第22話 3人でデート……。
美里市の駅に隣接する大型商業施設に俺達はやって来ていた。
広大な敷地を保有し、比較的新しい施設で七階まであるビルでいくつものテナントショップを内包している。そういうのを〝デパート〟と言うものだと思っていたが、陽子によると今はそういう呼び方をするところは何処もなく、基本的に〝ショッピングモール〟と呼ぶらしい。その違いが具体的には俺には判らなかったが……。
とにかく大通りに面した正面の入り口をくぐると、大きな滝と屋内庭園が出迎えてくれるオシャレな施設だ。。
「で、なんで最初のデートで映画なんだ?」
エスカレーターに乗って登りながら、チクリと小言を言ってくるのは俺の前に立っている陽子だ。真っ白な長袖のトップスにブラウンのレトロチックなロングスカートのガーリーファッション。あまり気合を入れ過ぎていないゆるふわなコーデで決めている。
「基本でしょ?」
後ろで立っているのは那由多さん。彼女は陽子とは対照的に白いシャツとブラックのオーバーオールというメンズっぽくもあるコーデだが、彼女のルックスのおかげで敢えてそういった格好をしていると言う雰囲気があり、似合っていた。
というか、那由多さんは顔が抜群に良いのでどんなファッションでも恐らく似合ってしまう。
俺は普通に緩く大きめのシャツにジーンズというド定番すぎるファッションだが、あまり気合を入れすぎてもアレなので、シンプルな感じにまとめた。
「というか、こんなに近くで見守る気なんだな……お前」
じろりと陽子の背中を睨みつける。
美里駅ビル6階にある映画館。そこでまず映画を見ようということになり、俺達はひたすらエスカレーターで一階から登っていた。
何となくエレベーターは使わずにわざわざエスカレーターを使って一階一階上がっていく。なぜか俺が真ん中で陽子と那由多さんに挟まれる形になりながら。
「当たり前でしょ? 那由多さんがあんたにふさわしいか、幼馴染として審査しなきゃいけないんだから」
「だけど、思いっきりお前……思いっきり俺と那由多さんの初デートを邪魔している自覚はあるのか?」
「…………」
無言。
あるけど、それでもやめるつもりはないという硬い意志を感じる。
「ハァ……那由多さん、ゴメンね。陽子がわがまま言って」
「…………全然いいよ?」
ニコニコと笑っている那由多さんだったが、ピクリと耳が動いたのを俺は見逃さなかった。
やっぱり陽子のことを邪魔だと思っているんじゃないだろうか?
朝———。
眠れぬ夜が明けて、俺と陽子はコンビニで適当に朝食を済ませ、しばらくくつろぎ、那由多さんとの待ち合わせの時間になったので着替えて彼女の家に向かった。
陽子は昨日の晩……那由多さんが俺にふさわしいかどうか見届ける的なことを言っていたので、今回のデートについてくるかもとは思ってはいたが……本当に、遠慮もなく、同行を申し出るとは思ってもみなかった。
家の前で待つ那由多さんに、陽子が付いてくる旨を伝えた時は、まったく気にしていないむしろ望むところだというようなことを言って、バチバチとお互いに見つめ合って火花を散らせていたが……。
その後はなんやかんやあって、普通に打ち解け男一人女二人で和気あいあいと話しながらここまでやってきた。
本当に普通に打ち解けてしまっていた。
怒りというか、闘志というか、対抗心を燃やし続けることは難しい。
どこかで普通に気を抜いてしまう。
互いに恋敵だろうが、同い年の女の子同士。しばらく同じ空間を共有してしまえば、ふとしたきっかけで仲良くなってしまう。
それでも時折、陽子がいることが嫌なんだろうなぁ……というリアクションを那由多さんは見せていた。
やっぱり……普通のデートがしたいよなぁ……もともとそういうつもりだったんだから。
「陽子。やっぱりお前、帰るかどこか遠くで見守るようにしろよ。警察の尾行みたいにさ」
完全に追い払うのも陽子に悪いと思い、せめて那由多さんと二人きりになれるような妥協案を提示する。
だが、陽子はツンと唇を尖らせ、
「言ったでしょ? 私はあんたの姉みたいなものだから、若い二人が暴走しないように見守る義務があるんです。保護者として」
「姑かよ……」
「聞こえたゾ? もっといい例えはなかったのかな?」
ニコリとした笑みを向けるが、張り付いたように固まった笑顔でどことなく圧を感じる……。
だが、俺だって言いたいことは———ある。
「なぁ陽子。ここにいるお前はどんな立場だい? もっといい例えができるような行動を今自分がしているかどうか胸に手を当てて考えてごらん?」
暗に邪魔ものだろう、と意味を含めた言葉をかけるが、
「…………あ、そういえばお昼ご飯何処で食べるの? 映画館の下のフロアってレストランフロアだよね?」
露骨に話題を逸らす陽子。
「もう昼飯の話か? これから映画を見るっていうのに」
ちなみにあと一階上がれば、陽子の言うレストランフロアだ。
エスカレーターで一つ下の階に登り切り、陽子が案内板の前でくるりと体を回す。
「だって、私は地元からわざわざこの美里まで来てるんだし、どうせならおいしいもの食べたいじゃない? ここって何がおいしいの?」
「あんまり俺たちの地元とかわらないんじゃないか? 同じ県だし、那由多さんは何か知ってる……? 那由多さん?」
那由多さんは立ち止まっていた。
エスカレーターを少し離れ、そのフロアに立ち止まり、茫然とあるショップを見つめていた。
「お~い……那由多さん?」
エスカレーターの力で勝手に距離が離されていくので、俺はボーっとしている彼女に声をかける。
「あ、ごめんごめん! ちょっとボーっとしちゃって……」
那由多さんは急いで俺たちの後に続いてエスカレーターに足をかけた。
那由多さんは怒っている風ではなく、ただひたすら恥ずかしそうに笑っていた。
「気になったの?」
「ううん、全然!」
大きく横に首を振る那由多さん。
そのリアクションから何となく察して、深く追求するのはやめておいた。
那由多さんが先ほど見ていた視線の先、それはアニメグッズショップだった。