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11.船出、波止場にて2

「ソニアが質問していいなら、わたしもしてもいいですよね。さっきも聞きましたけど、魔法航海士って何なんです?」

 ソニアと手を繋いでいるマルチナが、水を得た魚のように活き活きと声を上げた。身を乗り出したことで、ロティアとマルチナのイスがガタガタと揺れる。

「確かに初めて聞くわねえ。ただの航海士さんなら、これまでもお会いしたことがあるけど」と母さん。

「ここ一、二年でできた職業ですから、無理もないですよ。魔法犯罪者の妨害行為から船を護ること、それが魔法航海士の任務です」

「魔法犯罪者?」

 マルチナはじっくりとオウム返しをした。

「ここ数年、魔法使いによる犯罪が増えているそうなんです。多いものは、街中でのひったくりや泥棒だそうですが、船を襲うこともあるそうで、犯罪者から船を護る魔法航海士という職業が作られたんです」

 母さんは少し不安そうに父さんの方を見た。父さんは険しい顔をしている。

「かなりの重圧がある仕事だね。何か困ったことがあれば、何でも言ってくれ。私で良ければ力になる」

「心強いお言葉をありがとうございます。ですが、フォルテス家のお屋敷でご指導たまわりましたので、必ずお役目が果たせると自負しております」

 そう答えるリベルトの顔は、眉がキリッとつり上がり、目には強い意志が宿り、十七歳よりもずっと大人に見えた。

「フフッ、頼もしいわねえ。それにしても、フォルテス家って、この街の高台にある魔法のお屋敷でしょう。リベルトはフォルテス家のご出身なの?」

「いえ。僕は七歳から十七歳まで、フォルテスのお屋敷でお世話になり、魔法の指導を受けていました」

 リベルトがそう答えた瞬間、マルチナがソニアと繋いでいる手の力を強めた。チラリとマルチナを見ると、元々大きな目を一層大きく見開いて、リベルトを燃やしかねないような視線を送っていた。


 そうか。高台のお屋敷って、マルチナのお家のことか。

 それじゃあ、マルチナの本名は、マルチナ・フォルテスで、マルチナとリベルトさんはお屋敷で会ったことがあるってことかな。

 もしそうだったとして、マルチナのこの表情はなんなんだろう。怒っているようにも、泣きそうにも見える。


「……ルチア、どうしたの?」

「……なんでもないわ」

 マルチナはソニアと目も合わせずに、冷たく答えた。

 絶対に何かあるのだろうが、この状況で話すのは難しいだろう。ソニアは「そう」とだけ言って、また父さんたちの話に耳を傾けた。

「フォルテスのお屋敷は、魔法の指導をされてるのか。立派な建物だが、何をしているかは知らなかったよ」

「あまり公にしてはいませんが、周辺八カ国にいる魔法使いのうち、正しい知識を得る機会がない者を集めて、魔法の指導を行ってくださるんです。それも奥様が直々に」

「まあ、すごいわねえ」

「奥様は素晴らしい魔法の使い手なんですよ。魔法使いの数が少ないせいか、魔法使い専用の学校は、世界的に見ても本当に少ないんです。僕もフォルテス家に来るまでは、ほとんど魔法が使えませんでした。でも、今では百種類以上の魔法が使えるようになりました。魔法使いの友人もでき、魔法使い特有の悩みなども相談できるようになって、フォルテス家に来て本当によかったと思いました」

 リベルトはにこやかに話した。

 たぶんウソは言ってないな、とソニアは思った。しかし、マルチナから聞いていたお屋敷の印象とはずいぶん違う、とも思った。

 マルチナは朝から晩まで、「魔法以外」の勉強を嫌ってほどさせられている。

 その一方で、リベルトはしっかり魔法を勉強し、魔法を活かした仕事にまで就いている。

 マルチナが、自分のお父さんやお母さんと仲が良いか悪いかで言ったら、悪い方だとソニアは捉えている。しかしリベルトは、恐らくマルチナのお母さんであろう「奥様」から魔法を教えてもらった、と言っていた。仲も良さそうだ。

 まるで正反対の話だ。

 一体どういうことだろう。

 ソニアは首をひねるついでに、もう一度マルチナを盗み見た。

 マルチナは、泣き出しそうな顔をうつむかせて、耳の後ろの髪を指にからませていた。


 友達が悲しんでる。

 もうこの話は終わらせなきゃ。

 ソニアは自分の体温がマルチナに伝わるように、優しく、繋いでいる手の力を強めた。


「……あの、わたし、時計が好きなんです」

 ソニアの方を見たリベルトは、パッと顔色を明るくした。

「それは良いご趣味ですね。今つけている懐中時計も素敵だ」

「ありがとうございます。航海士さんは、どんな時計を持つか、決まり事があったりするんですか?」

「懐中時計が支給されましたが、僕は父親に買ってもらった懐中時計どちらも常に身につけていますよ」 

 リベルトはジャケットの内ポケットから父親からもらったという懐中時計を取り出して見せてくれた。太陽の赤色と、海の青色、それから波の白色の針が回る時計は、いかにも航海士らしい時計だ。

「きれいな時計ですね。どこで作られたんですか?」

「大陸を横断する巨大な山脈のある国です。時計が有名な国で、各国への輸出量は郡を抜いています。僕の故郷です」

「へえ! そんな遠くから遥々!」


 それから二人が船に乗り込むまでの間は、リベルトの故郷の話を聞いて過ごした。時計の他にはチーズが有名で、固くなったパンをおいしく食べるために、溶かしたチーズにパンを浸して食べるそうだ。名前はチーズフォンデュというらしい。聞いているだけで、ヨダレが出てくるほどすごくおいしそうな料理だ。

 この話になると、マルチナも少しずつ元気になってきて、時々、「へえ」とか「おもしろい」とかと口をはさんできた。

 よかった、マルチナが少しでも元気になって。

 ソニアはふうっと安堵のため息をついた。


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