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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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光無き地 2

その後街の中を軽く歩いて、店主に言われた通りに辿り着く。


「この先に都方面の出口があるって話だったわよね」

「はい。……相変わらず目はこの仄暗さには慣れませんが、何故か周囲は見やすいですね。ほら。右側にそれっぽい門がありますよ」


イシュリア王が呟くと自分がそれに答えて指をさすと少し前に見た外の景色が見える。


「王よ、私が先行します。万が一敵対する者がいた場合は私が対処いたします」


アグラタムがそう言って先頭になると、自分は背後を守るべく三番目につく。


(……本当に何も無い。ただ影が暮らすためだけに作られた街って感じだ)


見渡す限り凡そ商店と呼べる建物はない。もしかしたら建物内にそういったものがあるのかもしれないが、最前線だというのなら先程の店主のように営業する店がもっとあっても良いはずだ。


「師よ、考えているようですが……歩き続けて大丈夫ですか?」


先頭を歩くアグラタムがこちらをマメに確認してくれていたのか、足を止めて声をかけてくれる。


「あ、ああ。大丈夫だよ。ただ店が少ないなって思ったんだ。最前線の街っていうぐらいだからもっとこう……店!って感じの建物があってもいいと思うんだけど見る限り住居だけだからさ」


そう言いながら頷くと再び歩き出しながら皆で意見を交換する。


「最前線で今は戦闘が終わったので閉めている……などは?」

「いいえ、それならもっと仕切りなどで締め切っていると思わない?確かにレテ君の言う通り、周りは光っている住居……だと思う場所ばかりよ」

「……そもそも、最前線に兵だけを送り込むだけでなく、都や他の地から来たであろうその家族までこの都市に暮らさせる利点はどこにあるのでしょう」


そう言うと二人とも黙ってしまう。自分も考えるが、出口はもうそこだ。


「……オヤ、ミヤコニイクノカイ?」


その門番のような影の声に慌てて皆が顔を上げるとアグラタムが答える。


「ああ。何もかも忘れてしまった我らに行く場所はミヤコだと教えてもらったから……」


それに同情するように二人の門番は頷く。


「キオクヲナクシタンダネ。カワイソウニ」

「ミヤコマデタドリツケマスヨウニ。ヨイタビジヲ」


そう言ってあっさりと通してくれる。そういえば入ってくる時の門の方には門番がいなかったが、あちらこそこういう逆に攻められる警戒をして置くべきではないのだろうか。


(意図があるのか……?)


考えながら、礼をして外の地を踏みしめる。

相も変わらず暗いなぁ、と思いながら歩いているとアグラタムが不思議そうに呟く。


「……王、それに師。我々はここに来て数時間は経っていますよね」


そう問われるとイシュリア王がすぐに答える。


「ええ、探索の時間と話を聞く時間で最低二時間は過ごしたはずだけれど……あれ?」

「……どうしたんです?二人とも」


不思議そうに問いかけると、アグラタムが答える。


「師よ、考えてみてください。我々の世界では二時間経てば何かしら変化があると思いませんか?

……空に」

「……あっ」


確かにそうだ。突入したのは朝の六時程。そこから二時間経てば朝日は昇って景色や明るさが変わるはずだ。なのにこの世界の空や明るさは一向に変わることを知らない。それどころか太陽の姿も見えない。


「……確かに。太陽がない」

「謎だわ。こうして普通に歩いている分には体温に何も異常を感じないのに、太陽がないなんて。不気味ね」

「本当に分かりませんね。この世界は」


そう言うと店主に言われた通りに歩いていく。

周りの木々は不気味な色に照らされ、その枝先には花も実もつけていない。いっそ人喰いならぬ影食いの木々だと言われても納得しそうだ。

そのまま聞いたとおりに数時間歩く。やはり明るさは変わらない。おかしいと思いつつ自分の年齢を思い出させる音を鳴らした。


ぐぅ〜……


「大きな腹の音ね!子供はそうでなくっちゃ」


イシュリア王が嬉しそうに言う。やはりこの人子供が大好きなのだろう。中身がどんなのだろうと割と関係なさそうに感じる。


「師といえど身体には勝てませんか。大丈夫ですよ、私が食糧を持ってきていますので。その辺りで休憩にしましょう」


そう言われてマットを敷かれた場所まで行って、脳天が痺れたようにおかしいと思っていた事実に気づく。


「……アグラタム、食糧ってどのぐらいある?」

「おや、食べ盛りですか?私は帰れない事を想定して三日分魔法で仕舞ってありますが……」


そこまで聞いて次にイシュリア王に質問する。


「イシュリア様、辿り着くまでどのぐらいの時間がかかると店主は言っていました?」


そう言われてイシュリア王はサラサラと答える。


「二日程、ね。都市にしては近いと思ったものだわ。それがどうか……っ!?」


そこまで答えてイシュリア王も気づいたようだ。アグラタムが首を傾げているので答える。


「なぁ、確かに店主は道は教えてくれた。しかもタダで。だけどさ、『旅路に必要な物』を買う場所は教えてくれなかった。二日ぐらいかかるなら絶対に必要なはずなんだ。食べ物や水が」

「……!」


三人でマットに座って意見を交換する。


「確かにおかしいわ。二日でしかも記憶喪失なら食べ物も水もないはず。なのにそれは教えなかった。ということは……」

「……可能性としては二つ。一つは我々を道中餓死させる為。もうひとつは……そもそも影は、飲み食いを必要としていない」


そのアグラタムの考察を聞いて自分は答える。


「多分自分は後者だと思う。それならば商店がない理由も成立する。だってそもそも売る必要がないのだから」

「……人外じみてきたわね」

「そもそも人かすら怪しいですね。門番も手持ちに何も無い事を心配しなかったですし、人ではないのかもしれません」

「……可哀想だけれど、人だと思わない方が良いかもしれない。

亡霊が彷徨う、光無き地だ。この世界は」


そう言ってアグラタムが出した食糧を口にする。

味があるはずなのに、味は全く感じられなかった。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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