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第1章 第1話

時はしばし遡る。


「ってことでね、あたし悪堕ちしたいと思うの」


「……はい?」


魔王軍、その居城「魔王パレス」。

現実と非現実のはざまである、異空間に存在する侵略の拠点である。

その最奥、魔王の間で黄色いドレスに身を包んだ少女――魔法少女リリィオパールと『彼』は対話していた。


「ま、魔王様お逃げを……」

「あ、悪魔ですじゃ。そやつは人の皮をかぶった悪魔ですじゃ」

「怖い怖い怖いこわいこわいコワいコワい――」

「ばたんきゅう~~」


周囲には数多の魔物が傷だらけで倒れている。

魔物だけでなく魔王軍の中でも屈指の実力を持つ『四天王』も含まれていた。そんな彼らも満身創痍で身じろぎもできないほどに、完膚なきまでに叩きのめされている。


「あー、外野がうるさいわね。あんたらを別に取って食おうってわけじゃないの。ここには対話しにきてんの。ってか、そもそもあんた達が先に攻撃してきたんだから、これは正当防衛よ」


「――いや、いきなり敵が本拠地に乗り込んできたら攻撃と思うでしょ」

オパールの目の前の男――魔王が恨めしそうに呟く。

「なに?私が悪いの?」

ぎろりと、魔法少女とはイメージがかけ離れた鋭い視線でオパールが魔王を睨む。

「ひっ!?……す、すみません」

3mを超える筋骨隆々の男は自分の半分程度の身の丈しかない少女相手に正座させられていた。

つい数刻前、単身乗り込んできたオパールに魔王軍は壊滅させられていた。

もはや目の前の少女に逆らえるものなどこの場に誰一人もいないのである。


「まあ、いいわ。で、さっきの話だけどあたし悪堕ちしたいの。」

「あく、おち??」

魔王はぴんと来ていない様子、オパールは魔王のそんな様子にいらだったように説明する。

「魔王なのにそんなことも知らないの?悪堕ちってのは、正義のヒロインとか私たち魔法少女みたいなのが洗脳とか心を操られたりして敵の手に堕ちるってこと。」

よく魔法少女ものの漫画やアニメでよくある話ね、と彼女は言う。

「それで敵に寝返った正義の使徒が、悪の組織の忠実な先兵としてかつての味方と闘ったり悪事に手を染めたりするの。ま、堕ち方にも色々派生があるんだけど、大まかに説明するとこんな感じね。」


「つ、つまり魔王軍に入りたいということでしょうか?」

「そんなわけないでしょ」


冷たく言い放つオパールにますます困惑する魔王。

「あたしはね、……魔法少女を辞めたいのよ」

「はい?」

「だから、あたしは悪落ちして魔法少女を辞めたいのッ!」

「えーと、では普通に辞めればいいのでは?」

魔王の当然な質問に魔法少女は大きなため息を吐いた。

「それが出来ればあんたたちにこんなこと頼みに来ないわよ」

一度ぼこられてるし頼みに来ている態度じゃないよなと魔王は思ったが口には出さなかった。

「あたしたち『魔法少女セイントリリィ』は『妖精』と契約して魔法少女になったの」


『妖精』――魔王軍率いる魔物同様に異世界から来た超常的な存在。

理由や目的は不明だが、適正ある少女にその力の一端を与え世界にはびこる魔物を駆逐せんとする生物である。


「あのクソマスコットが魔法少女を辞めることなんか絶対に許さないわ」

「……?妖精は力を授ける仲介役でしかしないはず。貴方程の力があれば逆らうこともできるのでは?」

「そうね、『ペナルティ』さえなければね……」

「ペナルティ?」

「ええ、あたしたち魔法少女になったときにね、契約書を書かされたの」

「ええ……、魔法少女になる契約ってそんな民法じみているんですか」

「……ええ、実印と印鑑登録証明書まで求められたわ。不動産の売買かっつーの。」

思い出したのか恨めしそうにつぶやくオパール。

「あの時、私もよく目を通すべきだったの。契約書の端に小さくこう書いてあったの……。『本契約の履行を目的未達成のまま放棄した場合、1500年の懲役もしくは爆散』って」

「……」

魔王軍がドン引きしていた。

「何よ!?爆散って!あんな『君も魔法少女になって多くの尊い命を救わないかい?』なんて勧誘してきたファンシーマスコットがまさかそんな条項を契約書に載せてるとは思わないじゃない!?その尊い命にあたしの命を含まれないわけ!?」

これまで敵対していた妖精の残虐性を知った魔王は目の前の少女に少し同情をした。

「……ほかの2人の仲間はその契約に対して何と?というか、そもそも魔法少女を辞めたいのはどうしてですか。貴方たちとはこれまで幾度も闘ってきましたが、強すぎるせいで我々を秒殺……、危なげもなさそうじゃなかったですか。辞める理由もないのでは?」

自分で言ってて少し悲しくなる魔王。しかしそれ程までに目の前の魔法少女の力は強大であった。

「そうね、あんたらをボコるのは簡単。朝のゴミ出しノルマ程度の認識よ」

「朝のルーチン程度の感覚でボコられてたんですね私たち」


「魔法少女として働くのは別にあたしは嫌いじゃないの。適度に弱い相手をボコるのはストレス発散にもなるし。むしろ楽しいくらい。でも――」

正義の魔法少女とは思えないセリフを吐くオパール。


「あたしが魔法少女を辞めたい一番の理由は――ほかの仲間の存在よ」


続く


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