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バイト先にちっちゃくてかわいい後輩が入って来た

作者: ウィロ

 最近、バイト先に新しい後輩が入ったらしい。

 おれはまだ会ったことがないが、バイト仲間の間ではちっちゃくてかわいいと評判だった。

 すぐに会うことになるだろうと思っていたのだが、シフト希望が違うのか意外と会うこともなくおれの中では半ば忘れかけていたところでその人物と出会うこととなった。


「はじめまして。加納といいます。よろしくお願いします」


 なるほど。確かにかわいい。

 端的な挨拶だったが、ちょっと目を合わせただけでも顔が赤くなってしまいそうだ。


「こちらこそよろしく。あ、僕の名前は千葉って言います。分からないことがあったら何でも聞いてね」


 おれは自分の胸に付いてるネームプレートを見せながら、敬語なのかタメ語なのかよくわからない言葉で返す。

 一応おれもここでのバイトを始めて一年程度になるので、ある程度の仕事は教えられるはずだ。


「はい、お願いしますね、先輩」


 彼女はこのようにバイトメンバーに対して全員先輩と呼んでいるらしい。

 今では部活とかでも『くん』とか『さん』付けがほとんどで先輩と呼ばれることは少ないからな。

 物珍しさもあっておれのバイトの友人は大変喜んでいた。



 簡単な挨拶も終わり、早速仕事にとりかかろうとしたのだが、聞くところ簡単な作業は一通りやったことがあるとのこと。

 それならばと、とりあえずは一人でやれる範囲でやらせてみることにした。どうせ教えるの下手だし。


 しばらく一人で作業していると彼女が近づいてきた。

 何か分からないところでもあったのだろうか?


「あの……すいませんここらへんが届かないんですけど……」


 そういえばまだ言っていなかったが、おれのアルバイト先は立ち読みもできるそこそこ大きな書店だ。

 なので、アルバイトがする作業の中には本棚の整理も含まれる。

 彼女が指差したのは男性の平均身長よりも少し高めのおれならばぎりぎり届くかなくらいの位置にある本だった。

 おれが代わりにやってあげれば比較的早く終わるのだろうが……


「オッケー。はしごを持ってくるよ」

「ぇ……」


 そう言っておれはこういう人のために用意されていた梯子を持ってくる。

 うん、設備は有効利用させないとね!


「これ使ってよろしく!終わったらまた教えてね!」


 おれはなるだけ明るい調子でそう言うと、


「あ、分かりました」


 とだけ返してくれました。

 これ以来、その日に後輩ちゃんがおれに話しかけてくることはなかったです。まる。



 その一週間後。


「あ……」


 久しぶり?でもないが例の後輩ちゃんと再会した。もしかしたら毎週のこの時間は一緒に働くことになるのかもしれない。

 目が合ったので挨拶はしておく。


「今日もよろしく」

「はい!よろしくお願いします、先輩!」


 もう初対面ではないからか、以前より明るい声で返事をしてくれる。

 この一週間の間にこの後輩ちゃんの人気はさらに高まっていた。かなりの甘え上手らしく、色々な先輩を上手く頼りながら仕事をこなしてくれるらしい。その上、明るく礼儀正しいとくれば嫌われることは少ないだろう。


 そんな感じで軽く挨拶をして仕事に入ったのだが、早速始めた以前と同じ本棚整理をしている際に声を掛けられた。


「すいません、先輩。ここら辺が届きにくいんですけど」


 そういえば、一週間前にもこんな展開があったなと思いながら彼女が指差した方向を見る。それは前回よりも少し低いくらいのところにあるもので、おれだと余裕、彼女だと苦労すればぎりぎり……といった程度の高さだった。

 しかし表情は前回とは違い、今回は少しニヤついた表情をしていた。

 これは前回の意趣返しだろうか?

 これくらいの高さなら苦労せずできるだろうと踏んでの。

 悪戯心とあまり甘やかしすぎてはいけないだろうなどという考えからおれはわざと何も気づいていない体でこう言った。


「あー、そういえば梯子がどこにあるか教えてなかったね。教えるから付いてきてよ」


 おれは彼女の方を見もせずに歩き出す。

 思惑を外されて多少不機嫌になると思ったのだが……


「はい、お願いしますね!」


 むしろ嬉しそうな声でそう言ってきた。

 意外だったので振り返って彼女の表情を見ると、なぜかニコニコしている。


 ……え?何で?


 その後もちょくちょく話しかけられたのだが、普通に対応した……と思いたい。



 それからは予想通りというかなんというか一週間ごとに彼女とは一緒に仕事をするようになった。よく一緒に仕事している(週に二度ほど)らしいおれの友人は、最近は頼られる回数も減ってきて残念だと嘆いていた。

 おれの方はというと、最初からあまり構ってやらなかったというのもあるのか話しかけられる頻度自体はあまり変わっていない……というか増えているような気がするのは気のせいか?

