第13話 グループでの昼食
那由多さんの本当の気持ちを確かめる勇気は俺にはない。
だから、せめて好みのタイプを知りたい。いろんな情報を集めて、彼女を攻略する手掛かりにしたい。
だから———、
「那由多さん」
「ん?」
「学食で一緒に食べない?」
当たり前のように二つの弁当箱を持ってきた那由多さんに言う。
「いいけど……何で?」
「皆で一緒に食べたい気分なんだ———渉!」
「え———?」
気配を消して学食に向かおうとしていた渉を呼び止める。
「一緒に食べないか?」
「えぇ……っと、それはどういうつもりなんだ……?」
渉は俺と那由多さんを交互に見比べ戸惑った表情を見せる。
俺はチラリと那由多さんの表情を伺う。
彼女は微笑を浮かべたまま、何も言わない。
二人きりの食事の時間を俺が自ら崩そうと言うのに、彼女からは特に文句はないようだった。
「今日は皆で食卓を囲みたい気分なんだ————」
◆
美里高校の学食は弁当持参は禁止されていない。
弁当を持ってきている友達と学食で定食を買う友達が一緒の食卓を囲めるためだ。
だから、俺は、
「あ、一さん!」
「ありゃ⁉ 黒木君に、アイアイ⁉」
先に学食に来て、一人でとんかつ定食を食べていた一真子へ声をかけ、彼女の対面に座る。
「え、え? え?」
戸惑う彼女を尻目に、俺の隣に渉が、一さんの隣に那由多さんがそれぞれ腰を落とす。
「皆で、食べたくなってね……」
「そ、そうなんだ」
友達同士、グループで昼食をとる。
一人の女の子を攻略するギャルゲーではあまりない光景だ。攻略したいヒロイン一人に集中したいのに、他の登場人物は邪魔だからだ。
だが、これはゲームじゃない。現実で、雰囲気というモノがある。
「あの~、どういう状況?」
「仲のいい友達同士でワイワイと打ち解けながら食事をしたい」
状況がわかっていない真子は那由多さんに尋ねるが、代わりに俺が答える。
その〝ワイワイ〟と言うのが最も重要で、今俺が求めている雰囲気だった。
「一さんは那由多さんの親友なんだろ? なら、俺の親友も二人に紹介したくて、佐伯渉だ」
「はぁ……」
「どうも……知ってますけど」
俺に紹介されて、一さんと那由多さんが会釈する。
「…………おい」
渉は苛立たし気に腕を組んで俺を睨む。
「お前、またなんか変なこと企んでいるんじゃないだろうな?」
〝攻略〟だとか〝ヒロイン〟だとか、そういうことはやめるように言ったよな! そう、渉の瞳が訴えかけてきている。
それはやめた。
だが———、
「ああ、企んではいる」
俺は正直に答えた。
「あぁん⁉」
「俺はこの四人で仲良くやっていきたい。だから、互いに知り合いになろうとそういうことを企んでいる」
「————何?」
少し怒りかけた渉だったが、正直に話すと怒りを抑えて話を聞こうと耳を傾けてくれる。
「はっきり言おう、俺は那由多さんとも、一さんとも渉とも、もっと仲良くなりたいし、互いに知り合いたいし、知って欲しい。だから、こうやって四人で食卓を囲みたくなったってことだ」
「つまりは、黒木君はこの四人でお友達グループを作りたいってコト?」
真子が首を傾げて尋ねる。
「その通りだ」
「そうなんだ。随分強引だねぇ~君は」
「ハァ~……」
苦笑する真子に、呆れた様にため息を吐く渉。
そして、ひたすらニコニコ笑っている那由多さん。
「まぁ私はいいよ。黒木君は面白そうだし、佐伯君もいい人そうだし、連絡先交換する? RINEやってる?」
真子はそう言って、SNSのアプリを起動させ見せつける。
「はぁ……まぁ素直に言うだけ良しとするか……」
そう言いながら、渉はRINEアプリを起動して真子に向けてQRコードをかざす。
「お友達と一緒に食べたかったんだね。黒木君は」
「那由多さん……」
彼女はニコニコ笑っているが、何かそれが意味深そうで少し怖い。
だけど、こういう場じゃないと聞けないことがあるんだ。
「———じゃあ、食べようか」
そう切り出し、「いただきます」と手を合わせ、昼食の時間が始まった。
———俺はこの時間を利用して、一真子からそれとなく那由多さんの過去と好みの男性のタイプを聞き出したい。
そのためには、渉という男友達が必要不可欠だった。
真子を呼び出して、二人きりになって聞き出すとなると変な勘繰りを淹れられるかもしれない。
グループでワイワイしながら、互いの情報を共有し合う。
それこそが、一番当り障りなく那由多さんの攻略に必要な情報を手に入れられる方法だった。
「そういやさ……昨日のテレビ、見た?」
よくある話題を切り出しながら弁当箱の蓋を開ける。
昨日那由多さんがどんな番組を見ているか。そこから彼女の好みのタイプを聞き出す。
ドラマを見ていれば好きな男性俳優のことがわかるし、バラエティでも、どんなネタをやる芸人がタイプなのか、そういった彼女の好みの傾向がわかる。
そういう鉄板の話題を切り出したのに———渉と真子は俺の弁当を見て目を丸くしていた。
何か、ヘンなものでも入っているのか?
那由多さんが作ってくれた、お弁当なのだが……。
「そ、それ……」
真子が箸で俺の弁当を指す。
「え……? あ———!」
気づいた。
二人が驚いているのは、白飯の上。
———そこには、桜でんぷでハートマークが描かれていた。
那由多さんを見る。
彼女はニヤッと笑って、パクッと一口、ソーセージを食べた。




