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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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魔術寮への帰還

魔術学院への寮への帰り道。整備された道を歩いている最中、スイロウ先生が問いかけてくる。


「さっきの話だとレテ君は影の四足歩行の獣、私たちが対峙していたグラウンドの敵、それに武術学院の影と続いた訳だが……本当に大丈夫かね?私が言えた口ではないが、バテそうなら私がおぶって運ぶぞ?」

「いえ、大丈夫です。休ませてもらいましたし、夜の間休めば何とかなると思います」


雑談をしながら既に夕暮れと呼ぶには遅い暗さになっている道を歩き続ける。それを聞いてスイロウ先生は豪快に笑った。


「はっは!若いとはいいなぁ!いや、羨ましいのだよ。私が君みたいに魔力切れを連発するようなことをしたら授業どころか職員室にも行けないからね」

「……肉体だけじゃなくて魔力も回復遅くなるんです?」

「いや、多分筋肉痛だなぁ!」

「魔力関係ないじゃないですかっ!」


全力で突っ込む。魔力は大体一日で回復するのにおかしいなと思ったらこの先生である。二人の笑い声が道中に響きながら寮へと戻った。

その途中、裏庭を通ると先生が目を開ける。


「なんかクレーターができているが……これはまさか……」

「……はい。影の獣を撃退するために外に出て応戦したらこうなりました」


スイロウ先生は裏庭の惨状をどうするか、というよりこれだけの出来事があって無事だということを喜んでいる。いつもの大きな笑い声を上げながら、軽く言った。


「そうしたら先生と一緒にごめんなさいしに行くかあ!」

「どこにですか?」


そう言うと笑い顔からキリッとした顔になる。


「ジェンス総長と……オバチャンだ。毎朝ここを掃除してくれているのはオバチャンだからな。あの人は怒らせてはいけないぞ。絶対だ」

「とりあえずオバチャンから謝りに行きましょうか」


ジェンス総長よりも絶対オバチャンが先だ。直感がそう告げている。そう感じながら寮の中へと入った。



「影は撃退出来た、と聞いていたけれど実際に見ると安心するなぁ!」


響き渡るスイロウ先生の声に、生徒たちが一斉に振り向く。その中にはシア達も居た。


「あ!スイロウ先生とレテ!おかえり!」

「レテ君……無事でよかった……」


クロウがおかえりコールを告げ、シアが心底安心した、とばかりに言葉を漏らす。そんなに心配させるようなことをしただろうか。

それに周りから自分を見る目が多い気がする。それも、不思議そうというか、いつもの神童と呼ばれる時とはまた違う奇異を見る視線だ。


「……グラウンドから武術学院に行ったと聞いてな。それでシアは心配していたわけだ。勿論、ニアや俺もな」

「そうか、ショウやクロウから聞いたのか。……それで、なんだ?このくすぐったい……なんとも言えない視線は」


皆が見てくる。変な感じだった。そんな中、シアが近づいてきて心配そうに言う。


「大丈夫?怪我とかしてない?……疲れてたらご飯、部屋まで運ぶよ?先に休んでてもいいよ?」

「いや、お風呂入ってないから……」

「身体拭こうか?」


いつにもなく心配性な彼女の肩に手を置いて、ニッコリとする。


「いや、勘弁してくれ。……それで、この視線は?」

「あ……これね、ここに来た救援の人が残していった言葉が気になってレテ君の事を気にしているんだよ」

「……救援?言葉?」


訳の分からない単語が並べられる。一つ一つ丁寧に説明してくれる。


「うん。私たちが苦戦してる時にどこからか助けに来てくれて人がいて。……姿が蜃気楼みたいで見えなかったんだけど、とっても強かったの」

「蜃気楼。なるほど、正体不明って事か」


以前自分がしたように、光魔法で姿を隠しているのだろう。何故そんな人がここが襲われてるのが分かって、現れたのかは不明だが。


「うん。ただ、最後に私の方に来て。……『ルームメイトに伝えておいて、私の右腕がお世話になってます』って言ってどこか行っちゃったの」

「右腕が……お世話になってます?自分にそんな実力者の右腕みたいな人、世話した覚えが全くないぞ……なにかの間違いじゃないのか?」


本当に覚えがない。なにか世話した覚えはが本当にない。


「間違いじゃないよ。女の人の声で、私の方に伝えてきたの。……覚え、ないよね。やっぱり何かの間違いだよ!」

(女の人の声……実力者の女の人の右腕……右腕?相棒ではなく、右腕。右腕、右腕……!)


シアが叫びながら自分の表情を隠してくれている中、ハッと思い出す。一人だけ、自分が本当に世話をした人物を。

そう。礼を立場上伝えにくい人物を。


「何か、覚えがある?」


ニアがそれに気づいて聞いてくるも、いやいやと首を振る。


「……ううん。自分が世話……というか教えたのはあの時ファレスとフォレスの家に居た人だけだから。やっぱり間違いだよ」


嘘だ。もう一人、皆よりも世話をした時間がとてつもなく長く、鍛えた人がいる。


(……なるほどなぁ。あの人なら確かにここが襲われてるのは見過ごせないだろうな)


上を見上げながらふぅ、と一息ついてとりあえずスイロウ先生に手招きする。


「ん?なんだい?」

「……オバチャンに謝りに行きましょう」

「……そうであった!早く謝らねば!オバチャン!」


そう叫ぶとオバチャンが奥から出てくる。隠れていたようだ。


「おやおや、どうしたんだい?」

「実はーー」


事情を説明して二人して土下座すると、オバチャンが笑う。


「ほっほ!なるほどね。了解したよ。兎にも角にも、二人が無事でよかったよ……」


そう言われると同時に力が抜ける。とりあえず、強襲戦が終わったのだと実感した。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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