月とムーの7つ目の冒険
ムーの7つの冒険
「Nessun dorma!(誰も寝てはならぬ!)
Nessun dorma!(誰も寝てはならぬ!)
Tu pure, o Principessa,(それでもあなた、お姫様は)
nella tua fredda stanza(あなたの冷たい部屋で)
guardi le sole e luna che tremano d'amore e di speranza…
(愛と希望に震える黒い太陽と白い月を眺めるのです)」
また、同じ詩で目を覚ました。
どこか懐かしく、大切なはずなのに、この詩以外に、なにも思い出せない。
不思議と何度も繰り返される、その詩だけを知っていた・・・
眠い目をこすって、徐々に重い體に押し込まれ、一日のスケジュールをぼんやりと考える。
この朝が、平日でないイレギュラーな日曜日であることにどこか心が和む。
しかし、一通の連絡をみてその平穏な朝は幕を閉じる。
「起きてる?また寝坊?私、先に図書館で勉強しているねwww」と受験を共にする友達のりんごから届いていた。
私は、約束にまた遅刻してしまった。
けど、「りんご(輪子)」りんごで、時間には、あまりきっちりしていないタチであった。だから、お互いに気楽に付き合えている。
りんごに、「ごめん遅れる。勉強していてwww」と返信した。
二度寝しないように布団をどかしてカーテンを開け、私の重たい体が徐々にこの世界に馴染んでいく。窓からみる外は、晴れており、少しばかり風が吹き荒れる夏休みのはじめのことだった。
部屋の扉を開け、階段を降り、一階の洗面所で顔を洗った。
リビングキッチンの戸棚からコップを取り出し、冷蔵庫からミルクを取って、テーブルに置いてあるパンを焼かず、そのまま牛乳で流し込む。
休日のリビングには、父が、ソファーでくつろいでいる。
近頃は、あまり喋らなくなっていた。
一緒の空間にいるだけで、父にイライラする。
私も反抗期なのだろう。
3年前は、兄が、お母さんを嫌っていることを不思議に感じていたが、私も父が嫌いになった。
小さい頃は、たくましくみえ
「私は、大きくなったらお父さんと結婚する」と、抱きついていたが、いまでは寒気が走る。
昨晩、家族でご飯を食べいる時にお母さんが「あら、翼も反抗期ね。男の子はお母さんに恋をして、ある年齢を迎えると失恋するのよ。女の子は、お父さんに恋をして、ある年齢を迎えると失恋するのよ。よかったわ。反抗期がきて。失恋をしないと、親離れできず、自立できないからね。私は、お父さんが早くに亡くなったから失恋できずに、未だに強いお父さんが私の中でいるのよ」と、笑っていたが、父の臭いが強烈で近寄りたくもなかった。少しだけ早くに亡くなった祖父と母の関係に嫉妬を覚えた。なぜなら、近づきたくもなく、口も聴きたくないからだ。
かといって、父は無駄に私に干渉をしてこない。そういったとこは、友達の話を聴く限り、許容のあるほう父のだと思う。
いまこうして、父のことをまた考えている自分に腹が立ってきた。
急いでいるのに、ちっとも私に無関心だ。
「ねぇ、勉強しに行くから、暇なら車で図書館まで乗っけてって」と、不機嫌気味に私が言った。
「お母さんが車に乗って、登山にいっちゃったよ」と、我が家に1台しかない車のあてもはずれた。
「頼むんじゃなかった」と、心の中で呟いて仕方なく歩いて図書館に行くことにした。
荷物をガサツにカバンの中へ放り込み、玄関で靴を履いていると
「おい、翼。傘持っていけ」と、リビングから父の声がした。
私は、無視をして家を出た。鞄の中に、折りたたみ傘が常に入っているからだ。
友達の輪子に「いま家でた。コンビニ寄ってお昼ご飯買ってから行く。なにか欲しいものある?」と遅れたお詫びに、お菓子でも買って一緒に食べることにした。
直ぐに返信がきて「チョコwww」と着た。りんごがいつも食べているチョコを買って、カバンにしまい、外に出た瞬間だった。
