光無き地 3
「それで、これからどうしましょうか?ミヤコ……恐らく首都まで二日。こんな長い時間イシュリアを空けられませんよ」
アグラタムが座って曇天とも言えない暗さの中話し出す。自分よりもイシュリア王に委ねるべきだと考えて、自分は少し考察に入る。
(店主は食糧と水、それに泊まるための道具を売る店を教えなかった。それにそれを売る店もなかった。……だけど、まだ引っかかる。何かもっと重要な、何かを見逃している気がする……)
黙々と食糧にかぶりつきながら考察の渦から引き上げたのはイシュリア様の言葉だった。
「レテ君もそれでいいかしら?」
「え?……あっ、すみません。考え事をしていて聞いてませんでした」
「あら、うちの食糧は……ってこれ、緊急時の物だものね。もう少し兵士に士気を上げさせるために味も改善するべきね」
「あ、いや味ではなく……」
盛大な誤解を受けている。味について考えていた訳では無い。そもそも味はあまり入ってこなかったが。
「そう?でも美味しくない食事は良くないわ。改善するように言ってみるわ。……それで、アグラタムと相談した結果、ここで一度イシュリアに帰って時間を確認しようって結論になったのよ。数時間ここの世界にいるけれど、時間軸が同じとは限らないから」
確かに、行って帰ったらもう夜でした、なんてオチになったら色んな人が大慌てだろう。こくりと頷いて非常食のパンのような食糧を飲み込むとアグラタムが立ち上がる。
「……では一度門を開きます。次からはココから行きましょう」
「頼んだ」
「頼んだわよ」
そう言って自分とイシュリア様でご飯の後片付けをする。改めて見ると本当に硝子のような透き通った手をしている。
「あら、そんな。子供は待っていても良いのよ?」
自分はそんな人にこんな片付けの半分もさせる訳にはいかないと急いで畳む。
「いえ、イシュリア様こそ王なのですから後片付けぐらい任せてください。……それに身体は子供ですが中身は……」
「あら?アグラタムから聞いているけれど青年だったのでしょう?なら私から見ればまだまだ子供よ。愛しき子供に違いないわ」
……一体この人は幾つなのだろうと禁忌の考えをしながら片付け終わると、アグラタムが門を開く。
まずはイシュリア様が帰り、次に自分。最後にアグラタムが門を閉じて会議室に戻ってきた。
「大体十一時ね。……日付も変わっていないみたいだし、大体時間軸は同じと考えていいかしら」
部屋の時計型魔道具で確認してもらうと、その後の相談をする。
「さて、過ごす時間が同じだったのは有難い事ですが店主の話だと二日はかかる道程。二日もあちらの世界にはいられません」
「そうね。それに情報を集めるとなるとさらに一日欲しいところよ」
そう言って皆でまた考える。しかし、そんなに難しい問題では無いことに気がついてしまった。
「……別に、律儀に歩かなくても良いのでは?」
その言葉を聞いて目を点にする二人も意図を理解したのか恥ずかしそうに両肘を机に置いて両手で顔を覆う。
「……確かに、観光のためではありませんでした」
「……道程を教えてもらったからご丁寧に歩いていたけれど、確かに沿ってさえいれば歩かなくても良いわね。風か何かで自身を加速させればいい話だったわ」
そうと決まれば善は急げということで先程の地点にまた門を開いてもらって戻る。
「じゃあ飛ばしますよ」
「あら、じゃあ私も飛ばすわね」
「……自分を置いていかないでくださいね」
そう言って三者三様に影の姿に魔法をかけてスピードを上げていく。
グン、と上がるスピードを制御しながら周りを軽く探知する。
「周りには魔物も影もいませんね」
「それならもう少し飛ばそうかしら?」
「……王よ。魔力は大切にしてください。それにこれ以上飛ばして師の魔力が尽きたら本末転倒です」
(そんなにヤワじゃないけどなぁ……)
そんな事を思いながら飛ばしていくと、聞いていた道標の村の横を通過する。
(……?住人がほぼいない。村だからか、それとも徴兵か?)
軽く探知魔法で情報を読み取ったが、牛や羊といった家畜はおろか影の反応もほぼ無いに等しいものだった。どこへ行ったのだろう。中継地点なら休む場所ぐらいはあるはずなのだが。
「探知をしましたか」
アグラタムが恐らく魔力の反応に気づいて聞いてくる。イシュリア王もそれを気にしているようで少しスピードを落とした。
「あぁ。今の中継地点の村を少し探知した。……家畜はおろか、影も殆ど居ないに等しい数ぐらいしか反応しなかった。あの店主が嘘を言った……可能性はあるけれど、敵対するような反応は無かった。多分嘘じゃないとは思う」
それを聞くと宙に浮いて疾走するイシュリア様が口を開く。
「今のところ店主の情報を信じるしかないわね。それに門番の人も疑っていなかったし、店主の人の言葉は信じていいと思うわ。とにかく進むしかないわね。今のところそれしか手がかりはないもの」
それに頷くと、先頭のアグラタムも頷くのがわかる。
「ではくれぐれも影の姿を解除しないように。……このままのペースだと五時間ぐらいで着きます」
「よし、もう少し飛ばすぞ」
「師よ!?あぁ、もう!」
その言葉を聞いて遠慮なくブーストをかけて追い抜く自分を慌てて追いかけるアグラタム。それを笑いながら余裕でついてくるイシュリア様。
(だってまた夜に帰ってきてシアに問い詰められたら今度こそ言い訳がききそうにないじゃないか……)
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