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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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光無き地 5

「ここは予定に無かった場所ですが、大きく逸れてはいません。もう都はすぐそこにあると思います」


アグラタムがパン型の食糧を飲み込むとそう言う。


「なら食べたら直ぐに出発ね。ミヤコ……どんな場所か、少しでも分かれば良いのだけれど」

「命令には逆らえないっていうのも気になりますね」


イシュリア王の言葉に重ねて自分も疑問を呈する。疑問だらけのこの世界で何を得られるか、それが今回一番大事だったがタルタロスが何か。それを得られただけでも十分だろう。


「さて、師よ。腹は膨れましたか?」

「うんうん。栄養はたっぷりよ!」


国のツートップに子供の世話をされている。豪華な世話とそれにそぐわない周りの景色を見ながら、水を一口飲んで頷く。


「ええ。お陰で魔力も回復しましたし、そろそろ飛びましょうか」


土魔法の杭を消すとマットを手早く畳む。


「ではこれより呼称名ミヤコへと飛びます。先鋒は私が行きますので師と王は後ろに」


妥当な判断だろう。アグラタムが前なら敵が来ても盾になりやすい上、自分とイシュリア王は挟み撃ちになっても二人で相手が出来る。その間に逃げ道を作れれば万歳だ。


「わかったわ」

「了解した」


そうしてミヤコの方向へと飛び立った。水のなくなった池の跡地を少し振り返りながら、彷徨っていた魂に救いがあるように、と祈りながら。



「……アレですかね」


数時間すると目の前に大きな城とそれに負けないほど大きな街が見えてきた。距離はまだあるが、恐らくあれがタルタロスの首都、ミヤコで間違いないだろう。にしても不気味だ。


「いやぁ、不気味ね」

「……イシュリア様、直球が過ぎます。気持ちは分かりますが」


同じ事を口に出してしまったイシュリア様に苦笑しながら、その手前で浮遊をやめる。


「ここからは怪しまれないように歩きでいきます」


全員が地に足をつけると、少し早歩きでその方向へと向かう。


「……警戒しないといけませんね」

「そうね。敵の本拠地だもの」


その言葉を聞く中、まだ何か自分は引っかかっていた。


(何だ、何が引っかかっている?店主の言葉にまだ何かあるのか……?それともさっきの魂達の言葉か……?)


暫く無言で歩いていくと、大きな門と街を囲む大きな壁が見えてくる。


(上空から侵入したらバレるやつだなこれ)


これは先に思ったことを伝えておこう。


「上空から侵入したら真っ先にバレるよな、これ」

「そう思います」


「敵が音を遮断する結界を貼れるなら音で知らせる結界も貼ってある……と思っていいでしょうね」

二人の同意を得て、門に辿り着く。


「おや、イラッシャイ。ようこそミヤコへ。身分を証明出来るモノはあるかな?」

(……最初のあの街よりも、こちらの方が聞き取りやすい。何故だ?)


疑問に思いながら、自分が前に出て答える。


「我ら記憶喪失にて……分からない。手持ちもない」


そう答えると門番は泣きそうな目で同情してくれるのか、顔を覆った。


「ソウカ、最前線の戦いで……それはお気の毒に……サア、ミヤコの中に入るが良い……」

(……最前線だと何故わかった!?)


慌ててブレスレットを起動させて魔力を通して警告をする。


(我々が記憶喪失だと聞いただけで最前線に居たと思っている!何かがおかしい!)


二人が後ろで小さく頷く気配がする。それを確認すると門番から次の言葉を聞かされた。


「そうしたら『案内屋』まで行くとヨイ。道は……」


丁寧に教えてもらう。割と長い、というか奥にあるようだ。


「……ありがとう、同胞よ」

「イイヤ、このぐらい最前線で戦った勇敢なる戦士に比べれば……サァ、イキナサイ」


そう言われて半分背中を押されるようにミヤコへと乗り込んだ。


「……さて、ミヤコまで来たわけだけど。どうしましょうか?」


イシュリア王が聞いてくる。自分とアグラタムはそれを聞きながら少し考えてから、同じ意見に達する。


「予定よりかなり早く着いたのですから、どこか人目につかない場所を見つけて門を開いて、数日探索するのが良いかと」

「自分もアグラタムに同意見です。安全……とは言いきれませんが、ここまで来れたらまずは転移できる安全地点を見つけるのが最初かと」


イシュリア様が頷くと、影の姿のまま無言で散開する。


(何かあればブレスレットで連絡を。いいわね?アグラタム、レテ君)

(御心のままに)

(了解です。イシュリア様)


そのまま広大な街へと繰り出す。主に記憶喪失という設定を使って影に聞いていく作戦だ。


「済みません、食べ物は……」


そう近くの夫人らしい人に聞くと、あらあらと笑う。


「食べ物ナンテ、貴方記憶喪失かしら?」

「はい。今この街に……」

「そう……。確かに記憶喪失になってもミヤコ産まれなら食べ物恋しくナルワヨネ。タルタロスの娯楽だもの。いいわ、餞別として少しお金アゲルカラ……勇敢なる戦士に敬意をヒョウシテ。道はね……」


そうやって道を教えてもらうとぺこりとお辞儀をする。


「ありがとうございます」

「イイノ。私は……怖くてイケナカッタカラ……」


そう言って手を振って去っていくと、ブレスレットに連絡を入れる。


(どうやら記憶喪失になった人は全員最前線に出た人……という常識が拡がっているらしい。後、食べ物はミヤコの娯楽だと言っていた。やはり食べ物は必要としていないらしい。続いて調べてみる)


そう連絡した後、子どもの姿のままお金の入った黒色の袋を握りしめながら教えてもらった通りへと繰り出した。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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