役割分担
「助かったよ、君が来てくれなかったらどうなっていたことか」
皆から礼を言われる。礼を言われるのは心地よいことだがそれよりも今は知らせる事実がある。
「ありがとうございます。ですが、学院を襲った影はここだけではありません。魔術学院と武術学院の寮、残り二箇所に現れているのが感知で分かりました」
「なっ……そんな多いのか」
クロウや他の皆、他の先生方すら考える中スイロウ先生が声を上げる。
「では、少し休んで魔力を回復したら役割分担して救援に行くとしよう」
「役割分担?」
自分としては未だに危険信号を鳴らすブレスレットが気になる。アグラタムが直ぐに来ない辺り、今回は相手も戦力を投入してきたのだろう。もしかしたら学院外の他の地域でも同じような襲撃が起こっているのかもしれない。
「ああ、レテ君は武術学院の救援に向かってほしい。私もそれに同行しよう。他の生徒と先生は魔術学院の方に救援に。悔しいが影に武術で対抗できるか未知数な以上、光魔法を打てるレテ君に頼るしかあるまい」
先輩達がくっと歯噛みするのが分かる。自分達より低い学年に任せないといけなければならない罪悪感。自分には出来ないという無力感。それを痛感しているのだろう。
「……分かった。スイロウ先生の言う通りにしよう。だがまずは休息をとってからだ。我々の魔力は既に枯渇寸前。まずは落ち着いて回復するのだ」
先生の指示に従って皆が地べたに座る。飲み物を取り出す人が大多数だ。スイロウ先生とて例外ではない。だが自分は待っているだけとはいかない。ブレスレットが信号を発している以上、助けなければならない。影が人型なら魔術学院の方は最悪ニアが『殲滅者』を解放してレンターと協力して耐えられるとは思うが、武術学院のナイダの方は分からない。
「スイロウ先生……先に行きます」
そう言って武術学院の方へと走り去る自分の後ろからスイロウ先生が声をかける。それは引き止める声ではなかった。
「私も回復したら直ぐに駆けつけよう!だから……無理をするな!君だって万能では無いのだから!」
その言葉を聞きながら風を纏わせて移動速度を早めながら痛感する。
(そうだ。自分は万能じゃない。同時襲撃に全て対応出来るような、完全な人ではない)
「……なんですか、これは」
少し前の武術学院にて。寮で休息をとっていたナイダや他の生徒は突然現れた人型の影を見て敵意を剥き出しにしていた。
(これがタルタロスの……?私、いや、私達を狙っている?)
そう考えながら他の生徒や先生と共に中央に固まる。
「せいっ!」
帯剣していた生徒が影を切り裂く。ぐしゃりと地面に溶けるように影が落ちるが、一人倒してもそれを上回るペースで影が出てくる。
(ジリ貧。侵攻が終わった鈴の音が終わらない限りこれは湧き続ける!)
そう仮説を立ててナイダ自身も剣を抜こうとした時だった。
「ちょっと後ろに下がってね」
爽やかな声と共に横から槍の戦擊が影を襲う。その隙にはぐれていた人たちも合流する。
「……六学年首席、ニール先輩。ありがとうございます」
「やだな、一学年Sクラス首席のナイダちゃん。僕のことはニールでいいよ。それよりも……まだ来るよ」
彼が槍を回して構えると、上の学年の生徒が武器を構える。
(私、私ができることは……供給。武具の供給だけ!)
そう思いきって、自分の特異能力を隠している場合ではないと考えて叫ぶ。
「皆さん!私の特異能力は『武具生成』です!得物が無くなったら生み出します!だから……」
「それじゃあ、武器の供給は頼んだよ。ほら、可愛い一学年の決死の頼みだ。特異能力まで明かしたその覚悟に応えずして……何が先輩かっ!皆!」
「「応ッ!」」
その喝により影を切り裂いていく。ある者は剣で、ある者は槍で。ある者は篭手を付けて。武器が無くなれば叫ばれ、直ぐに供給する。
「使いやすいね。うん。彼女の武器は僕達一人一人に合わせてセットされたみたいに使いやすいッ!」
「あぁ!本当にこの篭手も使いやすいね!幾らだって殴り倒せそうだよ!」
そう言って戦闘は続いていく。
相手に攻撃させる前にこちらが先を取る。攻撃させたら負けだと考えて攻撃しようとした影から倒していく。
しかし皆夕方。疲労が濃くなっていく。
「うーん……厳しいね。まだ鈴の音は鳴らない。まだまだ続きそうだ」
「チッ、私も殴り続けるのが疲れてきたよ。ナイダちゃんよ、まだ武器は生み出せるのかい?」
そう不意に問いかけられて答える。
「は、はい。まだ全然生み出せます」
「なら済まないけれど、前線に出てくれないかな。ナイダちゃん、君の腕は買っているんだ。だからこの不甲斐ない先輩の代わりに……頼むよ」
「……いえ、今までよく戦ってくれました。私も前に出ます」
そう言って剣を持つと、その場から跳躍して影を真上から切り裂く。
「すまない、ね……」
「お、おい!大丈夫か!」
篭手を使っていた先輩が倒れる。身体全体に負荷をかけて殴り飛ばしていたのだ。仕方がない。後ろにいる先輩方が介護をしている。
「この場は持たせる」
「その意気だよ。ナイダちゃん」
ニール先輩にそう言われ、ふっと微笑んだ瞬間。
「……自分も協力するっ!」
数時間前に聞いた声が。寮の扉を強引に開いて。
光の剣が影の背後から襲いかかった。
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