ぐったりばったり
「……やっぱりもう無理」
チャポンと水が跳ねる音を聞きながら自分は身体を湯船に沈める。
「まぁそりゃそうだな……」
「……疲れているのも当然だ。正直俺も寝たい」
ショウがバシャリと桶の水で身体を流しながら言う。レンターは自分と同じく、湯船でぐったりしている。
「そういやファレスとフォレス、それにミトロは無事なのか?」
クロウが自分の横で気持ちよさそうに浸かりながら聞いてくる。ブクブクと沈みたい欲望を抑えながら身体を起こして答える。
「あぁ、シアとニアがあの後確認しに行ったでしょ?二人とも侵攻の時は部屋に籠ってじっとしていたらしい。……ニアの話だと、ミトロはご丁寧に闇の広域化系統で簡易的に闇に紛れていたらしいよ」
自分が影に隠れたのと同じだ。木を隠すなら森の中、というやつである。
「うっへぇ。影に紛れる……敵に味方と思わせるのかよ。バケモンか?」
サラッと自分もバケモノ扱いされた気分になったが、その扱いはイシュリア王や弟子から始まっていて今に始まった事では無いのでスルーしておく。
「とにかく〜今日はもう寝たいね」
「同感だ。つっかれたわ……」
ダイナが湯船から上がると同時にそんな言葉を言う。そしてショウは湯船に沈みながらそんな言葉を吐く。
「待て待て沈むなショウ。せめてベッドで沈んでくれ」
「いやもう無理……」
「……運び出すか」
完全に轟沈したショウを皆で引っ張りあげると、全員でタオルで身体を拭いて浴場から出る。
「……今日誰か髪乾かすための温風吹かせられる〜?」
ダイナが風呂上がりに水を飲みながらそんな事を聞いてくる。
「いやそんな事聞かなくても自分で……って、もしかして魔力切れで魔道具使えないのか?」
自分が問いかけると黙って頷く。
普段は脱衣所に魔力を通せばそこから温風を出すための魔道具が設置してあるのだが、皆魔力がカラッカラなのだろう。先輩達も協力して貰っている姿が見られる。
「自分がやるからその辺に固まってくれ」
そう言うとショウも、クロウも、レンターまで集まる。皆して魔力が枯渇している。それほど過酷だったという事だろう。
風に火を少しだけ混ぜた広域化系統の魔法を使用すると、温風が彼らの髪の毛と身体を程よく温めていく。ついでに自分の方にも吹かせておく。
「おぉ……レテお前、ホントに多才だな」
「感謝感謝〜」
気持ちよさそうに夢見心地になっているクラスメイトを見ながら心から思った。
(自分もめっちゃ疲れてるから出来れば乾かして欲しい。そしてここで寝ないで欲しい)
ショウがうたた寝し始めたのを見て慌てて風を止めると皆で彼を起こしにかかった。
「それじゃまたね〜」
「……ああ、またな」
皆と二階で別れる。自分だけ女性サイドの場所なので距離が少しだけあるのだ。
自室に入ると心地よい感じと香りがする。これは……
(……自分が買った魔道具、だよな?)
はて、魔力なんて込めただろうか。そう思っているとシアが上段のベッドから声をかけてくる。
「あ、レテ君お疲れ様。窓開けっ放しだったから閉めておいたよ」
(……そういえば飛び出した時窓開けっ放しだったな。完全に忘れてた)
ありがとう、と感謝を込めて言うとシアがベッドから起きて降りてくる。
「うん。どういたしまして。……あ、あとね。疲れてると思ってレテ君が買ってきてくれた魔道具に魔力を込めたんだけど……どうかな?」
なるほど。自分を気遣ってシアが魔力を込めてくれたわけだ。シアだって魔力はカツカツなはずなのに、自分の為にそれを使ってくれる事が嬉しかった。
「とても心地がいいよ。ありがとう、シア。疲れてるのに……」
「えへへ、いいの。レテ君は今日いっぱい活躍したんだから。私から何か出来ないかなって考えて、やってみたんだ。……ふぁぁ」
若干頬を染めながら言うシアだが、眠気には勝てないらしい。彼女も風呂上がりなせいもあるのだろう。魔道具だけでなく、彼女からもいい匂いがする。
だから、疲れている自分はついついこんな言葉を口走ってしまったのかもしれない。
「シア、とってもいい香りがする。……今日は、一緒に寝たい。抱きしめながら、一緒に」
「……ふぇ?」
「……あっ!?」
気づいた時には時すでに遅し。自分の眠気が吹き飛んだ。自分の記憶では男が風呂上がりにベッドに誘うのはあまり宜しくない事だと記憶している。弟子から、自分から誘うとは流石です師よ!と言葉が聞こえてきそうだ。
「あ、いや、疲れてて……ごめん、忘れてーー」
「……いいよ」
シアが下を向いて指をモジモジとさせながら許可する。逆に自分が驚いてしまう。
「……いい、のか?」
「レテ君、あんまり自分から何かしてほしいって言わないし、その特異能力が君の心を表しているみたいに他人への愛に溢れていると思う。……でも、疲れた日ぐらいは、誰かの愛を受け取って欲しいなって。だから……一緒に寝よう?」
(誰かの愛を……受け取る)
自分の特異能力は誰かを守る盾であり、誰かを救う剣であったと思っていた。それが愛だと。
けれど、彼女は自分に愛を受け取って欲しいと言った。目を見て、ハッキリと。
(そうか、自分も愛が必要なんだな……)
「ありがとう、シア。……上と下、どっちで寝る?」
「この前は下だったから……今日は上にしよ?」
そう言われて頷くと、彼女が上に登る。自分もそれに続いて登る。
「じゃあ電気消すよ」
少し消灯時間には早いがもう疲れている。休日だし早く寝たって問題は何もない。
「……おやすみ、シア」
電気が消えた部屋で彼女を抱きしめながら言う。彼女の心臓の鼓動が激しく動いているのが感じられる。
「おやすみ。……皆の為に動いてくれて、助けてくれてありがとう。私の大好きなレテ君……」
彼女も自分の背中に手を回すとギュッと抱きしめて、そう言った。
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