序章
クリニーク伯爵家令嬢、コレット=クリニークは優秀な魔法使いである。最年少でリード王国のエリート揃いの魔法使いの塔ダンテの代表候補。
他の代表候補の中でも群を抜いた魔法の才能、センス。国も囲い込むために第二王子の婚約者候補にも名前があがっていた。そしてほかの第二王子婚約者候補の貴族令嬢、同僚からの嫉妬でコレットは呪われたのかもしれない。令嬢からの嫌がらせと呪ってやる等の手紙はたくさんくきていた。
呪いはティースプーン並みの大きさになることだった。
朝起きたらコレットは小さくなっていた。ティースプーンぐらいの大きさに。
…はい、現実を見ましょう。もう一度目をつぶって勢いよくえいやと目を開け直したけど現実はかわらなかった。小さいままでした。
昨日、ダンテの代表候補に選ばれたと代表から直々に言われました。そして第二王子の婚約者にほぼ内定したとも。なお一層精進を重ねるように念押しされた。
ここ3年ぐらい前から風の噂でコレットが候補に入るかもーという話は聞いていた。いや、自分若造だし代表とか荷が重いんだよな~この話流れないかなーと思ってた。ある日、久しぶりに会うお母様に「コレットちゃんは優秀だから代表候補だけど第二王子の婚約にも選ばれそうよ」と嬉しそうにつげられた時。
無理無理無理、荷が重すぎで第二王子とかよく知らないです。辞退は許されますか?!
悲しいかな、コレットは淑女教育のせいで驚きを顔に出せなかった。驚きは出さなかっだが口角を上げアルカイックスマイルで話を流した。
どんな驚いた時でも表情をでないなんて淑女教育のたまものね。いやいや、むりむりよー婚約者とか。確かに第二王子のルイス様はかっこいいよ。身分も高いし。お母様の娘が候補に選ばれて嬉しいよねー。なんて他人事のような感想をいだいたが、すぐに自分には荷が重い状況にお断りの文句が心の中に列挙した。
たしかにコレットは魔力も豊富で優秀な魔法使いだ。小さい頃から魔法の英才教育、皇室と同じ水準の淑女教育を受けた。
伯爵から預かったやんごとなき身分の令嬢をしっかり教育するため魔法塔の上のものたちはできるかぎりの力をささげた。皇室にも相談し皇室と魔法塔が近いので皇室の礼儀のスペシャリストが直々に教えることになった。
その結果淑女教育は完璧、魔法使いとしても優秀になった。だが、根っからの気質かエリート揃いの魔法使いのせいもあってかコレットはコミュニケーションが下手くそだった。心の中では荒れ狂ってるし小心者だが表情は無表情もしくはアルカイックスマイルで巧妙に隠しきれたのでいまのところ周りには小心者であることはバレていない。
まぁ、小心者がばれたら他の貴族や魔法使いになめられるのよね。なめられたら貴族は巧妙に金をむしり取られたり乗っ取られて笑い物にされる。悪質よね。魔法使いたちも無理難題いってくるしバレていいことなし。
なんでよりによって、私が第二王子の婚約者候補に選ばれてるんだよー!!
お願い、この小市民を苦しめないでー!話流れて!!
────残念ながら、第二王子の婚約者候補もダンテの代表候補も話は流れなかった。
ショックだったが、とりあえず寝ることにした。
夢見が悪くうんうんとうなされた。体が熱く知恵熱がでてきてるのかと思ってた。
まさか呪いをかけられてるとは露にも思わなかった。最近の行動を反芻したが誰に呪いをかけられたかわからない。恨まれる要素はたくさんある。
もしかしてかなり恨まれてる、小さくなる呪いはみたことない。
第二王子関係で貴族の令嬢にかけられたとか。金はみんなもってるからね。それとも同僚の魔法使いに候補に選ばれて嫉妬されたとか。
ただ小さくなっただけで魔力もあるし使えそうだ。小さくなったけど大丈夫ーと割り切る事はとてもじゃないけど出来ない。未知の呪いなので何が起きるかわからない。
とりあえずベッドからでることにした。ベッドの段差がこわい。風魔法を使って体をうかして降りればいいが、微妙な風魔法の調節が上手くいかないような気がする。なんせ小さくなってからどれくらいの魔法を身に纏わせたらいいのか自分の体の把握ができてない。空を飛ぶ魔法は体重が増えたときもうまくいかない。それぐらい繊細な魔法だ。
「小さくなったけど上手く付き合っていかないと。とりあえずベッドからおりないと」
「そうだね、コレット。現実はかわらないからニャー」
部屋にいた使い魔の猫がそう言いながら私の近くの枕元まで移動してきた。
「え、この姿になるとチャチャと会話できるのね!?」
チャチャは茶色のチャトラの猫だ。
「チャチャ、私はベッドから出たいの。乗せてくれない」
「おやすいごようにゃ。出るだけでなくいきたいとこまで連れて行ってあげるよ」
「チャチャはかわいいだけでなく優秀ね。私のやりたいことの先読みまでするなんて」
チャチャはコレットが乗りやすいように身体をかがめた。チャチャの体によじ登り首元の首輪に手をかけた。
なんていい触り心地だろう。ふわふわの毛がたまらない。元の姿に戻ったらブラッシングをしよう。
「チャチャ、あなたの毛並みは最高ね」
嬉しそうにチャチャの喉が鳴った。
「どこにいかれます?」
そうね、とりあえず上司に報告かしら。いつ戻るかわからないから仕事は休みにしてもらおう。
そして可能ならばワンチャンいや、ツーチャンいけるのでわ。代表候補辞退に。第二王子候補辞退だ。自分から辞退するではなくやむを得ない事情の辞退。誰からも侮られないし誰からも責められない。もし辞退できなかったとしても、一旦仕事はやすもう。とりあえず今後の方針をきめておきたい。
1.代表候補の辞退。小さいままだとどこまで魔法使えるかわからない。無駄に魔法は使わない。
2.第二王子の婚約者候補の辞退。令嬢が呪った可能性が濃厚だもん。嫌がらせの手紙がよく届いてたからね。
3.小さくなる魔法の解除。呪いをそのままにするのは怖い。とりあえずどんな魔法をかけられたか把握しよう。
よし。とりあえずはこんなところだろう。ホウレンソウ大事、報告連絡相談。自分一人ではこの状態を打開できないから。
「チャチャ、代表のところに向かって」