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第12話 ——だって。

 高校生活三日目の朝。


「よし———」


 鏡を見ながら髪型を整えて気合を入れる。


 今日は金曜日———明日は那由多さんと遊びに出かける予定を取り付けた休日だ。

 そのために前日から容姿をちゃんと整えなければ。

 真ん中わけの、最近人気の男性アイドルをそのまま真似した髪型。ギャルゲーでは主人公は大抵前髪で目元を隠しているが、実際にそんな髪型をしていたら暗い奴だと思わてしまう。似合う人間は似あうのだろうが、雰囲気がとっつきにくいと思われるリスクもあるので俺は妥当に現実にいるアイドルを参考にして髪型を作った。

 ワックスで固めて櫛でちゃんと整える。

 メインヒロイン、那由多さんにふさわしい男になる。

 俺は、もうそう決めた。

 サブヒロインや攻略なんて、もう考えない。

 俺が恋愛をするのは那由多さん一人と決め、彼女にふさわしい男になるように自分を磨こう。昨日の渉との話と、わざわざ俺に夕食の残りを持ってきてくれた那由多さんを見てそう決めた。

 まだ———彼女に告白する勇気はないけれど、いずれ彼女と過ごす時間を重ねて、自信を付けた時には、告白をしよう。

 それまでは彼女に愛想をつかされないように、彼女の好みの男になって見せよう。


「…………そういえば、彼女の好みの男ってどんなんなんだ?」


 髪型をいじりながら考える。

 俺がやったギャルゲーだと、攻略したルートに入ったヒロインが髪型を変えるイベントがある。

 ヒロインが主人公の好みを聞いてきて、プレイヤーが選択肢を選ぶと、その選択肢通りの髪型に、そのイベント以降チェンジしてくれる。

 俺もそれに倣った方がいいのではないか?

 髪型を変えるのはヒロインであり、主人公ではないが、俺は那由多愛さんに気に入られるように自分を磨くのだ。

 なら、それとなく彼女の好みを聞いて、髪型を変えた方がいいのではないだろうか……?


「———よし」


 彼女の好みのタイプを聞き出そう。

 そう決心して玄関の扉を開ける。

 今日は那由多さんは待ってはいなかった。

 いつも来てくれるわけじゃないのか……がっかりしたようなホッとしたような……。

 今日は一日目と同じ一人での登校になるのかとアパートの階段を降りていると、すぐそばの電柱の陰に人が隠れて立っているのが見える。


「あ———」

「あ、お~い!」


 那由多さんだ。

 やっぱり、俺を待っててくれていた。


「おはよう!」


 駆け寄って来て、にこやかに微笑んで挨拶をしてくれる。


「あ、ああ……おはよう」

「それじゃあ、行こっか」

「ああ……」


 本当に那由多さんは……どうしてここまで俺に近づいてきてくれるのだろうか。


 ◆


 那由多さんと共に学校へ続く長い坂道を上る。

 その間、たわいもない世間話を交わしていた。コンビニはどこが好きだとか、お菓子は何が好きだとか、子供の頃にハマっていた遊びといった、本当によくある話題だ。


「私、子供の頃は結構男の子っぽいものが好きだったんだよ? ゲームだって男の子に混ざって対戦とかしていたし」

「意外だ……那由多さんゲームってしないと思ってた」

「するよ~。ま、最近はいろいろ忙しくてやれてないけどね♪ 中学ぐらいまではゲームやってて、だから真子と友達になれたところもあるし」

「そうなの?」


 意外だ。 

 (にのまえ)真子(まこ)とはゲームでつながった友人関係だったのか。


「……あ」


 そういえば、と周囲を見渡す。

 彼女は昨日、登校する俺たちを見ていたと言っていた。そして、彼氏彼女に見えたから話しかけなかった、と。 

 なら、今日も見ているのではないかと思い、彼女の姿を探す。


「————ッ⁉」


 いた。

 すぐ後ろに。振り返ると二、三メートル離れた場所を歩いていた。ずっと俺たちを見てニヤニヤ笑みを浮かべていたのだろうか、口を手元にやっている。 

 だが、俺が急に振り向いたのは予想外だったようでびくりと体を震わせていた。


「? 誰かいるの……あれ? 真子?」


 那由多さんも気が付き、振り返る。


「え、えっへへ~……気づかれちった」

「真子! もしかしてずっと後ろにいたの⁉ 声かけてよォ~……」

「えへへ……声かけられるわけないじゃん、朝からイチャイチャするカップルにさ」


 ニヤニヤ笑みを浮かべながら、真子が那由多さんを肘で突く。


「カップル? 誰と誰が?」 


 キョトンとした表情で那由多さんが聞き返す。


「そんなん決まってんじゃあ~ん……! 愛と黒木君が、だよ♡」


 両手拳を口元に添えて、くふふと笑う(にのまえ)真子(まこ)


「私たちが……?」


 那由多さんは、きょとんとした顔のまま自分と俺を指さした後、


「———だって」


 と、俺に話題を振る。


 何……その反応……?


 彼女は顔を赤らめもしてなかった。

 思ってもいないことを言われて面食らった。ただそれだけの反応だった。

 好きだったら、もっと慌てたり、顔を赤らめたりするもんじゃないのか……?


「そ、そうだな……」


 俺、もしかして勘違いしてるのか?


「あれぇ~……まだ付き合ってないのぉ~……昨日に引き続き、今日も一緒に登校したんだから、告白してカップル成立! したものだと……もぉ~、アイアイ、黒木君。もう、付き合っちゃいなよォ~」


 からかうように笑う(にのまえ)真子(まこ)の言葉も右から左へ通り過ぎていく。

 もしかして、那由多さんは本当に俺のことを愛情ではなく、親愛的な意味で好きなんじゃなかろうか。一緒にいてくれるのも、ただ、一人の人間として好いているからで恋人として好きなんじゃないんじゃなかろうか。

 そんな疑問が頭によぎって仕方ない。


「———だって」


 と、那由多さんは俺に話題を振ってくるが、俺はあまり考えることができず。


「そうだな……」 


 そう、答えることしかできなかった。


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