秘密の警告
「いやぁ、いいもん見せてもらったよ。まさか頑なに模擬戦しようとしなかったナイダがいきなり魔術学院の生徒を引っ張ってくるとはね」
学院内の休憩スペースで、ミカゲ先生の奢りという事で武術学院のおやつを二人してモグモグと食べている。魔術学院は甘いのが多いが、武術学院は塩っぱいのが多い印象だった。その中から揚げ物を選んで買ってもらった。
「意外ですね。ナイダって強さに貪欲だから模擬戦結構やると思ってました」
そう言うとナイダは口に含んでいた揚げ物を飲み込むと、話す。
「実戦に持ち込むのに本の知識と鍛錬が必要だから、模擬戦をしなかった。今回はレテが偶然いたから付き合ってもらった」
「確かに両方大事だけど模擬戦でしか得られないモノもあると思うからさ〜ナイダはもっと他の子とも模擬戦してあげようぜぃ?ナイダとやりたがってる子結構いるんだぞ」
ナイダの話を聞くと、指を立てて軽く振りながらミカゲ先生が言う。確かに実戦でしか得られないものはあるだろう。
そう思いながら食べていると、唐突にミカゲ先生から無自覚な爆弾が投下された。
「んじゃちょっと面白い話でもするか。ラクザの襲撃事件の話だ」
「ラクザ……南方の港町。この前襲撃にあったって聞いた」
どこもかしこもこの話題である。仕方ないとは思いつつ、自分も気になりますとばかりに無言で視線を向ける。
「そうそう。そのラクザさ。話によると色んな救援が居たらしいが、色んなグループみたいなのがあったらしいぜ?」
「グループ?」
自分が聞く。それは初耳だ。フードの話なら散々皆に捏ねくり回されたけれど。
「そ。グループ。一つ目は正規兵……ラクザが抱えている兵のグループ。二つ目が救援に来た守護者様のグループ。三つ目がどこからか駆けつけたラクザを守る兵士。……と、まぁここまではいいんだが。イレギュラーが二つ入っているみたいでね。その一つはフードと呼ばれる流浪の旅人が一人で助けたって話。もう一つは君達……そう、丁度君たちみたいな小さい子が救援として活躍したって話だ」
「それは初耳ですね。……ナイダ、なんでこっちを見る?」
小さい子……つまりクラスメイトの活躍だろう。箝口令を敷いても届いたのか、フードの事で手一杯だったのか。どちらにせよその情報は正しい。
そして何故かナイダがその話を聞いた瞬間にこちらを見てくる。
「レテならやりかねないなって」
「……どうやってラクザまで駆けつけるんだよ……」
「気合い?」
「根性では無理だよ!?」
どうやらバレてはいないらしい。すっとぼけながらその様子をミカゲ先生が笑っていた。
「まあ確かに無理だね。偶然ちびっ子たちがラクザに集結して戦うなんて、御伽噺か何かと思うがそれで助かった人がいるならそれに越したことはないね」
「そうですね。助かれば御伽噺でも噂でも良いのです」
うんうん、と自分の言葉に頷くミカゲ先生を見ながらナイダを見る。
俯きながら、何かを悩んでいるかのように見える。
「……どうかした?」
その視線に気づいて、顔を上げてナイダが話しかけてくる。
「いや。なんだか悩んでいるように見えたからさ」
「……ラクザの救援は困難なはず。ちびっ子なら数を集めても尚更。そんな幼い兵士に私はなれるのかなって。少し考えていた」
その言葉に自分も悩む。確かにラクザの救援は間一髪、アグラタムの軍の援護がなければ全滅だった。だからちびっ子達だけで助けた訳では無いことを知っているがために余計考える。
「……そういえば、不穏な噂も聞いたね」
「不穏な噂?何それ」
考えている自分をよそに、ミカゲ先生が発した不穏な噂というワードに反応する。
「あぁ。何やらラクザを襲ったのは金目的じゃないらしいって事なんだ。どこからだったかな……私も噂をどこで聞いたか忘れたけど、目的は人。生贄にするための人だったって話だ」
「……!生贄……」
「生贄……」
驚くナイダと、考える自分。
(そうだ、どうして彼ら……というより影は生贄を必要とする?闇魔法か?いや、それにしては必要とした数が多すぎる。それにどこかへ移動させるようだった……何なんだ?アイツらは……)
考え込んでいる間に先生から声がかかる。
「Sクラス、というよりも恐らく狙われやすい主席二人が揃っているんだ。少しだけ聞いた話。……噂じゃない、聞いた話をするよ。秘密にしてくれるかい?」
「はい」
「勿論です」
そう言うと防音結界が貼られる。流石学院長である。
「……何やらその襲撃、それに前にあった列車の襲撃。それは同一犯による犯行らしいよ。近々恐らく王か守護者様から発表されるだろうけど、一足先に伝えておくよ。……敵はタルタロスって言っているらしい。それが何者なのかは分からないって事だ」
「タルタロス……」
「タルタロス……ですか」
二人して呟くと、ミカゲ先生が真剣な表情をして続ける。
「生贄……しかも二人とも幼いながら魔力が高いから狙われやすいはずだ。身の回りに気をつけてくれ」
そう言うと防音結界が解かれる。その直後に今度はナイダが爆弾を落とした。
「よく考えたらレテ、ラクザにいたね」
「えっ!?」
「それは初耳だね……大丈夫だったかい?」
しまった、というようにナイダが顔をごめんなさいの顔になる。
(あー……フードだ。フードの正体から居たことがバレたんだ……)
理由に納得しつつも、とりあえず口八丁で誤魔化す。
「大丈夫です。早々にその……フード?って呼ばれる人に保護してもらって。その後はラクザの屋敷で待機してました」
「へぇ!フードってあの流浪の旅人さんかい。どんな感じだったんだい?」
ここで真実を言うことで真実味が増す。……嘘とはそういうものだ。
「光魔法を使ってましたね。後、その名前の通りフードを被っていて……護衛に光の騎士を付けてくれて、自分もこんな騎士を顕現させたいなぁと思いました」
「ほへぇ。フードにまつわる噂は色々あるけどやっぱりフードを被っているんだねぇ」
そう言いながらナイダがマジでごめんとばかりにペコペコするように手を動かしているから大丈夫だってとばかりに丸を作った。
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