 このことを言うと、自意識過剰みたいに思われそうなので怖い。

 特におれは冷たくし過ぎなんじゃないかと言われているまであるので。


 そんな感じで今日もいつも通り仕事をして自転車で帰ろうとすると、ばったり後輩ちゃんと出会ってしまった。


「あれ?今日はもう先輩も上がりなんですか?」

「あー、うん。もうすぐテストだから早めに上がらせてもらったんだ」

「そうだったんですか。お疲れ様です。あ、先輩も自転車できてたんですね。方向どっちですか?」

「こっちの方かな」

「じゃあ私と方向一緒ですね。途中まで一緒に帰りましょう」

「えっ、まあ、うん」


 半ば押し切られる形で後輩ちゃんと一緒に帰ることになった。

 迷惑なわけじゃないから良いんだけど……。



「~でさ、そんなことになってたんだけど、面白過ぎない?」

「確かにあいつ、そういうところあるからなー」


 帰る際、気まずくならないか心配だったが、どうやら杞憂に終わったようだ。

 お互いのことをよく知っているわけでもないので、特に盛り上がるということもなかったが、共通の知人がいることで話題に困ることはなかった。いつもうっとうしいと思っていたが、初めてお前が同じバイト先で良かったと思うよ(笑)。


「そういえば先輩は最初からほとんど手伝ってくれませんでしたね?」

「その先輩っておれのこと?」

「そんなの先輩しかいないに決まっ……あー、そういうことですか。そうですよ、千葉?先輩のことです」

「お前……もしかして名前覚えるのめんどくさくて全員のこと先輩って呼んでる?」


 ちょうど赤信号に引っかかったところだったので、しばらく待っていると――


「……他の人には黙っててくださいね」

「……」

「まあ、みんな先輩って呼ばれて嬉しそうですし?ウィンウィンってことで!」


 強引にまとめられた気はしたが、気持ちは分かるし、言っていることが間違ってもいない気もしないでもないのでこれ以上の追及はしないことにした。

 信号が青に変わるのをきっかけに話を戻す。


「話を戻すけど、別に手伝ってなかったわけじゃなくない?梯子を持って来てあげたりもしたわけだし」

「他の人はそんな面倒なことをせずに大体やってくれましたよ?」

「甘やかしすぎるのは良くないからな!」

「あ、開き直った」


 本当は別の理由もあったりするのだが、さすがにこれは恥ずかしくて言えないな……。


「でも……悪くなかったですよ、あの対応は。梯子を片付ける時も終わった瞬間にしれっとやってくれましたし、その次の時も運ぶ際の注意点なんかもきちんと教えてくれましたし、それ以来、高い場所の整理は先に優先的にやってくれてましたし。ちゃんと見守られている感じがしてちょっと良かったです。なかなか目を合わせてくれないのと、お礼を言う前にいつもどこかへ行ってしまうのはどうにかしてほしいですけど」


 ……。


「あ、私ここで曲がるのでここでお別れですね」

「ああ、うん。お疲れ様」


 おれはそっちの方を見もせずにそう返事をする。

 少し間があった後、彼女はこう言った。


「はい、お疲れ様です、()()()()


 そう言われ、そちらの方にゆっくりと顔を向けるともう彼女の姿は見えなくなっていた。



 ……………………。



 その後、無感情で一切の思考を停止しながら家に帰りつき、自分の部屋の中に閉じこもる。

 そして、今までため込んでいた感情を解き放つ。


 あーくそ、あーくそ、あーあーあーくそくそくそくそくそぉぉぉぉぉ!!!!!!!!いやまじでなんなのあいつかわいすぎるだろくそがああぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。あんな場面で目なんか会わせられるわけないだろくそっ!そもそも何のためにそっけない態度を取ってたと思ってるんだよ、お前と関わらないようにするために決まってるだろちくしょう!!お礼を言えないのが不満?なんでそんなもん言う必要があるんだよ、おれは何もしてないし、むしろ冷たくしてただろ変なところに気付くんじゃねえよこの野郎!お前が無意識にやってるんだろうそのお礼の言葉とやらが男子高校生相手にどれだけ威力を持ってんのか分かってんのか!?お前がさっき言ってたあいつの不可解な行動だって絶対それ目当てだぞ、多分(確信!!)。女慣れしていないおれがそんなもんやられたら落ちるに決まってるだろばりちくしょう!!!回避してても落とされたわけだけど!!!!!


 あーあ、恋愛なんて自分には無縁だと思ってたのになぁ……。

 恋愛はやるんじゃなくて見る方が楽しいに決まってるのに。

 初めて一目見て挨拶された瞬間、嫌な予感はあった。容姿が可愛くてタイプということももちろんあったが、それ以上に声や雰囲気に何となく惹かれたのだ。

 だからこそあまり関わらないようにしていたのに、何でそうなるかなぁ……この感情、どこかに捨ててこれない?

 いや、まだどうしようもない状態ではないはず。後輩ちゃんのことを気に入っているっぽいあいつにでも協力してもらって……。


 そんなことを考えながら、このところ毎週恒例となっている『来週は後輩ちゃんに対してどのように対応するか』について無駄に考え続けるのだった。


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