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第18話 幼馴染と口げんか

 風呂場の戸がコンコンと叩かれ、陽子が「いいよ」と言ってくる。

 その言葉を受けて外に出ると、陽子は着替え終わり、カジュアルなパジャマを着ていた。完全にこの部屋に泊まりこむ気だ。

 いや……それはダメじゃね……?


「…………」

「…………」


 かといって〝出て行け〟ともいえないし……。

 俺達はリビングに行きとりあえず机を挟んで向かい合う。


「何しに来たんだ? いきなり」 


 ぶしつけな質問をしてみる。


「遠くの街に引っ越した幼馴染の部屋に遊びに来ただけなんだけど……」

「なら一言アポイントを取るのが普通じゃないのか?」

「ビックリさせたかったんだもん」

「ビックリさせたかったのか?」

「そうよ」

「なんで?」

「それは……」


 一瞬、言葉に詰まる陽子。


「……あんたはからかいがあるから」

「———純粋な青少年をからかうんじゃないよ! だから俺が本気でお前のことを好きになったりするんでしょうが!」


 陽子は昔から思わせぶりな態度をとる。

 必要以上に体を密着させてきたり、間接キスを気にせずに一つのジュースを分け合ったり、だから———俺は完全に陽子が俺に惚れているのだと勘違いをしてしまったのだ。


「いや……! それでいいじゃん……!」

 

 陽子は叱られている子供の様に視線を逸らして唇を尖らせた。


「いいわけがないだろう! お前は俺を振ったんだぞ! 俺がどんなにあの時傷ついたか!」

「それはごめんなさい! あそこまで本気で受け取られるとは思ってもみなかったから!」


 怒ったように眉尻を上げて言う陽子。

 机の上に肘を置いて、前のめりになりまるで喧嘩腰だ。


「本気で受け取るだろう! 本気で受け取ったからこそ、俺は自分磨きをして心機一転してこの街に来て、彼女を作ろうとしてるんじゃないか!」


 陽子のその悪びれがない態度に、腹が立ち、俺も机に肘を置き、前のめりになって顔を突き合わせる。


「だから、どうしてそうやることが極端なのよ! 自分磨きをしてくれるのはいいけど、何で他所の街に行く必要があったの⁉」

「気持ちを切り替えたかったんだよ! あの町にいたら、お前のことを忘れられずにずるずると気持ちを引きずりそうだったから! 俺は、自分磨きをして、お前がアドバイスをした甲斐があったと思わせるような彼女を連れて、お前に一緒に挨拶をしに行くつもりだったんだ!」

「……そこ、おかしくない?」

「何もおかしいことはない! 俺はお前の思わせぶりだった態度には、心の底から腹を立てているが……振って、アドバイスをくれて、無知で未熟だった俺を成長させてくれたことには感謝している! その成長した俺をお前に見せるためにカワイイ彼女を作ろうとしているんじゃないか!」

「そこ! おかしい!」


 ビシッと陽子は指を突き立てる。


「私が振って、そのアドバイスで成長したって言うんなら! もう一度私に告白してみなさいよ!」

「———ッ!」


 渉にも同じことを言われたことを思い出した。

 フラれた相手にまた告白する……それを、考えなかった、わけじゃない。

 考えなかったわけじゃないが……できるわけがない。


「———嫌だぁっ!」

「な———ッ⁉」


 俺は真正面から、陽子の言葉を跳ねのけた。


「どうしてよ⁉」

「何で俺がお前にまた告白せねばならんのだ! 俺はもうお前にフラれたんだ! 男の告白というものは一世一代の大勝負! 一度失敗したらそれまでなんだよ!」

「そんなことを言って、もう一度告白してフラれるのが怖いだけでしょ⁉」

「その通りだ‼」


 ———当たり前だろうが!


 もう一回陽子に告白して、もう一回フラれてみろ。自分磨きをしてもダメだとわかってみろ……もう男としての自信を喪失して、二度と立ち上がれん。

 俺は陽子の顔に向けてビシリと指を突き立てる。


「二度目の告白をして……お前、フッてみろ! その瞬間俺の心は砕け、たちまち廃人と化すぞ! 二度と何もやる気力がわかない、ただ呼吸をするだけの生き物と化すぞ! それでいいのか⁉」

「よくもそう……情けないことを平然と言えるわね……」

「情けなくても言うしかねぇだろうが! 正直に! 好きだった幼馴染相手なんだから!」


 それこそが俺なんだと、陽子に叩きつけた。

 別に痛くも、恥ずかしくもない。陽子と俺の関係は彼氏彼女にはなりようがないし、これからは互いの過去を知る腐れ縁のような間柄になっていくのだ。そんな相手に自分を取り繕っても仕方がない。

 全部をぶつけて、それで縁が切れるならそれまでだ。そのぐらいの覚悟はあるし、とっくの昔に、一度目の告白でフラれた時からできている。


「フ……フフフフ……ッ」


 陽子が突然、こらえきれなくなったように吹きだし、


「陽子?」

「フフフフ……アハハハハハハッ!」


 こらえきれずに腹を抱えて笑い始める。


「何が可笑しいッッッ⁉」

「アハハハハハハハハ‼ いや、可笑しいよ。そんな情けない事堂々と言えるし、こんなあけすけにお互い何でも言い合ってるし……バカみたいに」


 俺としては怒り、怒鳴ったつもりなんだが、陽子にはその怒りは全く伝わっていないようだ。

 彼女は目に涙をためていた。


「…………そういえば、くだらないことでよく喧嘩していたな」

「うん……そうね」


 やっぱり俺と陽子の仲というのは気の置けない仲というものなんだろうな。


「……ねぇ」

「ん?」

「もしも……私の方から告白したら……卓也はどうする?」

「フる」

「即答⁉ まぁ、そりゃそうか。それでようやく一対一、おあいこになるんだもんね」

「いや、昔フラれた仕返しとかじゃなくて、別の理由がある」

「別の理由?」


 ピン……ポ~~~~ン。


 部屋のチャイムが鳴らされる。 

 恐らく……その〝理由〟そのものがやってきた音だ。


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― 新着の感想 ―
否、どー考えても陽子の頭がおかしいわ。 自分勝手にフっておきながら何寝言をほざいてんのさ? しかも不法侵入しとるし…。 それが嫌だったならば、素直にOKすれば良いだけだろうに。
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