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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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影の獣の狙い

「レテ君……大丈夫かね?」


武術学院の寮でバテている自分を見てスイロウ先生が水を持ってきてくれる。


「ちょっと……無理をしましたかね」


有難くそれを受け取って一気に飲む。次ぐに次ぐ連戦。魔力の消費が激しく正直疲れすぎてベッドで寝たいところだ。


「流石に鍛錬した数十分後に来るとは思ってなかっただろうしなー。寧ろ一学年でそこまで戦える魔力があるのは凄いぜ?」


ミカゲ先生がほれ、と軽食をくれる。見れば皆に配っているようだ。スイロウ先生もうむ、と頷くと話し出す。


「まさかグラウンドの救援に来てくれて、そのまま休憩もとらずに武術学院に行くとはね。……そういえば、魔術学院の方は大丈夫そうなのかい!?」


その言葉でハッとする。いつの間にかブレスレットの救難信号が止んだため、気にしていなかったが一応探知魔法で魔術学院に影がいるかを調べてみる。


(……いない、ってことは撃退したのか。凄いな)


ふぅ、と息を着くと笑顔を浮べる。


「探知したところ、魔術学院の方の影は大丈夫そうです。先生や先輩たちが上手くやってくれたのでしょう」

「おぉ、良かった。これで安心して帰れるというもの」


安心した先生を見て、こちらも安心する。探知したところ、撃退したからか影はもう居なかった。安心していいだろう。


「しっかしまぁ、今回は攻められたねぇ。今まではそんなこと無かったのに」


ミカゲ先生がポツリと呟くと、確かにそうだと考える。そして一つ、気になることがあった。


「そうだ、人型じゃなくて獣……四足歩行みたいな影は見ませんでしたか?特にナイダとか……」


そう問いかけると、ナイダは首を傾げながら思い返すようにして、首を横に振る。


「四足歩行……見てない」

「私のところに来たのも人型だったね。……その四足歩行の影がどうかしたのかい?」


ミカゲ先生が遅れたのも足止めが人型だったからだようだ。ならば何故自分の所にだけ……?


「実は自分の部屋に四足歩行の影が現れたんです。結構しぶとい敵だったのでなんでだろうと思いましたが……」


事情を説明すると、スイロウ先生が少し考えると、見解を話してくれる。


「レテ君。君は文字通り影に対する光だ。この学院内で自由に動けて、かつ上級生や先生顔負けの光魔法を操れるのは君ぐらいだろう。足止めの為か、もしくは……最初からこちらの影が囮で、君を始末するためだったか」


その言葉に少しばかり驚く。


「自分を始末するため……」

「うむ。恐らく魔術学院もグラウンドも武術学院も、影が出てきたのは同タイミングだったはずだ。ならば君一人だけを狙うとしたら始末するため……そう考えるのが妥当ではないだろうか。……すまない、私とした事が生徒に不安を与える言葉を使ってしまったね」

「いえ、自分は率直な意見の方が有難いので大丈夫です」

(始末するため、か……)


確かにあの影だけはやけに頑丈に作られていた。それこそここに投入すれば学院を潰せるぐらいには。

問題はどうして自分を驚異と判断したのか。ラクザの時の影が情報だけでも、とは言っていたが始末したはずだ。


(……いや、あの指揮系統の影なら身をわざと犠牲にして情報を送った可能性もあるのか。厄介な奴らだ)


そう考えると益々驚異だ。早めに叩き潰しておきたい。が、手元に攻めるための情報がない以上アグラタムに任せるしかない。


「ともかく魔術学院に戻ろうではないか。あちらの被害も気になるところだ」


スイロウ先生の提案に頷くと、武術学院の人達に手を振って立ち去る。


「いやぁ、武術も魔術も使える神童……ね」

「天は二物を与えずとはいうがありゃ三物は与えてるぜ……」



「シアの同室って……レテ君、だよね」


ニアの言葉に私自身が呆然としながら頷く。


「うん。レテ君だよ。間違いない」

「……右腕によろしく、とは何なのだろうな。シアに心当たりはあるか?」


正直に言えば心当たりはある。しかし、彼はそれを望まない。彼は平穏を望む。だからううん、と首を横に振る。


「分からない。でも彼の事だから……何かしらあるのかも」

「まぁ隠し事の一つや二つあるよね〜」


フードの事もあって皆納得している。そこに先生と先輩、ショウとクロウが急いで外から駆けつけてきた。


「鈴の音は鳴ったが……こっちは大丈夫か!?」


その問いに上級生の一人が答える。


「今しがた、謎の人が現れて……何とかなりました」

「……謎の人?」


そう首を傾げる先生。だがそれ以外に言いようはないのだから仕方がない。


「……フード被ってたりとか?」


クロウが問いかけると、私が首を横に振る。


「そうじゃないの。姿そのものが蜃気楼みたいで……分からなかった。あの人が誰なのか」

(でも、知っている)


言いながらも若干の罪悪感に苛まれながら、こちらでの事情を説明した。


「なるほど。その人が一掃したわけか。……にしてもニアの『殲滅者』とシアのゲンブ、レンターの光付与。あって良かったぜ」

「や〜僕も頑張ったんだけどね?」


笑いながらダイナがショウに突っ込む。わかってるよと言いながらハイタッチする彼らを見ながら、ふとクロウが思い出したように言う。


「あれ、レテはまだ戻ってきてないのか」


その言葉に弾かれたように私が振り向く。


「戻ってきてない……って?」

「え?いや、あいつグラウンドを助けた後に武術学院の方に行ったからさ。……当然か。そりゃそうか」

(……彼が助けた?彼のことだから危険性が高い方に行ったんだろうけど……)


「レテ君、怪我はしてない?大丈夫そうだった?」


ついつい早口で聞いてしまう。まるで自分の不安事のように。


「怪我は……グラウンドではしてなかったな。ただアイツ、休む間もなく武術学院の方に突っ走って行ってよ。そっちは分からないな」

「……レテ君……」


不安になる気持ちをギュッと抑えながら、その様子を周りのクラスメイトが見ていた。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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