稲妻が、大地にめがけて光り耳鳴りがした。私は目を瞑って、ようやく思考が追いついてきた。それが「ゴロン」と雷の音であることが分かった。
耳鳴りが徐々に治まるとともに、「ざ〜〜」っという音も聴こえた。一瞬、それも耳鳴りに思ったが、瞑っている目を開け、それが雨の音であることがわかったが、光が強すぎたせいか焦点の中心が黒くなっていた。
何回か、目を開け閉めしていると徐々に黒い世界から白い世界になった。
その視線の先には、黒い蹄があり、そのまま顔を上げていくと、引き締まった艶の良い白い四本の足があった。
完全に顔を空の方に見上げるとそこには白い羽と胴体に跨るタキシードを着た王子様がいた。周りを見渡してみると、全てが止まっていた。先程、買ったコンビニの店員も、お店の中でおにぎりを選んでいるお客も、駐車をしようとしている車も自転車も、雨も、雷も、よくよく見ると止まっていた。
そのなかで、私と眼の前にいる白馬の王子だけが動いている。
頭の整理をしようとしていると
「やぁ、迷える子羊ちゃん」と、王子様が話しかけてきた。
私は、突然の出来事でじっと王子様の顔を見る。とてもイケメンで私好みのハンサムだった。すぐに、私の顔が赤面していくのが分かった。
王子様は、そんな私の心を読み取ったのか「そんなに照れることはないよ。君は偉大なる母がいる世界と偉大なる母がいない世界、どちらが好きかな?」と、聴いてきた。
「偉大なる母がいる世界です」と、私は咄嗟に答えると王子様はどこか懐かしい笑顔で私をじっと見つめた。
私は、目の行き場を失い白い羽のついた馬を観察した。
綺麗に毛並みが揃ってこの世のものではないようだった。「これがペガサスってやつか、待てよ。私は雷に打たれて走馬灯をみているのか?これはもしかしたら、天国への梯なのか?とすると、この眼の前の王子様は天国への案内者?」と、頭が急に疑問でいっぱいになった。
そんな私をみて王子様は
「だから、きみは迷える子羊ちゃんなんだ。安心して、君が望めば望んだ世界が現れる。いまというこの瞬間をもっと、楽しんで見れば良い」と、言って私に手をそっと差し伸べてきた。
私は天にも昇る気持ちでその手を握った。
すると、私はたんぽぽのわたにでもなったのだろうか?
風がなびくように宙にからだが浮いた。
そして、王子様の手を離し、ペガサスの後ろに吸い込まれるように座った。
「落ちないように、腰に手を当てておいて」と、王子様の言う通りにし手を腰に置くと私は心臓がドクドクしているのが自分でもはっきりと分かった。王子様にもその鼓動が聴こえるのではないかと心配していると
「君は、些か鼓動を高く鳴らせ過ぎる。エロスは、禁断の果実さ。ほとほどに味わうといい」と、意味深なことを言っていた。
そして、このとき分かったが、この王子様は私の思ったことを口に出さなくても聞き取ってくる。
「これは、私が作り出した非現実な世界なのか?」と疑問に持った。
「ふふ、さっきも言ったね。君が望めば望んだ世界が現れる」と、王子様がまた心の声を読み取り続けて
「さぁ、行こう。君が望んだ。偉大なる母がいる世界へ」と、王子様がウインクして私に合図をするとペガサスが宙にまった。そして、止まっている稲妻に向かっていながら、私は、王子様の腰に手を当て、耳鳴りも斑点もすっかり良くなっていった。そして、耳を済ませると、王子様の背中から、ダンスをしているような音楽が聴こえた。
「Nessun dorma!(誰も寝てはならぬ!)
Nessun dorma!(誰も寝てはならぬ!)
Tu pure, o Principessa,(それでもあなた、お姫様は)
nella tua fredda stanza(あなたの冷たい部屋で)
guardi le sole e luna che tremano d'amore e di speranza…
(愛と希望に震える黒い太陽と白い月を眺めるのです)」