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マルチナのかくれ石  作者: 唄川音
第1章
24/44

24.旅立ち、船上にて3

「あっ、回し忘れるところだった!」

 キリリッキリリッと音を立てながら、懐中時計のネジを回す。そうすると止まりそうになって小さく動いていた秒針は、また元気よく回りだした。

「船に乗ってからは、他にも面白いことがあって、回すの忘れがちね」とマルチナ。

「ちゃんと面倒見てあげないと、時計がすねちゃうね。ごめんね」

 ソニアが文字盤を優しくなでると、マルチナも横から手を出してきて、文字盤をなでた。

「わたしがソニアを独り占めしてごめんね」

「ふふふ、なにそれ」

「だって、前もわたしのせいで、ネジを回し忘れたじゃない」

「えっ、本当?」

「初めてうちに来て、お父様たちと話した時よ」

 ソニアが「ああ、そういえばそうだったね」と言うと同時に、船内にアナウンスが流れだした。

『ご乗船の皆さま。本日の夕刻、ドイツェリクに到着いたします』

 一枚膜を被ったようなくぐもった不思議な声に、最初は驚いた。船内すべての部屋に声を届けるための特殊な魔法を使っている、と最初の夜にテオが教えてくれた。

「あーあ、とうとう着いちゃうわね」

 マルチナは口を尖らせて、手すりにグデッともたれかかった。マルチナの頭の向こう側には海が見え、さらに遠くの方に陸が見えてきた。あれが目的地のドイツェルクだ。

「あれ。マルチナ、楽しみじゃないの?」

「うーん。……初めての国は、楽しみなんだけど」

 「だけど?」と繰り返すと、マルチナは上目遣いでソニアの方を見た。甘えん坊な顔をしている。最初に出会った時は、大人ぶった高飛車な子だなと思ったが、最近は年相応の顔もするようになった。よく考えなくても、マルチナだってまだ子どもだもんね、とソニアは思った。

「どうしたの、マルチナ」

「……ソニアが、わたしの魔力をかくしてるわけじゃないって、本当にわかったら、さみしいな、と思って」

「なんだ、そんなこと?」

「そんなことじゃないわよ! ソニアのおかげで、ソニアに出会ったおかげで、うれしいことばっかり起こったのよ!」

 マルチナは手すりから手を離して、ズイッとソニアに詰め寄って来た。船内のお店で買った新しい香水の匂いがふわっと漂う。南国の花の甘い香りだ。

「同い年の友達と一日街で自由に遊べて、レースやタイルや素敵なものを見て、おいしいものを食べて、エリアスさんとソフィアさんともたくさんお話をして、お父様とお母様とも仲直りできて。これって全部、ソニアのおかげなのよ」

 マルチナはすっかり興奮して、まくしたてるようにそう言った。

「わ、わたしは何もしてないよ」

 マルチナは少し怒った顔をして、バッと両手を広げた。

「そんなことないわ! ソニアに出会ったから、今だってこうして船に乗って、街の外を目指してるじゃない」

 必死な表情を浮かべるマルチナの青い目は震えている。たおやかな長い髪と青色のワンピースは、海風で波のように揺れている。その光景に、ソニアは、やっぱりマルチナって絵になるな、とぼんやり考えた。

 するとマルチナはまたソニアに詰め寄り、ソニアの両手を自分の両手で握り締めた。

「だから、わたしの魔力をかくしてるのがソニアじゃないって言われたら、わたしの世界を明るくしてくれたソニアと、つながりが無くなるみたいで、……さみしいのよ」

「それって、わたしが魔力をかくしてるわけじゃないってわかったら、マルチナはわたしと遊んでくれないってこと?」

「違うわよう! そんなわけないでしょう! うまく言えないんだけど、なんかさみしいの!」

 マルチナはプリプリしながらソニアの腕にしがみついてきた。

 さみしいって言いながら怒っているあたりは、やはりマルチナだ。

 ソニアがフフッと笑うと、マルチナは赤くなった頬を膨らませてソニアをにらんできた。

「バカにしてるでしょう」

「してないよ。……ねえ、マルチナ」

「……なに?」

「わたしはこれからもずっとマルチナの友達で、そばにいたいと思ってるけど。マルチナはそれだけじゃ足りないの?」

 マルチナのサファイヤのような目がきらりと光る。

「マルチナがいやって思うくらい、たくさん会いに行くし、たくさん遊ぶつもりなんだけど。こういう遠出も、たくさんしたいと思ってるよ」

 マルチナのサファイヤのような目が水にぬれていく。

 マルチナはうつむいて、ソニアの腕にいっそう強くしがみついてきた。そして、ささやくような声でこう言った。

「……わたしだって、そのつもりよ」

「それじゃあ、ずっと一緒にいられるね。わたしたちには『友達』ってつながりがあるんだから」

 ソニアがそう言うと、マルチナは涙をこぼしながら笑った顔を見せてくれた。


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