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第29話 多分、一方的に友達と思っていた。

 やばい、聞いてはいけなかった。

 那由多さんがオタクだという情報は聞いてはいけなかった。

 那由多さんの瞳孔がカッと見開き、体をカチンコチンに固まらせてしまった。彼女にとって絶対俺に聞かせたくない情報だったらしい———。


「でも、那由多雰囲気変わったよねぇ~……昔は前髪で顔を隠して眼鏡もかけていつも本ばっか読んでたあんたが、男を作るようになるとはねぇ~……やっぱ必死に勉強していい中学に受験して進んだのは、あたしらから逃げたかったんでしょ?」

「———ッ!」


 ビクンと肩を震わせる那由多さん。

 図星の様だ。

 その反応が安藤的には心地よかったのか、更に口角を歪め、


「あんたの好きな小説でよくある奴じゃん。昔の知り合いのいない場所に行って人生変える……的な。できてよかったねぇ……那由多?」


 にやにやと笑う安藤。

 那由多さんは怒りなのか羞恥なのかずっと肩を震わせている。

 もう、見てられない。


「あの、ちょっといいか? 安藤さん」

「ん?」


 俺に話しかけられて、意識がようやく那由多さんから逸らされる。


「君の言う通り那由多さんは俺達と面白おかしく楽しくやってるよ」

「……へぇ~」


 安藤は感心したように頷いた。


「那由多さんは安藤さんや鈴木さんたちのいないところで、那由多さんらしく楽しく生きている。だから、心配しないでくれるかな? それに、環境を変えることを逃げたって言ったけど……その、自意識過剰過ぎなんじゃないかな? 単純に那由多さんは頭が良かったから受験しただけで、君たちから逃げるとかそんなことは全く考えていなかったと思うよ……そういうふうに思っちゃうってことは……君たちは那由多さんのことが好きだったのかな?」

「「———ッ!」」


 安藤と鈴木が明らかに動揺を顔に浮かべて一歩下がった。


「那由多さんに会えなくて、寂しかったからこうして顔を見に来たって感じかな?」

「……堂々と恥ずかしいことを言うなよ」


 安藤は視線を逸らし、少しだけ頬を赤くした。

 ああ、マジか。マジだ。

 多分、これは不幸なすれ違いが起きている。那由多さんはこの二人のことをいじめっ子だと思っているが、この二人は———、


「昔の友達の顔を見に来たんだろうけど、今は那由多さんは俺のものなんだ。だから、昔の知り合いは引っ込んでていてくれるかな? もしも、那由多さんのことが好きで遊びたいと思うんだったら、彼女のことをちゃんと理解して接してやってくれ。那由多さんも那由多さんのプライドがあるし考えがある。君たちが思った通りの根暗な面だけじゃないんだ。それを理解して態度を改めれば、寂しい思いをせずに済むかもしれないよ」


 安藤は唇を尖らせて沈黙した。

 何か考えているようだ。

 やがて———、


「へっ、那由多の彼氏は独占欲強いね。那由多も大変だ」


 と、吐き捨てるように言って、背を向け、鈴木含めた残りの三人を引き連れ公園を出て行った。

 あの安藤という女、やっぱり那由多さんのことを昔の仲のいい友達だと思っていた。友達だから遠慮がない言葉をかけられる間柄だと思い込んでいた。だから根暗だのと本人が気にしていることを平気で言える。

 だけど、那由多さんはそうは思っていない。ただただ、気にしていることをずけずけと言われて傷ついていた。 

 気持ちを互いに理解していないがゆえにすれ違いの不幸だ。

 それがなぜ起きたのか、昔の那由多さんが気弱過ぎて伝えられなかったのか、安藤の頭が単に悪いのかはわからない。

まぁ、これから先会うこともないだろうから、別にいいだろう。


「……邪魔が入ったね」

「…………」


 那由多さんはうつむいたまま答えない。


「仕切りなおそうか、那由多さん。ここじゃなくてもっと高いところに登って街を見下ろして……」


 この桜公園の脇の山道を登っていけば、山頂近くの寺に出る。そこには展望台があり、ここよりももっといい景色が眺められると思う。

 そこで気分転換をして改めて何事もなかったかのようにデートを再開したいと思った。


 が———、


「ごめん……黒木君!」


 那由多さんは顔を伏せたまま、ダッとものすごい速度で駆け出し、公園から去って行ってしまった。


「ちょ、待って————!」


 彼女の姿が視界から消えると同時に、俺は遅れて追いかけ始めた。


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