賢王とティネモシリ
「マズ、断言出来ることがアル。この記憶は王……親と手にかけた影カラの情報ダ。間違いはナイ」
そう言うと、ポツリと話し出した。
「……数年前マデハこのタルタロスは平和だったのダヨーー」
話を聞くと、こうだ。
タルタロス王と王妃ティネモシリは仲睦まじく……というよりも、タルタロス王はそれはもう病的な程に王妃を愛していたらしい。子宝には恵まれなかったが、賢王と王妃の政策やその仲睦まじさ故にタルタロスは光があり、人は今の影の姿ではなく人の姿であり、食糧も美味しく、水も綺麗で、服も可憐な物も多く、より多くの街が栄えていたという。
「……ダケド、そこで悲劇が起こったンダ」
数年前。王妃ティネモシリが急病……それも難病によって倒れてしまった。溺愛する王は何としても治そうと、あらゆる手段を尽くしたという。しかし、現実は残酷だった。ティネモシリは亡くなり、王は大いに嘆き、悲しみ、そしてその執念故に賢王は狂ってしまった。
「ティネモシリ……そうだ、ティネモシリを生き返させる為に……それならば私は、私は……!」
「……賢王は、策を練ッタ。王妃ティネモシリを蘇らせる為の策を。ソレは、『光と人を集め、その集合体によって王妃を蘇らせる』という歪なモノダ」
じっくりと聞いていて、初めて自分が口から疑問を呈する。
「……亡くなった人は、戻らない。賢王なら尚更分かっていたはずだ。なら何故……」
「ソレホドに、王はティネモシリを愛してイルのだ。……話を戻ソウ。何故、光あったタルタロスから光が失ワレタノカ」
王の策は余りに残酷だった。賢王と呼ばれたその知恵と狂気が、破滅へと導く道となった。
まず、王はタルタロスから空の光を奪った。膨大な魔力を使い、空の光をタルタロスの世界から奪ったのだ。そして、全土の民にこう告げた。
「タルタロスの民の者よ。我としても不覚であった。何者かがタルタロスの光を……空から光を奪った!タルタロスの未来の為、皆の力を……貸してほしい……!」
賢王の政策や人柄に惹かれていた民は殆ど全てだった。タルタロスの一大事となれば、自分にも出来ることがあるとミヤコに駆けつけた。しかし、現実は残酷であった。
「……王ハ、集まった民カラ……光ヲ奪った。光ダケデハナイ。王妃を完全に蘇らせるタメにティネモシリに関する記憶を奪イ、偽の……ティネモシリは無事だという偽りの記憶を植え付けタ。ソシテ、このタルタロスにあった光を……水も、食べ物も、植物も。全テ、奪ッタ」
そこまで聞いて絶句していた二人のうち、イシュリア王が口を開く。
「なんて……自分の国の民に酷いことを……!」
それに同調するようにアグラタムも言う。
「賢王と呼ばれ、民に慕われていたその心を踏み躙る行為……断じて許しはしない……!」
そう言うと案内屋は頷く。
「……正直、僕もそう思ウ。ケレド……どうしようもナカッタンダ」
そう言うと続きを話し始めた。
その被害により多数の街が壊滅。残る大きな街はこのミヤコと、最前線……つまり、タルタロスを守るために作られた王妃の名を関するティネモシリの街だという。
「タルタロスに光を取り戻すため……!勇敢なるタルタロスの戦士よ!我が王妃、ティネモシリの名を冠する街へ赴き、敵から光を……タルタロスが復活する為の生贄を捕らえるのだ!」
「……ソコで産み出されたのが僕。監視役、案内屋ダ。王は民に二つの魔法をかけた。一つ、本来の身体と影を分ける魔法。そして、身体を殺された場合、影は記憶喪失トナリ、ミヤコへ敵の情報を持ち帰る洗脳」
そこまで聞いて思わず自分は思い切り机に拳を叩きつける。
「タルタロスの為にと言っていたあの影は……!あの敵たちは……!全て、騙されていたというのか!王に!」
その怒りに静かに案内屋は頷く。
「……王妃ノ記憶。身体を構成スル為の生贄。ソシテ蘇生に必要な光。全てを集メルにはタルタロスだけでは足リナカッタ。ダカラこそ、異界……他の世界へと乗り込んダ」
それを聞いてイシュリア様も静かに問いかける。
「……仮に成功したとして。ティネモシリ様が蘇っても……」
「……タルタロスに光が戻ることは、もう、ナイ。賢王はタダ、タルタロスという世界、他の世界を踏み台にシテ……王妃ティネモシリを蘇らせるタメだけに動イテイル」
その言葉にアグラタムがポツリと呟く。
「……壊れている……」
「その通リ。最早タルタロスは全てノ世界を侵食し……破滅へと導ク。ダカラ託されてホシイ。たとえドンな事がアッテモ、タルタロスを……滅して欲しい」
その言葉に後ずさる程の衝撃を受けた。
「……分かっている、のか。それは……」
「ワカッテイルとも。このタルタロスは消滅スル。
……デモ、僕は優しかった賢王、それに王妃ティネモシリ様は犠牲をナニよりも嫌っていた。
……ダカラ、頼ム。あの頃の賢王とティネモシリ様の意志を継イデ……。
タルタロスを、全てヲ喰らう破滅のタルタロスを……消し飛ばしてクレ。ソレが……僕の、王の子供の願イだ」
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