試験前の珍事
今回から学院編です。よろしくお願いします
九月の一日。魔術学院と武術学院は同日に試験が始まる。なのでどちらか片方しか受けることしか出来ない。
試験は午後からだが、折角ならと午前も見に行った。午前はどうやら両学院共に含めた夏休みの終わりを告げる式をしているらしい。試験生はそれをグラウンドに設けられた席から見ることが可能だ。当然、周囲にも何人か目をキラキラとさせながら見ている試験生がいる。
「……では両学院共に、研鑽を怠るべからず!これにて式を終了とする!」
そう言うと規律正しく……とは行かず、礼をしたら自由解散のような感じで大勢の生徒が話しながら校舎へと戻っていった。
さて、お昼ご飯でも食べて試験に備えよう。そう思いながら適当な売店へと向かった。
「うむむむ……どれにしようかな……こののり弁当……いや、サンドイッチも捨てがたいなぁ……」
滅茶苦茶悩んでいる、薄水色のロングの髪の女の子がいた。なかなか決まらないらしく、売店の売り子さんもちょっと困った様子だ。
じーっと横から見ていると、ふとその視線がこちらに向く。
「そうだ!君!君ならどっち選ぶ!?」
「え?あ、あぁ……のり弁当かな」
「分かった!じゃあ私ものり弁当にしよ!」
どうやら元気が取り柄のような子だ。元気な子供は良い。うんうん、と頷きながら自分ものり弁当を貰う。
「そうだ!これも何かの縁だし、一緒に食べよ!君も受験生みたいだし!」
「って事は君も受験生なんだ。お互い合格できるといいね」
ベンチに座って食べながら、合間に話す。彼女ののり弁当はあっという間に完食されていて、自分はゆったりと食べている。その間にも話は咲いていく。
「……へぇ〜!十四歳なの?って事は、滅茶苦茶才能があるってことだね!凄いことだぁ!」
「てっきり馬鹿にしてくると思ったけど、しないんだね」
「なんで?才能があって、実力があって。それを馬鹿になんて出来ないよ」
どうやら何時やら吹き飛ばした子供たちとは違うらしい。この子は人を馬鹿にしない価値観の子のようだ。良い教育を受けている。
「私は魔術学院を受けるんだけど、貴方は?」
「自分も魔術学院だよ。試験の時はライバルだね」
「そっかぁ!君みたいな人がライバルだとちょっとワクワクしちゃうね……あ、ごめん。まだ名前を言ってなかったね。
私はシアって言うんだ、よろしくね!」
「自分はレテって言うんだ。お互い頑張ろうね」
そうして握手をすると、何か異なる魔力を感じる。無意識に相手の中を探った感じだが、何なのだろうか。もしかして……
「……特異能力持ってたりする?」
「えっ!?なんでわかったの!?」
やはり。特異能力は他の魔力とは違う感覚があるらしい。それをはぐらかしても特にメリットがある訳でもないので、謝罪と同時にそれを伝える。
「握手だけで……凄いね!ふふ、私の特異能力は中々だからね。いつか見せてあげるよ」
そう言ってそれじゃ!と去っていく。
なかなか面白い子がいたものだ。と思いながらのり弁当を食べ終えて、試験会場の方へと向かった。
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