2-4
コレットを転移させたあと、ジークベルトが何かいいたげにこちらを見ている。
「コレットは、ジークこと相変わらず苦手そうだな。戦場の若きエースもコレットの対応を間違えたな」
「まあ、こちらは昔嫌ってたので思いっきり嫌味をいったり馬鹿にしてましたからね。彼女の噂が嘘だと思ってましたから」
戦場、それは魔物との戦いのことだ。
ここ数年は落ち着いているが、最近まで魔物の脅威があった。
魔物、それはダンジョンから派生するもの。人間の心を持たず魔力を使い殺戮を繰り返す。意思疎通をせず力だけに従う。
見た目は動物のようなものもいれば機械的なものもいる。それらはすぐに魔物とわかる。それら魔物は体のどこかに赤い魔石をつけている。強い魔物に従って魔石は心臓に近くなる、さらに強い魔物だと魔石の色が濃くなる。赤から黒に。
昔から魔物はいる、ダンジョンはいつできたかも不明。確認できているダンジョンは4つ。
ただ1つのダンジョン、西のダンジョンからは地上にまで魔物が出てきていた。
ダンジョンの中から湧いてくる魔物が多いのか、地上にまで魔物が出ており魔法使いたちはそれらを駆逐する戦いを数年前まではしていた。
そう数年前までは。
ジークベルトも魔法使いのため戦場に駆り出されていた。
そしてコレットの噂を聞いていた。
"コレットは戦場の天使である、彼女の優しさで戦場は変わる"
"彼女は血を出し傷ついても彼女は止まらない"
"彼女がいれば数千、いや数万、数億の魔物が葬られる"
"彼女が来ると戦場はかわり、戦場は彼女に勝利を提供する"
"彼女が来ると魔物もおそれをなす"
戦場では彼女の噂はおかしいものばかり。
戦場の天使?治癒能力は聖女しかできないのに?
はは、ちゃんちゃらおかしい、優しさで戦場なんてかわるわけない。
ましてや傷ついたらとまる痛いからな。
貴族令嬢だから遠いところから援護魔法をせいぜい放ってるんだろうな、だから痛みなど知らないに違いない?
「令嬢で現場を知らない奴が好きに噂を流してると思っていました。令嬢だから。噂で評判をよくするために過剰に流してるとね」
「まあ、実際戦場で過剰な噂を流して評判をあげようとしたご令嬢はたくさんいたしな」
「ええ、でも聖女たちだけです。戦場もあまり知らないやつらたちです」
「でもコレットは違う。彼女は魔法使いです。魔法使いは戦場で働きます。現場を知っているくせにあんな嘘みたいな噂を流す彼女のことが嫌悪感いっぱいで大嫌いだったんです。ダレンであう彼女はただの貴族令嬢でしたから」
ジークベルトは己の手をじっと見つめた。戦場でできたたくさんの傷は癒してもらい傷一つない自分の手を。
「でも俺は彼女には助けられました」
「あの大戦のときだな」
「そうです。皇帝クラスの魔物と戦ってボロボロで奴の放った一撃に死を覚悟したときです」
ジークベルトは手の感触を確かめるようにをなん度も握り締める。
「死の一撃、彼女が僕を庇ったんです。至近距離からの攻撃で完全に彼女だって防ぎきれないとわかっていたらしいですけど。しかも、庇ったんではなく皇帝クラスを叩きのめすために間合いに入ったらしいです。そして彼女は寸分の狂いもなく皇帝クラスの魔物の魔石を壊したんです。せまりくる一撃の痛みや恐怖など感じさせない攻撃でした。彼女は防ぎ切れず肩を負傷したのに」
体を庇ってシールドを作っていては間に合わない。そう思ってコレットは防御ではなく攻撃の手を選んだのだ。
迫りくる一撃から己を守るより決定的な一打で魔物を葬れるように。
ジークベルトは強く手を握りしめた。まるで後悔するように強く。
「助けてもらった後彼女に聞いたんです。嫌っている僕を助けて恩をうったつもりかと…ははは、僕も死の恐怖でおかしくなってたんです。まずは助けてもらった彼女に御礼をいうべきなのに」
「なのに、彼女すみやかに魔物を倒すのが仕事で助けた方が魔法使いの人員が減らない。さっさと仕事終えて帰りたいって言ったんです。ことめなげに」
「コレットらしいな、戦場では仕事スイッチを入れてるから魔物を倒す以外は気にも留めないって言ってたな」
「そのとき思ったんです。彼女のことは大嫌いだけど彼女の功績は本当かもしれない。否定するには判断材料がすくない。どれが真実か自分で判断すると」
「ジークは真面目だからな」
「そして結局、彼女が勝利に導いた。皇帝クラスの魔物がなくなったので、統率がとれない魔物たちに彼女が遠距離近距離からの特大魔法で息の根を止め力を証明し声に魔力を宿しダンジョンに帰れ、出てくるなと命令してから今は平和になりました。さいきんの平和は彼女のおかげです」
「あいかわらず規格外だな」
「そして僕は彼女のことは嫌いだが、彼女の噂は真実だと確信したんです。だから僕は彼女を否定することはやめようと思ったらコレットがすきになってしまった」
ジークベルトは己に呆れたようにはははとわらう。
「お前は両極端なんだよな。おんこうでおだやかに見えるくせに好き嫌いが激しい」
エリスも呆れたようにジークベルトを見る。
「好きになったので好かれようと思ったのにもうすでに嫌われすぎている」
「頑張れー」
エリスは哀れな男の肩をポンっと叩いた。
「アプローチしようにもまた今回距離ができた、物理的に」
「どんまい」
「そもそもコレットが戦場と戦場以外の違いすぎるのがダメなんだ。ポンコツと思ってたから馬鹿にしてしたり嫌味を言ったのが嫌われの原因だ」
「まあ、コレットは魔法に関することはポンコツだからな」
ここにコレットがいたらすわぁ!失礼な!と言っていたに違いない。
「そうですね、でもポンコツなところも可愛く思えます」
ジークベルトが少し顔を赤らめる。
「末期だなー。私も可愛く思える、なんせ育ての親だからな」
「応援してください。とりあえずコレットの近くに引っ越すので長期休暇をください」
「ダメに決まっとる。大体好きでもない男からが近くにいきなり住んだら怖いだろう!恋愛初心者か!お前は!!」
「恋愛はしてました。なんせ貴族で顔がいいし魔力持ちですからもてますから。でもコレットは初恋なんです」
「うわぁ、嫌味なやつ。でも初恋かー」
「ええ、だから毎日でもコレットがだれを好きでも僕は彼女を愛してるんです。だから顔を見たいしちかづきたいんです。なのでコレットに連絡するとき必ず声かけてくださいよ」
「連絡するさいはなー」
エリスは遠くに去った愛弟子に思いを馳せた。
この重すぎそうなこじらせた男に好かれた弟子に少し同情をよせて。