様と呼ばせてほしい』と言われております」

 フェリシアが非常に戸惑っているのが伝わってくる。辺境では兄の婚約者に対して、義姉と呼んではいけない決まりでもあるのだろうか。


「あの……、本当に戸惑っておられることはわかるのですが、義姉と呼ばれることのなにを、そんなに困惑されているのでしょうか?」

「自作の物語の本を渡されまして……。それが……、生死を共にすると誓い合った、義理の姉妹の物語なのです」

 唐突な三国志の登場に、今度はわたくしが戸惑った。青空文庫で三国志を読んでおいて良かったわ。


 三国志は中国で書かれた、義兄弟が出てくるお話だった。桃園の誓いというもので、三人の男たちが義兄弟になる。

 その桃園の誓いが、『生死を共にする』という内容だったはず。

 彼らは廃れた王朝を復興させようとして、戦いに身を投じていく。

 たしか、そんな感じのお話だったはずだわ。


 ヨゼフィーネ殿下は、なかなか壮大な話をお書きになっていたのね。


 三国志は戦いの話。そうよ、戦いの話だったわ!


「もしやヨゼフィーネ殿下は、その自作の物語の内容を通じて、フェリシア嬢に『聖戦』について、なにか伝えたがっていたのでは!?」

 わたくしが思いついたことを口にすると、フェリシアははっとした顔をして、腰に忍ばせて持ってきたという薄い本をテーブルの上に出した。


 愛らしい丸みのある文字で書かれた『婚約者になどお姉様は渡しません』というタイトル。

 なんだろう……、この、いきなりユリウス殿下に宣戦布告しているようなタイトルは……。


「俺は最初、ヨゼフィーネ殿下が『兄をとられたくない』というアピールをしておられるのかと思いました」

「ああ、そうも受け取れますわね。『お兄様は渡しません』ですね」

「少し読んでみたのですが……、どうもそういう感じでもないようでして……」

 フェリシアは本を手に取り、ぱらぱらとめくった。

 とても愛らしい桜色の表紙には、薔薇と百合に似た花が、銀で箔押しされていた。


 ヨゼフィーネ殿下がお書きになったのは、『小さな女の子が婚約者にお姉ちゃんをとられたくなくて、泣き出してしまう』みたいな、かわいらしい家族愛の物語なのかもしれない。


 フェリシアは女性の格好こそさせられているけれど、武芸を好む雄々しい男性だ。子供向けの絵本を渡されても、楽しめないのかもしれない。


「フェリシア嬢もかわいいものがお好きに違いない、と思われたのかもしれませんわ。この本の表紙もお花が咲いていて、とても愛らしいですもの」

「ああ、そちらか! たしかに、女性の好む色と箔押しですね。好んで女性の格好をしていると思われたなら、愛らしいものを共に愛でられると思ったのかもしれません」

 フェリシアは何度もうなずきながら、本の表紙を見ていた。

 どうやら、わたくしはフェリシアのお役に立てたようだった。


 わたくしとフェリシアはクッキーと紅茶を食べ終え、さらに水炊きを一緒に作って食べてから、『聖地』へと続く秘密の抜け道を探すため、わたくしの実家に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