魔王にされました
二国間での争いが勃発してから長い時が過ぎた。これは敗戦により消え去りゆく国家の兵隊長のお話。栄華を極めた王都は、戦のためにあらゆるものが壊され、その面影はどこにも無かった。塀の影に一人の男、敗軍の兵隊長ロドウィルはうなだれていた。
「もう終わりだよこの国は。仲間も家族も守るべき国民たちも、みんなみんな亡くなってしまった。もうすぐ俺もそっちに行くよ」
折れた矢が刺さっている鞄から、携帯用の酒器を取り出した。しかし酒器は底が破壊されており、酒は残っていなかった。
「最後の酒すらダメなのか。思えばついてない人生だったな。もうどうでもいいか・・・」
酒器を投げ、目を手で塞いで天を見上げた。このまま朽ち果てようと考えた。するとそこに、戦場には場違いな、清潔で高そうな衣服を纏った恰幅の良い男が現れた。
「ほう貴様、折角生き残ったその命を捨てると言うのか。実に勿体ない。魔界は今、人出不足でな。その命、私が引き取ろう。」
男はロドウィルを担ぎ上げ、そして消えた。
男は魔王城の前に姿を現し、衛兵にロドウィルを預けて王の間へ連れていくように命じた。そしてまた消えた。王の間では屈強な男が玉座に座っており、その横に立っていた女性と話をしていた。入口にいたロドウィルに気が付いた屈強な男が近寄ってきた。
「おう、おまえが今度の魔王か。名前は?」
ロドウィルは驚いた。
「ロドウィルです。魔王?俺が?」
屈強な男は頭を掻き苦笑いをしながら話す。
「あー、なんだ、何も聞かされてないのか。」
ロドウィルは頷いた。
「ったく、あのおっさんいつも現場に丸投げだからな。えーと、今日からここがおまえの城で、ここら一帯を治めるの。おまえ魔王の経験は?」
「え、いや俺は戦争で兵隊長まではやりましたけど、魔王の経験?え?ないです、そんな。」
屈強な男はロドウィルに顔を近づけてきた。
「戦争で兵隊長って、ひょっとしておまえ人間か?騙されて連れてこられたか。そりゃきっついわ。まあでもオーナーのおっさんが決めた事だから仕方ないな。頑張って貰うしかないわ。」
屈強な男はそばに立つ女性に水晶玉を持ってきてと指示していた。
「あー俺俺、そっちどう?まだ勇者いるの?悪いけどあと1~2週間は頑張って貰えるかな。いや仕方ないじゃん。俺だって今日そっちに戻れるって思ってたって。新しい魔王来たけどさ、人間らしくて魔王経験無いみたいなのよ。いろいろ引継ぎ兼ねて教え込む必要があんのよ。」
屈強な男は水晶玉を下げさせ、ロドウィルに向った。
「さてと、俺はさっき連絡してた城の魔王。ここの魔王が決まるまで兼任させられてたのよ。じゃ、城内でも案内しよっかね。歓迎会は今晩やるからそのつもりで。おまえにとっては残念会かもね。そうそう、わからない事があったら、俺か横のアリッサちゃんに訊いてね。じゃあまずはトイレからー。こっちだよー。」
ロドウィルは横にいた女性アリッサを見た。アリッサは冷たい目で睨んでいた。
果たしてロドウィルは、このブラック臭しかしない魔界で、無事魔王として勤め上げることができるのか。
「翌朝6時に起こされて『我は魔王なり』との発声練習をOKが出るまでやらされました。二日酔いで辛かった」とロドウィルは振り返った。