第1章 イントロ
「どうして……」
月夜が照らす、人気のない工事現場に少女の困惑した声が溶ける。
声の主である少女のほかに後ろに2人の少女が同様に息をのんでいた。
可憐なドレスに身をまとい、まるでアニメや漫画から出てきたかのような彼女たちは――世間では「魔法少女」と呼ばれていた。
声を出した活発そうな少女は『魔法少女リリィルビィ』と呼ばれている。
後ろの緑と青のドレスを身にまとった少女たちは『魔法少女リリィエメラルド』、『魔法少女リリィサファイア』と呼ばれている。
色を宝石に合わせたような安直なネーミングではあるが、陰ながらこの世界を守る正義の使徒である。
雲間から覗く月光がそんな少女たちの視線の先を照らす。
現れたのは二つの姿――。
片方は明らかに人の姿ではない、異形の形。
筋骨隆々の上半身に、3mはあろう身の丈。素肌は暗い紫一色で頭からは邪悪な角が鈍く光っている。
獰猛な野生生物を思わせる瞳は赤く輝き、眼下の少女たちをあざ笑うかのように睥睨していた。
数年前、突如として日本に現れゲリラ的に人を襲う謎の生物――魔物。
そんな魔物を統べる王、それがこの『魔王』であった。
しかし、少女たちの視線はその人外ではなく隣の姿を捉えていた。
少女たちと同様、ドレスを身にまとった少女がそこにはあった。
しかし、彼女たちとは異なる様相である。
その姿は闇に溶けるような漆黒に包まれた装衣で、脚や腹など露出が多い蠱惑的な姿。
髪は紫に染まり、その目も隣の人外のように赤く爛々と輝く。
スカートの間からは悪魔のような尻尾が生え、その姿は悪魔と魔法少女のはざまのようであった。
「蛍ちゃん!!どうして!!」
ルビーの悲痛な叫びが闇に木霊す。
「……魔王様、ご命令を。」
ルビィの叫びに何の反応もなく虚ろな声で呟いた。
彼女の名前は『魔法少女リリィオパール』。少女たちとともに闘う魔法少女の一人である。――いや、そうであった。
彼女たちの知る彼女はもうそこにはいない。目の前にいるのはもはや魔法少女ですらないのである。
「……では、オパール。いや、『ダークオパール』よ。我が命じる――お前の手で魔法少女どもを血祭りにあげるのだ」
下卑た笑みを浮かべ魔王が命じる。
「――ッ何を言って!?」
驚愕するかつての仲間に漆黒の少女は無慈悲に告げる。
「承知いたしました、魔法少女を排除いたします」
彼女は機械的な声でそう呟くと武器を取り、眼下の少女たちにその切っ先を向けたのであった。